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湯浅政明 挑戦から学んだこと

初のTVシリーズ『ケモノヅメ』とSF作『カイバ』。同じスタッフでやることで感じたチームの成長

全13回

第4回

── 前回、『マインド・ゲーム』での課題はストーリーだとおっしゃっていました。TVシリーズの『ケモノヅメ』(06)は、湯浅さんのオリジナルストーリーです。

湯浅 そもそもストーリーが作れなかったので、じゃあ作ってみようと考えていたところに、マッドハウスの丸山(正雄)さんが「何かやってみなさいよ」と声をかけてくれたんです。そういう流れの中で生まれた作品が『ケモノヅメ』だった。

── 監督・湯浅さんにとっては初のTVシリーズですね。

湯浅 そうです。ラブストーリーにしたのは、一番分かりやすいジャンルだと思ったから。

── 湯浅さん、意外とラブストーリー多いですよね? 好きなんですか?

湯浅 僕が好きというより、みなさんが一番好きなジャンルなんじゃないかと思っているんですけど。それも『ロミオとジュリエット』のような、障害が大きければ大きいほど燃えるようなラブストーリー。だから『ケモノヅメ』では食人鬼と、それを狩る者の話にした。

── 障害つきのラブストーリーとはいえ、それはかなり異色だと思いますが(笑)。

湯浅 大真面目にやると破綻が怖かったし、B級映画っぽいノリが大好きだったので、ちょっとトンチキな雰囲気を出したいなあと思って(笑)。濃い大映TVみたいなノリで、クスクス笑えるような感じ。

その頃は、残虐な描写に弱くなっていた自分を感じていた時期でもあったので、あえてスプラッタな感じにしました。子供の頃に読んだ連載漫画は、作者自身も先の展開を決めないまま描いていた作品も多くて、『ケモノヅメ』も、まるで出たとこ勝負のような感じに作っていったんです。そんな大雑把な濃いストーリーに合う絵として、テレビアニメの絵のひとつの金字塔だと思っていた『タイガ—マスク』を意識してああいうキャラデザインになったんですが、それが上手く見えない、雑、ちょっと怖すぎるという意見もあって「あ、そうなんだ」と。いや、本当に難しいと思いました(笑)。

脚本も担当することで、演出的な構成のノウハウを勉強していった

── 脚本の方はどうでした?

湯浅 最初、脚本は自分で何も思い浮かばなくて、脚本家の方をつけてもらった。そうやってストーリーの作り方を学ぼうとしたんです。ところが、それ以前に脚本家とのつき合い方が分からない。おそらく「こういうのを作りたいんですよ」というふうに自分でリードして行けばよかったんだろうけど、さまざまな要素や可能性を削りながらストーリーを絞り込んでいくことが難しくて、でき上がったのは自分が求めていたのとはまるで違うストーリーだった。

そういうコミュニケーションの取り方が下手だったせいで結局、脚本家が外れてしまい、自分で書くことになったんです。

でも、逆に開き直って覚悟が決まったのか、脚本家の方が作った1話の構成に、自分で考えたエピソードを入れていくと、執筆作業が進み始めたんです。ところが、何本か進めた後、それでも大変だろうと、助けが数人入って脚本会議が開かれることになったんです。

僕が「キャラクターが変化するプロセスを、まるで日が沈むかのようにだんだん変わっていく感じにしたい」と提案したら、「何かきっかけを作らないと、視聴者は気づかない」と言われ「あ、そういうものなんだ」って。少しずつの変化だと気づきにくく、ポイントを作って一度に大きく変えた方が分かりやすいし、それがストーリーの展開につながるってことらしい。

それまで『マインド・ゲーム』のときみたいに、エピソードを面白く組んでいくことしか考えていなかったし、面白いシーンをつなげて変化が描けていればストーリーになるとも考えていたけど、それだけじゃだめなんだ……というふうに演出的な構成のノウハウをいちいち勉強していく感じでした。

演出という仕事を、いろんな側面から考えるようになったのは、このときからだと思います。

いろんなジャンルの人気作品からヒントを得た、シリーズものの作り方

── シリーズものの作り方としては、どういうことに気づいたり、気をつけたりしたんですか?

湯浅 当時『やまとなでしこ』(00)というお金に執着する女性をヒロインにした人気のTVドラマがあって、このシリーズには毎回「世の中、お金じゃないのかもしれない」とヒロインの性格が変化してしまいそうなシーンがある。でも、思い込みが強いキャラなので、次のエピソードの冒頭では元のお金執着キャラに戻っているんです。

つまり、1話完結っぽいシリーズものはキャラクターが一定していないとダメで、『ドラえもん』ののび太のように、成長しそうな出来事があっても、常に次回では必ず元に戻っているというのもある。その一方で、そういう風につなげておいて、最終回でコロンとひっくり返るというのもある……シリーズって、いろんな作り方があるんだということですよね。

中島らもさんの『ガダラの豚』というエンタメアクション小説も、気になる点を残しておいて、一旦終わったように見せ、後にそれが大問題になるとか、人が死んでもあまり引っ張りすぎないよう、次の話に進んでスピード感をつけるとか。そういうドラマや小説が、進行の仕方を学ぶ上でとても参考になりましたね。

