川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』
女性の髪の話。成瀬巳喜男監督の『おかあさん』から…美容院の始まり、『細雪』…最後は高峰秀子が美容師を演じた『女の歴史』につながりました。
隔週連載
第49回
女の子が髪を切る。
日本映画で、この場面が印象的なのは、なんといっても成瀬巳喜男監督の『おかあさん』(1952年)だろう。
大田区の蒲田あたり(と思われる)に住むクリーニング店一家の物語。
母親、田中絹代の妹、中北千枝子は満州からの引揚者。夫は戦死した。いわゆる戦争未亡人。小さい男の子(当時の名子役、伊東隆)を姉の家に預け、美容師の資格を取るために修行中。
ある時、髪を切る練習をするために、姉の家の次女、小学生の女の子(榎並啓子)の髪を切らせてもらうことになる。
女の子は、おしゃれで長い髪を大事にしているので、嫌がるが、母親に「叔母さんは戦争で苦労しているんだから、役に立ってあげなさい」といわれ、髪を切られる。
でも、やはり悲しい。鏡に映る短くなった髪を見て、姉の香川京子の前で「リボンが結べなくなっちゃった」とべそをかくのが、愛らしい。まだ小学生でも、女の子。髪の毛はやはり“女の命”だった。