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湯浅政明 挑戦から学んだこと

Netflix作品『DEVILMAN crybaby』での“挑戦”

全13回

第9回

── 『DEVILMAN crybaby』は湯浅さんにとって初めての配信でNetflix作品です。しかも熱烈なファンが多い永井豪さんの『デビルマン』のアニメ化ですね。

湯浅 いくつか候補作があって、最後に出てきた1本が『デビルマン』だった。高校時代に永井さんの原作漫画を読んだんですが、とても驚いたのを覚えています。もっとも衝撃を受けた漫画と言っていいくらい。まさか、それを自分でアニメ化することになるなんて、思ってもみなかった。

── 原作に熱烈なファンが多い理由も“衝撃的”という部分にありそうですね。

湯浅 小さい頃に観ていたアニメと違って、これは子供が読む漫画じゃないだろうって感じなんですよ。序盤はまだ一般的なヒーロー漫画な感じですが、どんどん雲行きが怪しくなってくる。主人公が守りたかったはずの家族が次々と残忍な方法で死んでいくというような展開は普通、子供向けの漫画じゃありえませんでしたから。そういう大変な作品を手がけるのは、やはり挑戦であって、やってみたいという気持ちが強くありました。

── 湯浅さんの場合、作品を選ぶきっかけの多くは“挑戦”ですね。

湯浅 この作品ならこう作ればいいというふうに、ある程度見えている企画より、どう作れば一番いいのか、自分ならどう作れるのか、それがよく分からない方を選んでしまうので、結果的に“挑戦”になってしまう(笑)。

『デビルマン』の場合は、どうアップデートするかが大きな問題でした。原作漫画が掲載されたのは1972年。今からおよそ50年近くも前です。永井さんの漫画はその当時でもやはり独特で、不思議なバランスで成り立っていた部分もありましたから、それを21世紀の今の出来事としても違和感のないアニメに変えることができるのか、そこに注力しました。そういう意味では、わりと“よくできた作品”になったんじゃないかと思っています。

── 原作の主人公は学ランを着た不良ですが、それをストリートギャングにし、音楽はラップを取り入れている。

湯浅 ボロボロの学ランを着た不良が鎖鎌を振り回すのって、今の時代にそのまんまやるとギャグになっちゃいますよね? 永井さんもおっしゃっていたんですが、とにかく極端な話なので、普通に描いていたらすんなりと受け入れてもらえない。多少ギャグも入れつつ幅のある世界観にして、それでもこういうことが起きるかもしれないというバランスを取りながら創作されたとか。正確ではないですが、そんなことをおっしゃられていたと思います。

『DEVILMAN crybaby』 (C)Go Nagai-Devilman Crybaby Project

── 永井さんも試行錯誤しつつだったんですね。

湯浅 ヒロインにあたる美樹ちゃんのキャラクターも漫画ではべらんめえ調のケンカっ早い少女で、ノコギリを持ち出したりする。とても永井さんっぽい女性キャラなんですが、今の女子高生ではいないタイプ。

── 『ハレンチ学園』風なキャラ?

湯浅 というより『あばしり一家』の方かな。永井さんのキャラクターは、彼の漫画世界で違和感なく快活に存在できているから魅力的なんです。その典型が美紀ちゃんと番長(木刀政)になる。でも彼らをそのまんまアニメに移すと、浮いてしまうのではないかと思って。過去の映像化でも時代に合わせて変えているようでしたが、あまり地味すぎるのもかえって違和感あるのではないかと思ったので、極力派手で男の子っぽい感じを残したんです。

── それはよく分かります。音楽はどうでしょう? 本作ではラップミュージックを使っていますね。

湯浅 タイトルは忘れたんですが、おばさんが丸太に座って、ああ疲れたと独り言を言うと、吐き出す愚痴が徐々に歌になっていくという自然な展開のミュージカル映画があって、「そうか、こうやると“今から歌いますよ”と構えなくてもいいんだ」と思ったんです。それにラップなら、少し節をつけて喋れば音楽になるし、たとえ歌ったとしても違和感がない。自分の想いや現状を吐露する人、不満を口にしてディスりながら歌うのも自然なラッパーの姿だと考えると、原作の番長グループの代わりにもなる。

