押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
押井さんにとっての思い出のワーナー映画はありますか?
月2回連載
第152回
Q.
ワーナー・ブラザースが日本での洋画配給をやめてしまうそうです。洋画好きにとってはなかなかショッキングなニュースですが、押井さんにとっての思い出のワーナー映画はありますか?
── 今回はワーナー・ブラザースの日本ブランチがクローズになるニュースについてです。日本支社が設立されたのは1925年というので、ちょうど100年ですね。今年の大晦日に日本での劇場配給業務を終了することになりました。
押井 そうか、それは残念だねぇ。私もワーナーにはお世話になったから……。
── 最初のワーナー作品を覚えてますか?
押井 やっぱり子どものときに見たバックス・バニーですよ。ワーナーのロゴって鉄の盾みたいじゃない? 「これは何?」と初めて意識したのがバックス・バニーだった。そのとき「ワーナー・ブラザース」という名前を覚えたよね。
ワーナーはバックス・バニーを作る会社だと思っていたので、その他の映画も作っていることを知ったのはそれからしばらくしてから。とはいえ、私が好きなキャラクターはロード・ランナーと(ワイリー・)コヨーテの方。とりわけどう頑張っても報われないコヨーテが好きだった。
── ワーナーのアニメーションシリーズ、『ルーニー・テューンズ』ですね。コヨーテは毎回、ロード・ランナーを捕まえようとするのに失敗して酷い目にあう。とてもカートゥーンしているシリーズで、めちゃくちゃ動きが速い。しかも皮肉も邪悪さもたっぷりでした。
押井 そうそう。ロード・ランナーのスピード感はディズニーには絶対、再現できない。学校で見せられていたディズニーアニメーションとはえらい違いで驚いたんだから。
ワーナーはリミテッドアニメーションの良さがあるけど、ディズニーは最初の長編アニメーション『白雪姫』(37)のときからミュージカル仕立て。ミュージカルが苦手だったし、あらためて考えてみれば、私はディズニーのアニメーションじゃなくワーナーのカートゥーンで育ったんですよ。ディズニーは優等生という感じだったので、ちょっと毒のあるワーナーの方が好きだったということもある。
あとはカラスのふたり組が暴れる『ヘッケルとジャッケル』とか『ディック・トレイシー』とか。クセのある方が好きなんだよ。
さっき麻紀さんが言っていた、ディズニーアニメーションの最新作。何だったっけ?
── 『ズートピア2』ですか?
押井 真面目なウサギの警察官と、ならず者のキツネのバディものなんでしょ?
── そうです。謎解きに重きを置いているのがこのシリーズのいいところで、そこはちゃんと踏襲していたので嬉しかったですが、何か問題でも?
押井 いや、そういうところじゃなくて、バディになるそのふたりだよ。相変わらず同じようなことをやっているんだなと思ったわけ。
ある種の社会状況を描くのがディズニーなんですよ。『わんわん物語』(55)も女流階級のお嬢さん犬と野良犬のカップルでしょ。階級とか人種とか、絶えずアメリカのテーマを描いてきたのがディズニー。ディズニーはとても政治的なスタジオなんです。
── いや押井さん、ワーナーですよ。ワーナーはジェームズ・キャグニーなどのギャング映画から始まって、押井さんの大好きな『マルタの鷹』(41)などのハードボイルドもたくさん作ってますよ。同じジョン・ヒューストンの『黄金』(48)だってワーナーですよ。
押井 そうだった! だから私、かなりワーナーにお世話になったんだよ。ロスに行ってプロデューサーのジョエル・シルバーに会ったこともある。当時は『イノセンス』をハリウッドのスタジオで作ろうとしてたんで、20世紀FOXやらドリームワークス、そしてワーナーにも行ったの。FOXは工場みたいな感じで、ドリームワークスは学校かな。で、ワーナーは東映でした(笑)。最初がギャング映画というのはとても納得ですよ。
シルバーは典型的なプロデューサーという感じで、開口一番が「で、いくらかかるんだ?」だったからね。葉巻をくわえ、はだけたアロハシャツから胸毛が覗き、隣りには金髪でスタイル抜群の秘書という、まるで絵に描いたようなプロデューサーだった。
ワーナーには(クリント・)イーストウッドの事務所があるんで、その前まで行ったよ。本人はいなかったけど。
── ということは押井さん、関係深いじゃないですか。『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08)も、地下のうどん屋もあるし。
押井 そうです(笑)。私はワーナー(日本支社)の試写室があるビルの地下にあるうどん屋が大好きだったんだけど、もうなくなっちゃたよね。悲しかったですよ……。ということはさておき、もちろん『ブレードランナー』(82)もあるわけだから、自分のフェイバリットはワーナーが多いのかもしれない。
── 私もですよ。ヤワな映画やファミリーピクチャーとかはめったに作ってないのがワーナーですから。
押井 やっぱり東映だ(笑)。
選ばれたワーナー・ブラザース映画13作、押井さんが観たいのは!?
