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川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』

『リトル・ロマンス』のダイアン・レインが読んでいたハイデガーの本の話から…ハンナ・アーレント、名門高級誌『ニューヨーカー』、ウディ・アレン…、最後は映画のなかのハーモニカの話につながりました。

隔週連載

第53回

 『リトル・ロマンス』のダイアン・レイン演じる13歳の女の子は、頭のいい早熟な子どもで13歳にしてなんと『存在と時間』で知られる現代ドイツの実存主義哲学者マルティン・ハイデガー(1889-1976)の本を読んでいる。凄い。
 ハイデガーと言えば、マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の『ハンナ・アーレント』(2012年)に登場する。
 ハンナ・アーレント(1906-1975)が若き日、大学で学んだ恩師であり、恋愛関係になった。
 しかし、ハイデガーはナチスが権力を握ると、公然とヒトラーを支持、ナチス党に入党した。一方、ハンナはユダヤ人でフランスに亡命したが、ナチス占領時代、フランスの強制収容所に入れられた。
 その後、脱出し、アメリカに亡命した。『ハンナ・アーレント』ではそんなハンナ(バルバラ・スコヴァ)とハイデガー(クラウス・ポール)の複雑な関係が描かれている。
 『ハンナ・アーレント』は、ハンナの生涯のうち、1961年にイスラエルで行なわれたアドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴したハンナが、その印象記を書くことに焦点を絞っている。
 原稿を発表する雑誌はアメリカの名門高級誌『ニューヨーカー』。ハンナの文章は、アイヒマンを擁護していると誤読され、批判を浴びたが、編集長のウィリアム・ショーン(映画では、ニコラス・ウッドソン)はハンナを擁護した。
 ショーンは名編集長で、編集長時代にジョン・ハーシーの『ヒロシマ』、トルーマン・カポーティーの『冷血』、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』など20世紀に書かれた重要な作品を掲載している。