押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
おススメのミステリ映画を教えてください<前編>
月2回連載
第150回
Q.
ミステリ映画が好きです。押井さんのおススメを教えてください!
── 今回はミステリ映画についてです。
押井 結論から言っちゃうと、「ミステリ映画に傑作なし」ということになるかな。
── でも押井さん、カーティス・ハンソンの『L.A.コンフィデンシャル』(97)、大好きだったのでは?
押井 あれはミステリとは呼ばないでしょ。『ユージュアル・サスペクツ』(95)はミステリに入るかもしれない。なぜなら仕掛けを楽しむ映画だから。『L.A.コンフィデンシャル』の方はいわば群像劇。ハリウッドのバックステージものでもある。
── 黒幕は誰なんだ?という要素もあるじゃないですか。
押井 ミステリではありますよ。でも、私がジャンル分けするなら警察小説に入れるかな。アメリカ映画のいいところを全部詰め込んだような映画だよね。何と言っても人間がみんな面白い。出世欲の塊のような刑事とか、役者のゴシップばかり追う刑事とか、暴力に暴力で返す刑事とか。でも、そういう男たちが事件を通して最後に変わる。『ベイブ』の父ちゃん(ジェームズ・クロムウェル)を除いて。彼は本性を隠して死んでしまうから。
殺しの犯人が映画にとっての犯人ではないという仕掛けになっているから、正統派のミステリとは言えないんですよ。事件が起こり犯人が判明するという話じゃないでしょ? どちらかというと、アメリカのあの時代(1950年代)の世相を丹念に描いた作品。アメリカで正義を貫くのはこんなに困難なんだ、ということが分かる映画です。大好きだけれど、ミステリとは言えない。
── ジェームズ・エルロイの原作をとても上手にアダプテーション(脚色)していて驚きました。とはいえ、エルロイの“L.A.4部作”のファンからすると、これじゃもう続編作れないじゃん!とは思いましたが。
押井 それは仕方ないです。そうやって腹をくくったからいい映画になったんです。
話をミステリに戻すと、ミステリというのはとても幅が狭いんだよ。警察もの、犯罪ものは厳密にいうとミステリじゃないから。言うまでもなくハードボイルドもミステリではない。私の知人で警察ものが大好きな人がいて、彼はエド・マクベインの『87分署』シリーズとか全部読んでいる。おそらく当人はミステリのつもりでは読んでなくて、明らかに警察小説として楽しんでいる。
警察小説とハードボイルドはアメリカが生んだ文学。アメリカは文学に関しては不思議とオリジナリティがある。私はハードボイルドが大好きで、とりわけダシール・ハメットは最高だと思っている。『マルタの鷹』を読んだときは本当にショックを受けた。超客観描写で感情的なことは一切書いてなかったから。めちゃくちゃかっこいいんですよ。
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己

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