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池上彰の 映画で世界がわかる!

『教皇選挙』──ローマ教皇とは、どんな存在なのか?

毎月連載

第81回

『教皇選挙』

カトリックの最高位であるローマ教皇は肺炎で入院中です。世界中の信者が心配して回復を祈っていますが、このタイミングで公開されるのは、偶然とはいえ不謹慎になってしまいそうですが、映画を観る人は増えそうです。 映画は、ローマ教皇が突然亡くなったところから始まります。教皇が亡くなると、後任を選ばなければなりません。候補の資格があるのは世界各地にいる約100人の枢機卿です。彼らがローマ市内にあるバチカンに集まり、システィーナ礼拝堂に入って投票で後継者を選びます。これは「コンクラーベ」と呼ばれます。決定に時間がかかって「根比べ」などとダジャレになります。 これは、もともとラテン語で「鍵がかかった」という意味です。13世紀、教皇がなかなか決まらないことに業を煮やした信者たちが決定するまで外に出るなと枢機卿たちを会場に閉じ込め、外から鍵をかけたという故事からきています。

『教皇選挙』

では、ローマ教皇とは、どんな存在なのか。 ローマ教皇は、イエス・キリストの一番弟子だったペトロの後継者という位置づけです。キリストの一番弟子の地位を引き継ぎ、世界に14億人ともいわれるカトリック教徒の最高指導者です。 イエスは十字架にかけられる前、弟子のひとりをペトロ(岩)と名付け、「岩の上に私の教会を建てよう」と語ったとされています(『マタイによる福音書』)。ここから、ペトロがイエスの一番弟子とされました。 ペトロはイエス亡き後、ローマに布教に赴いて非業の死を遂げます。そのペトロの墓とされる場所の上に建設されたのが、バチカンの「サンピエトロ大聖堂」です。「サンピエトロ」とは「聖ペトロ」のことです。 教皇はローマ市内にあるバチカン市国の国家元首でもあります。バチカン市国は、政教一致。つまりローマ教皇は、立法・行政・司法のいずれでもトップなのです。

『教皇選挙』

カトリックの聖職者は神に仕える身ではありますが、生身の人間のこと。人間臭いことも起きます。教皇の下に枢機卿、その下に大司教、司教、司祭、助祭という階級社会で、権力闘争がつきものです。この映画はフィクションですが、いかにもありそうな光景が繰り広げられます。 独身男性ばかりのカトリック教会では、各地で神父による少年に対する性的虐待事件も発覚して問題になったこともあります。  ちなみに神父というのはカトリックで、プロテスタントは牧師ですので、お間違いなく。 新しく教皇に選ばれると、自分で決めた教皇名を名乗ります。映画の中でも「もし教皇になったなったら何と名乗るつもりか」という会話のシーンが出てきます。 現在の教皇はアルゼンチン出身。中南米出身の教皇は史上初です。本名はホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿ですが、「フランシスコ」と名乗りました。

『教皇選挙』

これは、中世イタリアの聖人フランシスコの名前です。「アッシジのフランシスコ」として知られる聖人の彼は、清貧さで知られ、ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサは、彼の人生を知って修道女を志したほどです。 アメリカ西海岸の都市サンフランシスコも、ここを訪れたスペイン人修道士が「聖(セイント)フランシスコ」から名づけましたから、語源は同じです。 それはさておき映画では、後継者を選ぶコンクラーベが始まる直前に問題が発生します。ネタバレになるので、これ以上は説明しませんが、果たして誰が選ばれることになるのか。サスペンス仕立てになっていますが、最後にはあっと驚く仕掛けが用意されているということだけは付言しておきます。

『教皇選挙』

掲載写真:『教皇選挙』
(C)2024 Conclave Distribution, LLC.

『教皇選挙』
2025年3月20日(木・祝) TOHOシネマズ シャンテ ほか全国順次公開
監督:エドワード・ベルガー
脚本:ピーター・ストローハン
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ

プロフィール

池上 彰(いけがみ・あきら)

1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京科学大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。