押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
“立喰師”の映画をまた作る予定はありますか?
月2回連載
第161回
Q.
再び“立喰師”の映画を作る予定はありませんか? 外食産業がどんどん窮地に追い込まれている昨今、外食、および外食産業の片隅で生きている立喰師たちの悲哀はドラマとして成立しうるような気がします。ちなみに、押井監督のお好きな立食い蕎麦のネタは何でしょうか? 私はゲソ天と、水戸駅5番線ホームの唐揚げが好きです。もちろん、お代はちゃんと払っています!
── 今回は“立喰師”に関する質問です。
押井 ゲソ天……蕎麦のネタとしてはあまり聞いたことがないなあ。私の好きなネタはダントツでかき揚げ。オールマイティです。エビ入りとかの凝ったのじゃなく、ごくごく普通のかき揚げ。それを天地返しで食べる。
天地返しというのは、麺とかき揚げをひっくり返すこと。上に乗せられたかき揚げを麺の下に移動させるんです。二郎系ラーメンの食べ方のひとつとして普及した感があるけど、実は以前から立ち食い蕎麦ではあった食べ方なんだよ。
立食い蕎麦のかき揚げは、普通の蕎麦屋のそれとは違うんです。蕎麦屋で天ぷらといえばエビの天ぷら。立食い蕎麦で天ぷらといえば98%はかき揚げのこと。かき揚げは野菜を寄せて丸く揚げているだけで、元々は形がない。だから、汁を吸わせてホヨホヨにして食べるのが正しいと、私は思っている。ちなみに私はネギ抜き派です。立食い蕎麦にネギは合わないと思っているから。
いつも私が行っていた立食い蕎麦には代々申し送りがあった。おばさんが次のおばさんに代わるとき、「この人はネギ抜きだから」って。とはいえ、もうそのおばさんも中国人ばかりになっちゃって、申し送りも途絶えちゃったけどさ。
── なるほど! で、もうひとつの質問は『立喰師列伝』のような映画をまた作る予定はあるのか?ということですが。
押井 予定はありますよ……心の中に、だけど(笑)。なので、実際にはありません。
── 「立食い蕎麦存亡の危機」については?
押井 この質問者が言っている、今の時代における立喰師の悲哀というのはアリだと思うよ。コロナ禍で外食産業は様変わりして、立食い蕎麦も存亡の危機に陥っていると思う。随分、少なくなっちゃったからね。
それに、立食い蕎麦はファストフードのジャンルの中では少々お高いんですよ、昔から。マック(マクドナルド)が100円くらいの時代、かき揚げそばは300円ほどだったし、今はおそらくカケでも500円以上はすると思う。蕎麦自体、安くはない食材なんです。
だからなのか、若い子は立ち寄らなくて、女性も少ない。いてもばあちゃんだよね。立食い蕎麦店でもテーブル席がある店では、老夫婦が椅子に座って食べている姿を目にすることがある。いい光景ですよ。
今は普通の蕎麦屋も高くなって1000円以下じゃ食べられないからね。ちょっとオプションを付けただけで1300円、1500円の時代になっちゃった。蕎麦に限らず、飲食産業自体が構造改革の時期に来てるんだと思うよ。ファストフード自体が安い食べ物じゃなくなったわけだし。
── そうですね。じゃあ押井さん、もし「好きなもの、何でも撮っていい」と言われたら何を選びます?
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
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