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川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』

黒澤明監督『天国と地獄』の話から、江ノ電、『海街diary』…、最後は森田芳光監督『僕達急行 A列車で行こう』につながりました。

隔週連載

第38回

 黒澤明監督の『天国と地獄』では、鉄道が重要な役割を果す。
 ひとつはよく知られているように、東海道本線の特急「こだま」。ここのトイレの窓がわずかに開くことを犯人(山崎努)は知っていて、その指示に従い、ここから製靴会社の重役(三船敏郎)は、身代金三千万円を入れたカバンを外へ投げ落とす。
 『天国と地獄』は1963年の公開作品。翌年、東京オリンピックがあり、東海道新幹線が開通する。従って『天国と地獄』は最後の特急「こだま」をとらえたことになる。
 『天国と地獄』でもうひとつ重要な役割を果す鉄道は、江ノ島電鉄。通称、江ノ電。明治四十五年の開業。
 誘拐犯人を追う刑事の一人(木村功)が、犯人からの電話を録音したテープを何度も聴くうちに、公衆電話の向うで電車の音らしきものがかすかに聴こえるのに気づく。この電車はどこか。
 それが分かれば、犯人の手がかりがつかめる。刑事、木村功はテープレコーダーを持って、横浜駅(シナリオによる)に行き、鉄道に詳しい国鉄の職員たちに、録音を聴いてもらう。
 職員の一人(東宝の名傍役、沢村いき雄)がそれを聴いてすぐに江ノ電だと気づく。
 「あのチチーッって音は、パンタグラフの音じゃない。旧式のポールが架線にすれて出る音ですよ。今時、ポールで走ってるのは、この辺じゃ江ノ電くらいのもんでさあ」
 この証言を手がかりに、刑事たちは江ノ電の沿線を捜査してゆく。ちなみに江ノ電は、現在はパンタグラフになっている。