池上彰の 映画で世界がわかる!

『LOST LAND/ロストランド』─_日本人監督が描く“忘れられた民族”ロヒンギャの真実 。国籍を奪われた子供たちの過酷すぎる逃避行

毎月連載

第94回

『LOST LAND/ロストランド』

厳しい迫害を受け、故郷を追われ難民となった多くの人々。こう聞くと、中東でのことかと思う人もいるでしょうが、この映画が描くのは東南アジアで難民となっている少数民族ロヒンギャです。

ミャンマーの少数民族ロヒンギャはイスラム教徒。仏教徒が多数のミャンマーで迫害を受け、国籍が与えられていません。その上、過激な仏教徒集団がロヒンギャを襲撃することも、しばしば。住宅を焼き払われて住む場所を失ったロヒンギャの人々は、隣国バングラデシュに逃げ込み、難民キャンプで暮らしています。その数はなんと約100万人に達しています。

中東や欧州での難民問題は大きなニュースとして扱われますが、ロヒンギャは、まるで“忘れられた民族”のようです。その実態を、実話に即して映画化したのが日本人監督の藤元明緒氏です。

映画は、バングラデシュの難民キャンプから始まります。難民キャンプで暮らす5歳のシャフィと9歳の姉ソミーラは、叔父との再会を願い、叔母と共に遠く離れたマレーシアへ旅立ちます。

彼らはミャンマーで国籍が与えられなかったため、パスポートを持てません。バングラデシュからタイへ密入国。さらにマレーシアに密入国を試みます。

手引きをするのは密航業者。漁船に乗せて国境を越えますが、金を払わないと先へ進めません。難民を船で密航させて金を儲けようという業者は、中東だけでなく、東南アジアにも存在しているのです。

漁船による密航の長旅では死者も出ます。遺体は水葬されるという厳しい現実。金の支払いをめぐってもめごとになると、危険を感じた姉と弟は、ふたりだけで逃走します。飢えと渇きからごみをあさるという過酷な長旅。それでも子どもらしい無邪気さが消えることはありません。

しかし、遂にふたりは混乱の中で、離れ離れになってしまいます。果たして彼らの未来はどこにあるのか。

密林の中を進むシャフィは、別のロヒンギャの家族と出会い、マレーシアに入ることができるのですが……。密林から一転して大都会のクアラルンプールの高層ビル群。その落差には言葉を失います。

実際にロヒンギャであるふたりの自然な演技には心打たれます。

いまも多数のロヒンギャ難民の中には、映画に登場したふたりの子どものような境遇の子どもたちもいるのです。

どうすれば彼らを助けることができるのか。まずは映画で現実を確認しましょう。

『LOST LAND/ロストランド』
(C)2025 E.x.N K.K.

『LOST LAND/ロストランド』
4月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、 kino cinéma新宿、ポレポレ東中野ほか全国公開

脚本•監督•編集: 藤元明緒
出演: ムハマド・ショフィック・リア・フッディン、ソミーラ・リア・フッディン 他

プロフィール

池上 彰(いけがみ・あきら)

1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京科学大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。