押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

「夢をあきらめるな」とよく言われますが、引き際を迷っています<後編>

月2回連載

第165回

Q.
「夢をあきらめるな」という言葉が世の中には溢れていますが、監督は以前、夢や理想を“呪い”のようなものだと表現されていたと記憶しています。私は今、追い続けていた目標が、自分の能力に見合ってないのではないかと感じ、引き際を迷っています。監督が考える“潔い撤退”と“単なる逃げ”の境界線はどこにありますか? また、夢という呪いから解き放たれた後の人生を、どう楽しめばいいのでしょうか?

──引き続き「夢は呪縛そのもの」というお話です。押井さんは前回、幻想で成り立っているこの世の中で、その幻想から抜け出せばリアルな夢が見えてくるとおっしゃっています。そして今回は、そんな夢で悩んでいる質問者におススメしたい映画があるそうなのですが、その映画とは何でしょう、押井さん。

押井 ロバート・アルドリッチの映画ですよ。彼の映画こそが人生の教科書と言ってもいい。

──ということは『特攻大作戦』(67)とか『北国の帝王』(73)とか?

押井 そうです。過酷な現実が立ちはだかる中で、膝を屈することもなく、どうやってだまくらかして自分の想いを遂げるのか? つまり、その劣悪な状況下で、いかにして自分のテーマを貫くか? アルドリッチは、そういう人生の教科書のような映画を生涯を通して撮り続けた監督なんだよ。

刑務所に入ったことは敗北ではない。囚人である自分を認めた時点から現実に敗北する――『ロンゲスト・ヤード』(74)ですよ。要は自分が自分であるプライドをどこで維持するかということ。『燃える戦場』(70)なんて最高じゃない? 健さん(高倉健)の最初のハリウッド映画でもあるからぜひ観てほしいよね。これをスピルバーグの『プライベート・ライアン』(98)と観比べてみてよ。どちらが人生に役立つ映画だと思う?

『ロンゲスト・ヤード』予告編

──『プライベート・ライアン』です。

押井 麻紀さん、何言っているの!『プライベート・ライアン』の最大の欠点は、そもそも設定にあるんだよ。戦火の中、なぜライアン二等兵を探さなきゃいけないわけ? 複数の息子が戦死した母親のもとに、生き残った最後の息子であるライアンを届けるというのは確かに政治的には正しい。しかし、それだけの理由でトム・ハンクスが自分の分隊の命をかける意味はあるのか? しかもマットくん(ライアン役のマット・デイモン)は「オレだけ帰国するなんてできない。仲間は戦っているのに!」って。そりゃそうでしょ。どう考えてもヘンですよ。

『プライベート・ライアン』予告編

彼を探して帰国させる任務のためハンクスは、自分の部下たちがバタバタと死んでいくにもかかわらず、それを遂行しようとする。これはどう考えてもおかしい任務。もっと賢いやり方があるんじゃないかって思わないんだろうかって。人間の頭はそういうときに使うもの。そのためにヘルメットで守っているんだから! 私がこのハンクスさんに言いたいのは、戦場でゴロゴロしてればいいってこと。誰も見てないとできるじゃないの! それが『燃える戦場』ですよ。

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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己

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