── 今回はワーナーの日本ブランチが閉まることを記念(?)して、13本のワーナー作品が東京と大阪、ふたつの劇場で上映されるんです。このラインナップで押井さんがもう一度、劇場で観たい映画は?
<ワーナー・ブラザース映画ファンフェスティバル>
■日程:2025年12月15日(月)~12月23日(火)
■東京:丸の内ピカデリー
12/15(月)『ダークナイト』(2008年公開) 152分
12/16(火)『マトリックス』(1999年公開) 130分
12/17(水)『IT/イット“それ”が見えたら終わり。』(2017年公開) 135分/R15+
12/18(木)『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年公開) 120分/R15+
※V8J プロデュースによる“応援上映”
12/19(金)『燃えよドラゴン 劇場公開版』(オリジナル版 1973年公開) 99分
12/19(金)『マイ・インターン』(2015年公開) 121分
12/20(土)『ハリー・ポッターと賢者の石(吹替版)』(2001年公開) 152分
12/20(土)『インセプション』(2010年公開) 148分
12/21(日)『グラン・トリノ』(2009年公開) 116分/PG12
12/21(日)『銀魂 実写版(2017年公開) 131分
12/22(月)『ブレードランナー ファイナル・カット』(オリジナル版
1982年公開) 117分
※上映前トークイベント予定/登壇ゲスト:戸田奈津子
12/23(火)『ボディガード』(1992年公開) 129分
※上映後トークイベント予定/登壇ゲスト:LiLiCo
12/23(火)『るろうに剣心』(2012年公開) 134分
■大阪:なんばパークスシネマ
12/15(月)『ハリー・ポッターと賢者の石(吹替版)』(2001年公開) 152分
12/16(火)『マイ・インターン』(2015年公開) 121分
12/17(水)『ブレードランナー ファイナル・カット』(オリジナル版 1982年公開) 117分
12/18(木)『ダークナイト』(2008年公開) 152分
12/19(金)『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年公開) 120分/R15+
12/19(金)『IT/イット“それ”が見えたら終わり。』(2017年公開) 135分/R15+
12/20(土)『燃えよドラゴン 劇場公開版』(オリジナル版 1973年公開) 99分
12/20(土)『インセプション』(2010年公開) 148分
12/21(日)『銀魂 実写版』(2017年公開) 131分
12/22(月)『グラン・トリノ』(2009年公開) 116分/PG12
12/22(月)『マトリックス』(1999年公開) 130分
12/23(火)『ボディガード』(1992年公開) 129分
12/23(火)『るろうに剣心』(2012年公開) 134分
■イベント詳細サイト:
https://www.warnerbros.co.jp/movie/pqwrirxau
押井 言うまでもなく『ブレードランナー』(82/上映されるのはファイナル・カット版)ですよ。もう断トツ。スクリーンで観る機会を逃すべきではない映画といえば、これです。若い人はちゃんと劇場で観てない人が多いんじゃないの? そもそも日本での初公開のときは3週間で打ち切りだったと聞いているし。
『燃えよドラゴン』(73)は劇場でもう10回は観てるからいいとして、『インセプション』(10)、『ダークナイト』(08)の(クリストファー・)ノーラン映画も劇場で楽しむべきだよね。ジョージ・ミラーの『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)も劇場がいいけど、この映画は大きなスクリーンというより音響のいいところで観たいと思う……とはいえ、私が一番好きなミラーの映画は『ベイブ』(95)なんだけどさ(笑)。
── それは意外なような、意外でないような……。
※『ベイブ』はワーナー作品ではありません
押井 『ベイブ』のピンクのTシャツを買うためだけにユニバーサルスタジオに行ったくらいですよ。ブタのベイブはもちろん、イヌもヒツジもニワトリもよかった。運命を変える、切り拓くというのは欧米的な価値観でそんなに好きでもないんだけど、ベイブの健気さが好きなんだよ。
── 押井さん、分かります! ベイブってブタのくせして礼儀正しいんですよね。「Excuse Me Sir」とか「I bec Your Pardon?」とか。声もかわいくって大好きでした。
押井 やっぱり和むよね。あのおじさん、『L.A.コンフィデンシャル』(98)とかに出ていたけど、名前は覚えてなくて、“ベイブの父ちゃん”だからね。
── それも分かります! 名前はジェームズ・クロムウェルですが、私もつい“ベイブのおじさん”と言ちゃいますね……いや、『ベイブ』じゃなくてワーナーですよ、押井さん!
押井 はいはい。このリストだと、『銀魂 実写版』(17)、『るろうに剣心』(12)、『マイ・インターン』(15)を観てないけど、あとは観てる。でも、やっぱり『ブレードランナー』。これに尽きます! これでどう?
── いや押井さん、先ほどワーナーがNetflixに買収されたというニュースが飛び込んできました! パラマントというウワサもあったんですが……どうなるのか、着地点が見えたらまたお話してください!
押井 何それ? Netflix!?
── はい、なんでまたお願いします!
取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
『押井守の人生のツボ2.0』
東京ニュース通信社
1760円(税込) 発売中
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