川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』
映画のなかのハーモニカ。『幻の馬』『野良犬』『マダムと女房』…ハーモニカ工場を舞台にした『明日をつくる少女』『涙』など。戦後すぐの時代、ハーモニカはもっとも手頃な楽器だった。
隔週連載
第54回
洋画だけではなく、日本映画にもよくハーモニカが登場する。まだ世の中が豊かではなかった時代、ハーモニカはもっとも手頃な楽器だったからだろう。
子供の頃に観た大映の児童映画、競馬の競走馬を育てる青森県八戸市の牧場一家を描いた若尾文子主演、島耕二監督の『幻の馬』(1955年)では、若尾文子の弟の次郎という少年がハーモニカ好き。
子馬が生まれると子守歌がわりによくハーモニカを吹く。その音色に励まされるように子馬は成長して、ダービーに出馬することになる。ところがレースの前に病気になる。心配した次郎は東京に行き、馬にハーモニカを吹いて聞かせる。馬はそれで元気になり、みごと優勝する。
しかし、無理がたたってレース後に死んでしまう。大映の社長、永田雅一がオーナーだったトキノミノルがモデル。競馬史上のレジェンドで、府中競馬場にはその銅像がある。