川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』
シンシン刑務所や40年代のニューヨークにロケした『死の接吻』の話から…高架鉄道、『12人の怒れる男』…最後は『フレンチ・コネクション』につながりました。
隔週連載
第63回
『ティファニーで朝食を』(61年)でオードリー・ヘプバーンが訪れたシンシン刑務所はマンハッタンの北、ハドソン川沿いにある。
1940年代のサスペンス映画の傑作、ヘンリー・ハサウェイ監督の『死の接吻』(47年)では、宝石店強盗に失敗して逮捕されたヴィクター・マチュアが、この刑務所に送られる。
マンハッタンから郊外に向かう列車に手錠をはめたままで乗せられる。列車はハドソン川沿いを北上する。やがて線路に沿って灰色の大きなシンシン刑務所が姿を現わす。『ティファニーで朝食を』と違って実際にロケされている。
映画を見る限り、この刑務所、きれいで設備もいい。驚くに足る場面がある。入所中にヴィクター・マチュアは、囚人仲間から妻が生活苦から自殺したと聞く。
驚いたマチュアは、事実かどうか確認するために、刑務所内にある図書室に行く。この図書室が刑務所内とは思えないほど広く、清潔。マチュアはここで、新聞の縮刷版を見て、妻の死亡を記事で確認する。刑務所の図書室が新聞の縮刷版まで揃えているとは。
『死の接吻』は、冒頭に「この映画ではすべての場面がニューヨーク市内で撮影された」と誇らし気にクレジットが出る。当時、スタジオではなく実際に大都市でロケして作られる、いわゆるセミ・ドキュメンタリー映画が増えていた。
ジュールス・ダッシン監督の『裸の町』(48年)がニューヨークでのオールロケ作品として名高く、映画史に残っているが、『死の接吻』はそれに先立っている。
ヘンリー・ハサウェイ監督は西部劇ファンには『悪の花園』(54年)『向う見ずの男』(58年)『ネバタ・スミス』(66年)などで知られるが、それ以前には『死の接吻』をはじめ、『Gメン対間諜』(45年)『出獄』(48年)などのセミ・ドキュメンタリーの犯罪映画を得意としていた。