池上彰の 映画で世界がわかる!

『モディリアーニ!』──どこまでが本当で、どこからがフィクションなのか? 永遠の都パリで永遠に残る芸術が紡ぎ出されるもの

毎月連載

第90回

『モディリアーニ!』

舞台は1916年のパリ。第一次世界大戦の最中、批評家に認められずに酒と喧嘩の日々のモディリアーニとユトリロとスーティン。才能溢れる3人だけれど、狂気の一歩手前のハチャメチャな日々。

繊細な女性のほっそりとした体のラインが特徴的なモディリアーニには、こんな人生があったとは。酒浸りの生活をしながら、ときに激しく咳込む様子は、結核を想起させるも医者にかからず、自滅への道を歩む姿。ときに出没する恐ろしい幻覚。長いくちばしの仮面の男が出没しますが、あの仮面は中世のヨーロッパでペストが流行したとき、感染を恐れて人々が身に着けたマスクなのです。あの幻覚は、モディリアーニが感染症にかかっていることを示唆しているようにも見えます。

『モディリアーニ!』

パリの街角。人の気配が感じられない街角を多数描いてきたユトリロは、軍隊に行くも精神病を疑われて療養所に入れられて除隊させられていたとは。私は個人的にユトリロの絵が好きで、パリ・モンマルトルの丘でユトリロが描いた街角を見たときの感動はいまでも忘れられない瞬間だったのですが、生活はこれほど破滅的だったとは。

動物の死骸を好んで描いたスーティンの狂気。こんなシーンがあったのだろうと思ってしまう光景。

実在の人物を映画化するのは難しいものです。どこまでが本当にあったことなのか。虚実皮膜という近松門左衛門の言葉を思い出してしまいます。

『モディリアーニ!』

どこまでが本当で、どこからがフィクションなのか。それを想像しながら観るのも映画の楽しさでしょう。

それにしても画家というのは辛い職業なのかもしれません。描いた絵が売れなければ生活はできませんが、生活のために絵を描いているわけではないという矜持があるからです。

有名な画家の多くは、現役時代は絵が売れずに赤貧に苦しむけれど、この世を去ってから注目されて、高値で取引されるという皮肉な現実。これが芸術というものなのでしょう。

それでもモディリアーニの恋人(?)との間の「後に残るのは活字か絵画か」という論争は、永遠のテーマのように思えます。

『モディリアーニ!』

映画の設定は1916年のパリですが、ロケが行われているのは現代のパリ。100年経っても変わらないパリの街があるからこそ可能になった街角のロケ。永遠の都で永遠に残る芸術が紡ぎ出されているのです。

『モディリアーニ!』
(C)Modi Productions Limited 2024

『モディリアーニ!』

『モディリアーニ!』
監督:ジョニー・デップ
脚本:ジャージー・クロモウロウスキ、マリー・オルソン・クロモロウスキ
原作:戯曲「モディリアーニ」(デニス・マッキンタイア)
出演:リッカルド・スカマルチョ、アントニア・デスプラ、ブリュノ・グエリ、ライアン・マクパーランド、スティーヴン・グレアム、ルイーザ・ラニエリ、アル・パチーノ
 
1月16日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国公開

プロフィール

池上 彰(いけがみ・あきら)

1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京科学大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。


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