池上彰の 映画で世界がわかる!
『君と僕の5分』──_J-POP禁止の2001年韓国。globeが繋いだ男子高校生ふたりの、切なすぎる秘密の青春
毎月連載
第95回
『君と僕の5分』
いまでこそ日本の若者は韓流ドラマやK―POPに熱狂し、韓国の若者もJ―POPに推しのメンバーがいる時代ですが、かつて韓国では日本の映画も音楽も公開禁止でした。
日本によって36年間植民地支配されてきた韓国は、独立後、徹底した反日政策を実施。日本文化の流入も阻止してきたのです。とはいえ、若者の心を遮断することはできません。
映画の舞台は2001年。日本の音楽が禁止されれば聞きたくなるもの。高校生のギョンファンは韓国の田舎町から大都市・大邱(テグ)に転校してきますが、実は日本の音楽やアニメの大ファン。インターネットの海賊サイトから日本の音楽をダウンロードしてMP3プレイヤー(懐かしい!)で聴いています。
そこで流れる曲はglobeの曲。そうか、あの頃日本でも大流行していたなあと、これも懐かしい気持ちになって映画の世界に没入します。でも、教育現場にも反日ムードがありますから、ギョンファンはクラスメートから反感を買ったり、「オタク」と蔑まれたりします。
当時もいまも韓国は厳しい受験社会。ギョンファンが転校してきた高校は進学校で、生徒たちは受験競争を強いられます。そこでギョンファンの成績がクラスメートに知られると、クラスの雰囲気は一変。そうか、韓国の進学校は、こんな雰囲気なのかと新たな発見があります。
当初は孤独感を漂わせていたギョンファンですが、隣の席のジェミンが、何かと世話をしてくれます。実は彼もまたJ-POPのファンなのです。ただし、同じglobeでも好きな曲は異なるのですが。彼は放課後にギョンファンの苦手なバスケットボールの手ほどきまでしてくれるほど。なんでこんなに親切なのだろうとギョンファンはジェミンに問いかけますが、答えはありません。
学校帰りのバスの車内でイヤフォンを分け合って同じ曲を聴くふたり。これぞ青春そのものです。次第に惹かれ合うふたり。
ある日、ジェミンが過去について告白をすると、ギョンファンもまた、自分の過去の秘密を告白。ところが、これを境にジェミンの態度が激変します。
2001年の韓国は、社会がまだまだ保守的。相手に惹かれながらも、相手を拒否してしまうジェミン。この男の子の心理描写を叙情豊かに描きます。
なんだか見ている側の心がキュンとなってしまいます。ふたりの関係がもどかしい。ふたりは一体どうなるのか。これぞ青春そのものなのでしょう。
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『君と僕の5分』
6月5日(金)新宿武蔵野館、角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
出演:シム・ヒョンソ ヒョン・ウソク コン・ミンジョン イ・ドンフィ
監督・脚本:オム・ハヌル
プロフィール
池上 彰(いけがみ・あきら)
1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京科学大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。