川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』

楽器の町、浜松を舞台にした映画の話から、中田島砂丘のロケ撮影、『砂の器』、食堂車…、最後はデモ隊が歌っている労働歌の話につながりました。

隔週連載

第55回

 川頭義郎監督の『涙』は、楽器の町、浜松を舞台にしている。
 日本で砂丘というと鳥取の砂丘が有名だが、もうひとつ、この浜松市の海岸沿いにある中田島砂丘も知られる。
 『涙』ではハーモニカ工場で働く若尾文子が、同じ工場で働く石浜朗と愛し合いながらも、家の事情で結婚をあきらめる。最後に二人が会う場所が中田島砂丘。
 他に人の姿の見えない砂丘でパラソルをさした若尾文子が、石浜朗に別れを告げ場面は切なく、哀しい。
 浜松といえば、木下恵介監督の故郷。第一回作品、昭和18年の『花咲く港』(1943年)をここでロケしている(九州の天草でも)。
 若き日の木下惠介を描いた『はじまりのみち』(2013年、原恵一監督)には、木下監督(加瀬亮)が中田島砂丘でロケする場面がある。
 川頭義郎は木下惠介に師事した。そのためもあって『涙』に、木下監督ゆかりの中田島砂丘の場面を取り入れたのだろう。