池上彰の 映画で世界がわかる!
『ミッドウェイ』―太平洋戦争で日米の勝敗を分けたもの
毎月連載
第27回

今年は太平洋戦争が終わって75年。それだけの月日が経っても、この戦争をテーマにした映画は日米ともに作られ続けています。
日本ですと、圧倒的な勝利を描く真珠湾攻撃と悲劇の戦艦大和の撃沈が、しばしば描かれるテーマです。
一方、アメリカは屈辱の真珠湾と反転攻勢のきっかけとなったミッドウェイ海戦が人気のテーマ。そこで今回もミッドウェイ海戦が描かれたのですが、この海戦は情報戦でもあり、情報戦でアメリカ軍が勝利したのです。
日本軍が真珠湾を攻撃した理由とは?
日本はなぜアメリカと戦うことになったのか。意外に理由を知らない人が多いので、簡単におさらいしておきましょう。
それまで日中戦争を戦っていた日本に対し、アメリカは経済制裁に乗り出し、石油の輸出を止めます。実は日本は日中戦争を戦うための燃料の石油をアメリカに頼っていたのです。中東で石油が見つかり、大々的に採掘が始まるのは戦後のこと。当時の産油国といえば、アメリカでありオランダの植民地だったインドネシアだったのです。
アメリカから石油が入って来なければ万事休す。焦った日本は、インドネシアの油田を狙います。
インドネシアを攻撃して占領すれば、オランダの同盟国であるイギリスが、シンガポールのイギリス軍基地から救援に駆け付けるだろう。日本軍としてはインドネシア攻撃に当たって、シンガポールを占領しなければならない。
しかし、イギリス軍を攻撃すれば、今度はハワイ真珠湾のアメリカ海軍の艦隊がイギリス支援のために出てくるだろう。その前に壊滅させておこう。これが、日本軍が真珠湾を攻撃した理由です。
日本は真珠湾を攻撃する前にアメリカに対して宣戦布告する予定でしたが、駐米大使館による暗号解読が間に合わず、奇襲攻撃の形になってしまいます。
真珠湾攻撃を受けて高まるアメリカの戦意
これに怒ったアメリカ国民の戦意は高揚し、「リメンバー・パールハーバー」(真珠湾を忘れるな)を合言葉に反攻作戦を立てます。その最初の一撃が、ドゥーリトル攻撃隊による日本本土空襲です。予期せぬアメリカ軍の攻撃に慌てる日本。昼食中の天皇を慌てて防空壕に避難させるシーンが登場します。
天皇を危険な目に遭わせるところだった。面子丸つぶれの日本軍は、ミッドウェイのアメリカ軍攻撃を計画します。
アメリカは日本軍が大規模な攻撃を計画していることを掴みますが、攻撃目標がどこか確認できません。日本軍の暗号をある程度解読し、暗号名「AF」が攻撃地点であることがわかりますが、肝心のAFはどこなのか。そこでアメリカは一計を案じ、日本軍をだますことに成功します。これはミッドウェイ海戦の帰趨を制した有名なエピソードですが、ネタバレにならないように、具体的な話はしないでおきましょう。
この計略で日本軍の攻撃目標がミッドウェイだと知ったアメリカは、なけなしの海軍戦力をかき集めて日本軍の襲来に備えます。
太平洋戦争の分水嶺となった「ミッドウェイ」
ここで、今度は日米の指揮官の判断力の違いが露呈します。
当初、日本軍はミッドウェイの陸上基地を攻撃するため爆撃機に地上攻撃用の爆弾を搭載していましたが、アメリカ海軍の空母がいることを知り、急きょ、爆弾を魚雷に付け替えようとします。しかし、それには時間がかかります。
空母内では陸上攻撃用の爆弾と魚雷が入り乱れるという危険な状態になったところに、アメリカの攻撃部隊が襲い掛かります。
真珠湾攻撃の緒戦で勝ち続けていた日本軍は、ミッドウェイ海戦で空母4隻を失い、搭載していた爆撃機と戦闘機合わせて285機を失います。
ベテランパイロットも多数失い、日本軍は、爆弾を投下したり魚雷を放ったりする技量のパイロット不足に陥り、自ら敵に突っ込んでいくという特攻隊を生み出します。太平洋戦争の分水嶺。それが「ミッドウェイ」なのです。
掲載写真:『ミッドウェイ』
(C)2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved.
『ミッドウェイ』
9月11日(金) TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
配給:キノフィルムズ/木下グループ
監督・制作:ローランド・エメリッヒ
脚本:ウェス・トゥーク
製作:ハラルド・クローサー
出演:エド・スクライン/パトリック・ウィルソン/ルーク・エヴァンス/豊川悦司/浅野忠信/國村隼/マンディ・ムーア/デニス・クエイド/ウディ・ハレルソン
プロフィール
池上 彰(いけがみ・あきら)
1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京工業大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。