押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
『ジョン・ウィック』のガンアクションってどうですか? ガンアクションで唸った映画はありますか?<後編>
月2回連載
第145回
Q.
押井監督はガンマニアとしても名高いですが『ジョン・ウィック』シリーズ(14~)のガンアクションをどう評価されていますか? また、ガンアクションで唸った映画がありましたら教えてください。
── 前回に引き続き、ガンアクションについて語っていただいています。「唸ったガンアクション映画は?」という問いに対しては前回、「銃を扱った映画で唸ったのはガンアクションものではなかった」と仰っています。
押井 うん、私が好きなのは銃器独特の存在感が伝わってくる映画なので、殺陣は二の次になる。ガンアクション、観ている分には楽しいけど、自分でやりたいかというとそうでもない……そうなると、やっぱり私の場合は『戦争の犬たち』(80)になるかなあ。
── フレデリック・フォーサイスの原作を、ジョン・アーヴィンがクリストファー・ウォーケン主演で描いた作品ですね。ウォーケンが演じているのは南アフリカの独裁国家に潜入する傭兵。傭兵のわりには線が細いんだけど、その分、普通じゃない感じが伝わってくる。もしかして押井さん、冷蔵庫ですか?
押井 そうです。ウォーケンが自宅に帰り、冷蔵庫のドアを開けると自動拳銃が入っている。つまりそれは、銃が日常になっている男、銃をツールとして意識している男ということ。ここは本当に意表を突かれた。だから、こういう質問のときはやっぱり『戦争の犬たち』を挙げてしまう。冷蔵庫の中に置かれた自動拳銃、冷え切った銃って凄い存在感なの。色気さえも感じるから。ホント、これにはまいりましたよ。
ウォーケンが夜、帰宅するとテレビは消音状態でつけっぱなし。照明のスイッチを入れるまえに冷蔵庫を開けると自動拳銃。引き出しを開けてもそこに拳銃。そういう日常を生きている男ということが、何の説明もなしに分かる。
私は、冷蔵庫の冷え切った自動拳銃にいたく心を動かされ、自分の冷蔵庫にも入れていた。45口径のガバ(コルト・ガバメント)が装弾されて入っている。チャンバー(薬室)に弾を入れてセイフティをかけている。スプリングが傷むのでフルには(弾を)入れてないけど。もちろん、モデルガンですよ。引っ越しを契機にモデルガンはほとんど処分したけど、これは今でも冷蔵庫に入ってます。
── な、なるほど!
押井 銃の登場する映画でよかったというのはアクションじゃなくて銃の扱い方。単にかっこよく銃を撃っているという映画はたくさんあるけど、私が見ているのは銃を身近にあるツールとしていかに表現するか? 銃がもっている独特の存在感をどうやって見せるのか? そういう意味では『戦争の犬たち』以上の映画はないと思う。こういうのは基本、監督の考えることです。
── サム・ペキンパーはどうです? 銃が登場しない映画はないくらいだし、銃撃戦ではよくスローモーションを使っていましたよね。
押井 ペキンパーは銃に色気のある監督だったけど、基本はショットガンだから。ただ『ワイルドバンチ』(69)にはガバが登場していた。あのじいさんたちはアメリカ陸軍兵士の制服で偽装していて、メキシコでドイツ人の顧問に「なぜお前たちが自動拳銃を持っているんだ」と問われるシーンがある。アメリカ陸軍でしか許されてない銃だぞって、ちゃんと説明があるんです。そういうところに気を配る映画と配らない映画があるということだよね。
タイトルは忘れたけど、安藤昇の東映のヤクザ映画で、カチコミかけるときにヤクザたちが持っていた銃がMP40というドイツ軍の有名なサブマシンガンだった。これが何も考えてない映画の典型。日本のヤクザがなぜ大戦中のドイツ軍のサブマシンガンを持っているんだ。日本中探したって手に入らないぞ。そもそも弾すら入手できないだろうと突っ込みたくなる。
ヤクザが持つのならリボルバーか、自動拳銃ならトカレフとか。日本で手に入りそうな密輸銃を選ぶべきなの! まあ、日本でガンアクションをやろうとすると制約が多すぎて、ケレンを演出するまでにはいかないのが現実なんだけどさ。
※続きは無料のアプリ版でお読みください
取材・文:渡辺麻紀 撮影:源賀津己
質問はこちらのフォームからお寄せください!