西洋の時代劇で以前よく見かけた、吟遊詩人が町中で弾き語りながら狂言回しとして状況説明をやるという役回りを、ラッパーが変わって自然とやってくれるのではないかと考えました。それに、『SRサイタマノラッパー』(09)を観て、日本にも自然なラップが根づいているんだという認識を持ったということもありますね。

自分なりにきっちり守った、原作に対するリスペクト

『DEVILMAN crybaby』 (C)Go Nagai-Devilman Crybaby Project

── セリフも、原作ファンのツボを押さえていると言われていましたよね。

湯浅 僕も原作ファンなので、どういうセリフが外せないのかというのは分かっていたつもりでした。もちろん、「外しているじゃねえか」とか「あのセリフを変えてる」という怒りの声もあったし、「なんで(不動明に)もみあげがないんだよ」と憤っているファンの方もいた。

また、原作ファンの中には、主人公の悪魔っぽさやその暴力性をもっと気持ちよくスペクタクルに描いてほしいという人も多かったんです。僕もファンだからそういう気持ちも分かるんだけど、今回の枠組みで今のスタッフができる方向で考えたので、そっちには行かなかった。悪魔が戦いに快楽を感じているというのは表現しようと思いましたけどね。

そういう中でも死守したのは原作に対するリスペクトです。ここは自分なりにきっちり守ったので、そこはファンの多くの方にも伝わったと思っています。

── 『デビルマン』のアニメは最後まで作られたことがないそうですね。TVアニメシリーズ(72~73)もデーモン族との決着がつかないまま終了したと聞いています。

『DEVILMAN crybaby』 (C)Go Nagai-Devilman Crybaby Project

湯浅 最後まで描けたのは今回が初めてだと思いますよ。数年前のOVA(『デビルマン 誕生編』(87)、『デビルマン 妖鳥麗濡編』(90))は、上手いアニメーターが集まり、かなり濃い形で作られてファンも多かったんですが、最後までは作れなかった。予算の関係だったとも聞いていますが、どうなんでしょう。

一応、最後まで描けたということで、永井さんはとても喜んでくださって「よくぞ最後まで作ってくれた」とおっしゃってくださいました。

配信メディアならではの視聴者の反応

『DEVILMAN crybaby』 (C)Go Nagai-Devilman Crybaby Project

── 配信というメディア、Netflixと組むのも初めてですが、いかがでしたか?

湯浅 Netflixの場合、配信前に全話まとめて納品するんです。TVシリーズだと最初の放送の反応を見て、途中で方向転換したり、微調整をしたり、いろいろ手を入れられるんですが、まとめてだとそれができない。

でも、すでに納品できているので、初めて配信される日は、仲間と集まって飲みながら祝うこともできた。5時間くらいすれば視聴者の反応が出てくるかなと思っていたら、原作が超有名なせいか、思っていた以上に早くから全部観たという強者たちの感想が上がり始めました。やはりNetflixなので一度に世界中からいろんな感想が出てきて、これはとても面白かったですね。

かなりの数の方に観ていただけて、反応も良いものをたくさんもらったのですが、当時のNetflixは数字をハッキリ出すこともなかったので、成功だったのかそうじゃなかったのかよく分かりませんでした。ですが、その後で米クランチロールの賞をいただいたり、反響も大きく、評価も高かったのだと思います。

作画的に落ち込む回があったり、全体的には満足いく出来ではなかったですけど、永井さんの反応をはじめ、おしなべていい反応をいただけたので、『デビルマン』を作れたのは良かったと思っています。

取材・文:渡辺麻紀 撮影:源賀津己