押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
主人公がボロボロ状態になるおススメ映画を教えてください
月2回連載
第167回
Q.
私はアクション映画で主人公が敵の攻撃でボロボロになるところが好きです。アクション映画のスターはそうなっているだけでかっこいいし、応援したくなります。復活するときも瀕死状態だからこそかっこいいんだと思います。押井さんはイングラムも素子の義体も壊した監督ですが、そういった主人公のボロボロ状態が観られるおススメ映画があれば教えてください!
── 今回は主人公がボロボロになる映画を教えてくださいという方です。
押井 「ボロボロ映画」って、個人的に好きなのは砂漠脱出ものかな。アンドレ・カイヤットの『眼には眼を』(57)がその先駆け。あれが無数のミームを生み出したよね。
── イランの小さな町が舞台で、妻の死は、白人の医師が診察を拒否したからだと決めつけたイラン人の男が執拗なまでにその医師を追い詰める話ですね。医師には落ち度がないんだけど、そう決めつけちゃって砂漠に彼を連れ出し殺そうとする。いやあ、このイラン人のおっさんが怖すぎて……誰も幸せにならない映画でした。
押井 かつての植民地で繰り広げられる白人VS現地人の駆け引きですよ。たとえ自分が死んでもこうと決めた相手をとことん追い詰め死に至らしめるという物語。背景にヨーロッパの植民地政策があるから文化的なメタファーを込めた映画になっている。
カイヤットは確か、弁護士出身の変わり種で、善か悪かを問いかけるような映画を撮っている。その中でも文化と民族の違いが浮き彫りになった『眼には眼を』は面白かったし怖かった。文芸的にいうと、人間の純然たる悪意だよね。この映画が砂漠脱出映画の元祖です。
あとはやっぱり(ロバート・)アルドリッチの『飛べ!フェニックス』(65)じゃない? サハラ砂漠に不時着した貨物飛行機クルーの脱出作戦。飛行機の設計技師がひとり乗っていて、彼が双発機を単発機に改造すれば飛べるとアイデアを出し、みんなが働き始めるんだけど、何と彼はホンモノではなく模型飛行機の設計者だったというのがミソ。その事実を知ったキャプテン、確かジェームズ・スチュアートだったと思うけど、彼が落胆すると「模型かホンモノかは聞かれてないから」みたいなことを涼しい顔で言う。彼にとってはどちらも同じだという感じがすごくいい。このヒネリが秀逸!
── ドイツ人という設定がそのヒネリに説得力をプラスしていました。ハーディ・クリューガーが演じてましたよね。
押井 そうそう。確か3つの選択肢があったんじゃない? ひとつはその飛行機の改造、もうひとつはそこに留まって救助を待つ、そして3つめはアラブ人に助けを求める。確かスチュアートは、クリューガーが模型飛行機の設計者ということをみんなには言わない選択をする。今さら言ってもみんなを落胆させるだけだからというアメリカ的な合理主義ですよ。これはアルドリッチの大傑作。後にリメイクされて、そっちも観たけど遠く及ばなかった。
── でも押井さん、『眼には眼を』も『飛べ!フェニックス』もアクション映画的なボロボロじゃないですよ。
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取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
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