川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』
山田洋次監督『遥かなる山の呼び声』の話から…空中撮影と『張込み』、釧路を舞台にした映画…最後は原田康子原作『挽歌』につながりました。
隔週連載
第45回

山田洋次監督『遥かなる山の呼び声』(1980年)の高倉健は最後、逮捕され、釧路の裁判所で判決を言い渡されると、網走刑務所へと列車で護送されてゆく。
途中の駅で、気のいい土地の男、ハナ肇が、高倉健を慕う女性、倍賞千恵子と列車に乗り込む。ハナ肇の機転で、二人の刑事に監視されている高倉健の隣のボックスに座った二人は、高倉健に聞えるように、大声で話し、彼女が、ずっと彼を待っているつもりだとメッセージを送る。それを聞いた高倉健が思わず泣く。
この映画の名場面だろう。前回、書いたようにこの場面は、アンリ・コルピ監督の『かくも長き不在』(1961年)にアイデアを得ているのではないかと想像している。
泣く高倉健を見て、隣のボックスから近づいた倍賞千恵子が、刑事たちの許可を得て、ハンカチを渡す。映画史上最高のラブシーンのひとつといっても大仰ではないだろう。