川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』
『ローマの休日』に流れたクラシックの名曲から…リスト、山田耕筰…、最後は『寅次郎夕焼け小焼け』につながりました。
隔週連載
第35回
『ローマの休日』には、ある場面に気になるクラシックの曲が流れる。といってもラジオから聞えてくるのでなかなかそれと分からない。だからいっそうなんの曲か気になる。
どの場面か。王女オードリー・ヘプバーンがアメリカの新聞記者グレゴリー・ペックとローマの町を見物してまわる。夜、ダンス・パーティーの会場で、王女を連れ戻そうとするシークレット・サーヴィスと大立回りになる。
そのあと。二人はグレゴリー・ペックのアパートの部屋に戻る。この場面で、部屋のラジオからクラシックの曲が流れる。
ずっと気になっていた。何度かビデオで観ているうちにやっと分った。リストの『巡礼の年』のなかの『ゴンドラを漕ぐ女』。イタリアを訪問中の王女にふさわしい。
この曲が『ローマの休日』で流れることに気づいた人は、これまでいなかったと思う。知る限り、誰も指摘していない。