── なるほど。いろんなところから吸収しているんですね。

湯浅 『ケモノヅメ』の場合、僕はラストをハッピーエンドにしたかったんですよ。でも、「この流れじゃあそうはならない」と言われて「そういうものなのか」「それまでの展開で、すでにオチが決まってしまうのか?」って。じゃあハッピーエンドを納得してもらうにはどうすればいいのかを考えたり、「これとこれを対峙させた方がいい」とか「同じシチュエーションをふたつ作って対比させ違う答えを出す」などの意見をもらって考察してみたり。僕としては「だからってどうなるの?」という感じだったんですが、そういう意識でやってみて、後に「そういうものなんだ」と納得する場合もありましたね。

いろんな人気作品の感想を見てみると、伏線を張って回収していくだけでも面白みにつながっているようだったけど、僕としてはただの回収に面白みは感じない。どんでん返しがあっての伏線回収ならまだ分かるんですが……気配を表現する演出は作画的にも好きだったんですけどね。

いや、本当に皆が喜びそうな演出ってホント、分からないことだらけ(笑)。

まあ、そんな感じで、自分が面白いと思うエピソードをつなげてストーリーを作り、それをセオリー的な構造に落とし込んで、脚本を書いていったんです。先を考えずに作っていく方法もスタッフからすると難しかったみたいで、なるほど、やっぱ先のこともきちんと決めておいた方がいいのかなって(笑)。

『ケモノヅメ』の経験が活かされた『カイバ』

『カイバ』DVD 発売中 発売元:バップ (C)2008 湯浅政明・マッドハウス/カイバ製作委員会

── そんな経験を活かして作ったのが、次の『カイバ』(08)ですね?

湯浅 最初からオチや、先の展開を見据えて作っていきました。テーマ的なことはやはり制作の中盤までハッキリしなかったですけど(笑)。

前回、反応が良くなかったキャラクターのデザインも今回はシンプルに黎明期のアニメのテイストでまとめ、シンプルにソフトに可愛らしさを目指しました。『ケモノヅメ』で使ったメインの色は原色っぽい赤と青だったので、『カイバ』では原色は使わず、さらに昔のカートゥーンが退色したような感じを出すことにしたんです。派手な色がなくても、淡い水色や茶色、肌色、黄緑が合わさると、独特の美しさが生まれる。ちょっとアールヌーボー時代の印刷物のような感じもあるんです。記憶についての話なので、そういう古い感じは合っているとも考えました。

それに、『ケモノヅメ』のときは時間もなくて、状況に合わせてハッキリ画面全体の色を変えたので、まるで信号機のようだった。そういう反省点もあって、色指定に関してはもっと細かくやりましたね──実際、やってみると大変でしたが。

また、『ケモノヅメ』では、背景に写真を使うことで結構苦労したというのもあって、今回は想像だけで背景が描けるシンプルなものにしたんです。

── キャラデザインも一転してかわいいですよね。昔の手塚治虫キャラっぽい感じがしました。

湯浅 キャラ設定をやってる伊東(伸高)さんが手塚治虫風に的を絞ってきたので、僕もそれでいいと思い、以降は手塚治虫を意識しましたね。

僕は元々、黎明期のアメリカの古いアニメーションが好きだったんです。ハンナ=バーベラの作品や、(マックス・)フライシャーのベティ・ブープとか、ディズニーでも初期の作品とか。曲線を活かしたフェティッシュな感じ、いいよなーって。手塚治虫もディズニーのファンだったから、そういう意味では共通点があったんだと思います。それに、『ケモノヅメ』が怖かった人もこっちなら取っつきやすいんじゃないかと思いました。

『ケモノヅメ』チームで挑んだ新たな挑戦……そして次なる課題も!

── 美術的にも、今回はSFというのもあり、いろいろな挑戦があったのでは?

湯浅 ストーリーはSF色が強く、記憶をデータ化するようなものなのですが、それをリアルに緻密にやるのではなく、記号的におとぎ話のようにやってみたんです。

最近、やっと『攻殻機動隊』(『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』)に似ているんだということが分かってきたんですけど(笑)。確かに、記憶を入れ替えたりする話なので、ちょっと似ているんですが、誰かに言われるまで気づかなかった。『攻殻機動隊』はハードだったけど、『カイバ』は漫画っぽく、分かりやすく描くと決めてやっていたので、内容がつながるとは思っていなかったんです。

── スタッフは『ケモノヅメ』からのメンバーですね。

湯浅 そうです。それぞれ成長しながら、やりたいことも徐々に分かっていくので、同じチームでやるのはいいなと思いましたね。各話の演出がいて、スタッフも多かったんですが、みんなで一丸になっていたし、僕もスタッフそれぞれの個性を活かすように努力しました。

そういうこともあってか、画的には、この作品がもっともノッていたんじゃないのかな。アフレコのときも、4話まで色がついていたんです。TVアニメの場合、こういうことは滅多にない。一番安定していたと思います。

── それでも、何か課題は残ったんですか?

湯浅 ラストのまとめ方。ちゃんと考えたつもりのラストだったんですが、それでも不満を抱えるスタッフが結構いて、みんながいいと思うラストってどういうんだろうと思いましたね。

── なるほど。とはいえ本作も高い評価を受け、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞しましたね。

湯浅 だからなのか、ある人に、「賞はもらえるね」って言われたことがある(笑)。

── 「賞は」というところを「賞も」に変えたい?

湯浅 そうですね。1回は認めてほしいという気持ちは強いですよ。

── いや、すでに認められているのでは?

湯浅 うーん、そうなんですか? よく分からないんですよ、その辺のことが。

── 賞よりもヒットが欲しい?

湯浅 そうですね……ぐうの音も出ないほどの大ヒットが欲しいのかもしれない(笑)。

取材・文:渡辺麻紀 撮影:源賀津己