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湯浅政明 挑戦から学んだこと

子供向けを意識した『夜明けを告げるルーのうた』と音楽の重要性

全13回

第8回

── 次は『夜明けを告げるルーのうた』(17)です。こちらは湯浅さんと吉田玲子さんのオリジナル脚本による劇場用作品です。

湯浅 もっと子供にも観てもらえるアニメーションを作ろうというところから始まった企画です。パイロットフィルム『なんちゃってバンパイヤン』(99)のときに考えたアイデアやノリを、劇場用映画でやると面白いのではないかというふうに考えました。

脚本家の吉田さんとお話しているうち、劇場に会いに行きたくなる愛らしいキャラにしようという話が出て、じゃあ(ヒロインは)人魚にしようとなったんです。日本では人魚の話は手薄だろうと思って。でも“ポニョ”(『崖の上のポニョ』(08))がいたんですよ。すっかり忘れてた(笑)。忘れていたから、話も王道なそっちの方に寄っていって、でき上がったら「『ポニョ』に似てる」と言われ、「あ、そうか」という感じだった(笑)。宮崎作品で言えば『ポニョ』の前身と思われる『パンダコパンダ 雨ふりサーカス』(73)は意識にありましたが、それはもう古典だと思ってたので。

企画を進めているとき、僕の頭にあったのはディズニーの『リトル・マーメイド』(89)くらいでしたから、『ポニョ』の名前が挙がったときはびっくりでした。

── まあ、ポニョも一応、“魚の子”って歌われてますからね(笑)。

湯浅 そうなんです(笑)。

もうひとつ、本作でやりたかったのは、子供向けとは言え、“死”が重要な要素となり、さまざまなものを隔てる“壁”という存在も出てくる。そういう物語をすべてフラッシュでアニメーション化して作りきるというのが、会社(サイエンスSARU)をやってる上で一番の目的だったんです。なので、フラッシュが活きるような作品にしたかったというのもありました。線は滑らかでツルっとしてて、シンプルだけどよく動いているという感じ。

『夜明け告げるルーのうた』(C)2017ルー製作委員会

── 確かによく動いていますよね。それも音楽に乗って。音楽が重要だったのでは?

湯浅 そうです。なんとなく閉塞感のある町に、陽気な音楽と人魚がやってきてダンスを踊るという話です。昔のカートゥーンを意識しているし、テックス・エイヴリーっぽい感じ。シュールで突然、ステップを踏んだりする。

あとはディズニーの『ポップ&ロックアニメーション』。音楽に合わせたアニメーションをディズニーが編集していて、それが印象的だったので記憶に残っていました。

── 音楽は斉藤和義の『歌うたいのバラッド』ですね。

湯浅 普段、口にできない言葉を歌に任せて、最後に「愛している」と言う。この構成がとても気に入って使用させてもらったんです。物語もそういう構成だったし、最初にこの歌ありきな感じにも見えて良かったと思っています。

音楽の構成からヒントを得た『マインド・ゲーム』と『ケモノヅメ』

『マインド・ゲーム』© MIND GAME Project

── 湯浅さんは、音楽のそういった歌詞だけではなく構成も上手に使っています。『マインド・ゲーム』では奥田民生の曲の構成を効果的に引用していましたよね。

湯浅 『マインド・ゲーム』のラスト、主人公たちの想像されるこれからの未来が、良いこと悪いこと含めて大量に、短く断片的に流れるシーンがあるんですが、あれは奥田民生の『息子』という曲から思いつきました。

その曲のラストは親が息子に語っている言葉で、これから成長していろんなことが起きるんだよと、未来に経験するだろう事柄を単語の羅列で教えるんですよ。フレーズにもなっていない単語なんですが、それだけで言いたいこと、情景がちゃんと見えてくる。いいことばかりではない、悪いことばかりでもない、これからの人生で経験するだろうさまざまなこと──。1時間半の映画でも描ききれない人生が「裏切りや甘い罠、恋人や唇……」という羅列された歌詞の中に凝縮されている。僕にはそれがとても感動的で驚きでもあったんです。

たとえば、NHKのドキュメンタリー『映像の20世紀』のオープニング映像、事件を収めた映像の断片が次々と流れていくだけで、なんとなく感動してしまうんだけど、もしかしたらアニメでも、『マインド・ゲーム』であっても、そういう感動があるのかもしれないと思ってやってみたんです。

