川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』
『決闘コマンチ砦』の話から…『捜索者』『地獄の黙示録』『ディア・ハンター』、ロシアン・ルーレット…最後は女の殺し屋たちの話につながりました。
隔週連載
第51回

ランドルフ・スコット主演の『決闘コマンチ砦』(1962年)は、妻を先住民族にさらわれた男が主人公になる。
西部開拓期には、実際に白人の女性や子供が先住民族にさらわれる例は多く、西部劇はそれを反映している。
このジャンルの代表作といえば、言うまでもなくジョン・フォード監督の『捜索者』(1956年)。ジョン・ウェイン演じる南軍の元兵士が数年ぶりに故郷のテキサスに戻ってくると、二人の幼ない姪がコマンチ族にさらわれたことを知る。そして、奪還の旅に出る。
アメリカの映画評論家スチュアート・バイロンによると『捜索者』はその後のアメリカ映画に大きな影響を与えているという。つまり、異国に消えた同胞を捜索するというテーマである。
コッポラの『地獄の黙示録』(1979年)がそのひとつで、東南アジアのジャングルの“闇の奥”に消えたマーロン・ブランドを同胞のマーティン・シーンが探しに行く物語。
同様にマイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』(1978年)も、やはり『捜索者』のテーマを受継いでいて、サイゴンの魔窟に沈んだクリストファー・ウォーケンを、親友のロバート・デ・ニーロがなんとか救い出そうとする物語。
ベトナム戦争を戦ったアメリカにとっては、東南アジアのベトナムは、西部開拓史における先住民族の地と同じ“異界”だった。そこから『捜索者』の物語がよみがえった。
余談だが、『ディア・ハンター』のクリストファー・ウォーケンは素晴しく、当時、日本でこの映画をきっかけで彼のファン・クラブが作られた。私が会長を務めた。