川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』

刑期を終えた健さんがうまそうに飲むサッポロ「赤星」の話から、鉄道模型が好き、コイン遊び、けん玉好き…"遊び好きなギャング"たち。最後は『狼は天使の匂い』の話につながりました。

隔週連載

第56回

 山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)の高倉健は、酔った末の喧嘩で人を殺してしまい、網走刑務所に服役していた。
 刑期を終えてようやく出所したところから物語が始まる。刑務所を出た高倉健が、まず何をするか。
 刑務所の前に大衆食堂がある。そこに入ると、まずビールを注文する。そのあと品書きをざっと見て、「醤油ラーメンとカツ丼」。
 ビールがくる。瓶ビール。それをコップでうまそうに飲む。何年ぶりかのビールがいかにもうまそう。
 このビールは、東京ではあまり見ないが、北海道では定番のサッポロのラガー。赤い星のマークが付いているので通称「赤星」。
 拙著の映画化、向井康介脚本、山下敦弘監督の『マイ・バック・ページ』(2011年)のラストで妻夫木聡演じる主人公が横丁の居酒屋で一人、飲むビールがこの「赤星」だった。