『マインド・ゲーム』© MIND GAME Project

奥田民生には『マシマロ』というタイトルの曲もあって、ずーっと奥さんのことを歌っているんですが、タイトルになってるマシュマロはなかなか登場しない。で、最後の歌詞が「マシュマロは関係ない」とくる。

この裏切りの構成が面白いと思って、TVシリーズの『ケモノヅメ』のときにパクリました(笑)。サブタイトルを「初めての味」とか「人の不幸は蜜の味」など、“味”でずーっと繋げているんです。主人公たちの食にまつわる忌まわしい宿命を意識したサブタイトルなんですが、最終話を「味は関係ない」にして落としたんです。これは、宿命から逃れていく、彼らの強い意思を示しています。

『マインド・ゲーム』のラストと同じように、『ケモノヅメ』も、ずーっといろんなことに囚われてきたけど、最後にすべてを取っ払うというか、脱するというスタイル。“解放”っていうのが、自分のテーマでもあったんです。

── 歌から構成を借りるのは面白いアイデアですね。

湯浅 僕は感動したものは、形を変えれば何でもアニメになると考えているので、いろんなものからいろいろいただいている。この曲いいなーっと思ったら、その曲を使用するというのもありますが、その感動した構成をいただくというも、僕の場合はある。そういうパクリは許されるだろうって(笑)。

── 今回はその曲に加えてダンスがありますよね。

湯浅 リアルなダンスは難しいけれど、本作のようにカリカチュアしたスタイルならできそうな環境だったんです。ダンスも歌もあり、シンプルで気持ちのいいアニメーションなら、踊るテンションの高さも伝わるのではないかと思いました。

『崖の上のポニョ』『君の名は。』などと共通する“偶然の一致”

── またしても脇役ですが、ルーのでっかいお父さんが最高にかわいかったですね。

湯浅 お父さんの設定はかなりもめたんです。「人間とはつき合うな」という台詞を言わせようという話もあったんですが、喋るキャラはルーなど少数に絞りたかった。海の中でも人間の言葉で話していたら、完全な漫画になってしまうと思ったからです。

そこでお父さんは、基本は人間の言葉を喋らないキャラクターにして、子供思いだけどふざけたところもある、よく分からないキャラという感じで落ち着きました。というかそう決めました。バカボンのパパみたいな感じかなぁ。高畑勲さん演出の『パンダコパンダ』(72)のパパパンダもそう。感情が読みにくい、ふざけたキャラだけど芯はありそうなのが好きなんですよ、僕は。『ポニョ』でも寡黙な父親らしき人がいましたけどね。

そういえば、『ポニョ』に限らず、『君の名は。』でも町内放送のシーンがあって、「あ、同じだ」って思いました。『きみと、波にのれたら』の最初のキービジュアルが水の中で抱き合うシーンだったんだけど、『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)でも似たようなものがキービジュアルになっていた。そういう偶然の一致のようなこと、起きるんだなって。

── そういうこと、結構ありますよ。さまざまな組み合わせや時代性が、そういうシンクロニシティを生んでしまうということなんでしょうか。

湯浅 どうなんだろう……そういう場合、できれば先に公開したいけど、なかなかそうもいかないし(笑)。でも基本、パクってる意識がなければ変更しないでやってます!

── ラストはストレートにハッピーエンドにはしていませんね。

湯浅 それは要望もありました。子供のみならず上の年齢層にも観てもらいたかったからで、はっきりハッピーエンドにしすぎない方がいいという判断でした。この作品では、できる限り人の意見を聞こうとしたので、その結果と言えるのかもしれない。ただ、あまりに人の意見に耳を傾けすぎると、なかなか仕事が進まないことも分かりましたけどね(笑)。

実は最初、エピローグまでやって、ハッピーエンドにしたいと思っていたんですよ。でもそれも『君の名は。』でやっていましたよね。やらなくてよかったのかなって(笑)。

取材・文:渡辺麻紀 撮影:源賀津己

関連情報

『夜明け告げるルーのうた』Blu-ray&DVD発売中 発売元:東宝/フジテレビ
(C)2017ルー製作委員会

『マインド・ゲーム』Blu-ray 発売中
5,076円(税込)
発売元:Beyond C.
販売元:TCエンタテインメント
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