荒木経惟 写真に生きる 写真人生の出会い
二人とも親父が職人で下町の生まれ。 ビートたけしさんとの出会い。
全11回
第7回

親父はペンキ屋と下駄屋
下町の職人の血、土地の血
たけしさん【註1】と俺、似たところあるんだよね。何度も番組に呼んでくれたり、撮らせてもらったりしてるんだ。最初に会ったのは、もう40年近く前かなぁ(1982年)。「オレたちひょうきん族」(フジテレビ系列で放送されていたお笑いバラエティ番組)に俺がゲスト出演したとき。一緒に写真を撮ってるけど、あまり話はできなかったんだよ。たけしとさんま、番組も元気でさ、現場もおもしろかったね。
たけしさんの番組に呼ばれて行って、控え室で二人きりになると照れちゃってさ。たけし軍団とかがいるときは、ものすごく賑やかで笑わせているんだけど、みんな本番ちょっと前でいなくなって二人だけになると、お互いに何にもしゃべることないんだよ、照れちゃって。アハハ(笑)。
わざと自虐的にさ、「荒木さんとこは川のこっち側だろ、俺んちは川向こうだからさ。荒木さんとこはまだ都会に近いけど、オレんとこは荒川渡って川向こうだからね」とか言うんだよね(笑)。俺の撮った「さっちん」の写真を見て、おんなじようなところで育っているから、よくわかるって。俺のところはもっとひどいところだってね(笑)。たけしさん、足立区で俺は台東区の三ノ輪の生まれだろ。二人とも下町のはずれで、はずれ同士なんだよね(笑)。「オイラの親父はペンキ屋だし、荒木さんとこは下駄屋職人だろ」とかね。お互いに下町の職人の血、土地の血っていうのがあるよね。
「たけしの誰でもピカソ」(テレビ東京)でも俺の特集をしてくれてさ(2006年放送「写真が人生! 天才アラーキー特集」 )。ビョークが録画で出てくれて、俺について話してくれたんだけどね。それを見て、たけしさんがベネチア・ビエンナーレの映画祭でビョークに会った時に、「ARAKIを知っているか、私はARAKIに撮ってもらった」と自慢されたよっていう話をしてくれたんだ。ビョークはね、俺のロンドンでの展覧会(1994年、ホワイトキューブでの個展)を見てくれて、ファンになったと言ってくれてね。日本に来た時に、ビョークを撮っているんだよね。(1996年、2003年のビョークの来日時に荒木が撮影。フォト・セッションを行っている。)
「芸術」と「芸能」が半々
俗を持っている
たけしさんの個展ね、新宿でやった展覧会を見に行ったよ。パリのカルティエ(現代美術財団)でやった展覧会だよね。俺もカルティエで個展をやってるんだ。たけしさんの作った作品、いいんだよ。見てると、みんな愛おしくなるんだ。(2014年、東京オペラシティアートギャラリーで開催された個展「BEAT TAKESHI KITANO絵描き小僧展」。2010年にカルティエ現代美術財団で海外での初個展を開催し、記録的な動員で大反響を巻き起こした。)
彼は照れ屋だから、今やっていることを自分からあまり言わないよね。アートって言っても、俺は「芸術」と「芸能」っていうのが半々じゃなきゃいけないっていう気分があるんだけど、似てるんだよね。芸術、芸術って言っても、純粋な芸術じゃなくて、ちょっと不純っていうか、非純っていうか、そういうのが混ざらないと。

前回の末井さんの回でも話したけど、“風俗”といってもね、性と俗が一緒にあるという、性と俗をまぜこぜにするということなんだよ。今の現代アーティストとか、普通のヤツも、“風”だけにするのがアートとか、それが品がいいことだと思っている。でもね、人間ということの、人間の動物性というかさ、動物を忘れている。要するに、風になる、俗から逃げてね。俗をなしにするのが芸術だと思っているわけ。だから、まがいものが多いんだよ。現代アートっていうのは。つまんないのが多いよね。わからないからつまらないんじゃなくて、つまらないんだもん。たけしさんは、俗を持っているから、いいんだよ。
今、病院に行ってるだろ。いい薬には毒が入っていなくちゃいけないっていう感じなんだよ。それをより良いものにできるか、毒にいっちゃうかというのは、その人のコトなんだからさ。でもね、すべてに、俗があるんだから。生きることに。俗世間と言うじゃない。今のアートじゃないけど、現代美術と称してエラぶっているだけじゃだめなんだよ。おもしろくないよね。
「たけし」から「武」
今の顔が一番いい
「男ノ顔」の第1回、一番最初にたけしさんを撮ったんだ(1997年にスタートした雑誌『ダ・ヴィンチ』の巻頭グラビア「アラーキーの裸ノ顔」の第1回のポートレートがビートたけし。連載中)。バイク事故の3年ぐらい後だったかな。あの映画『HANA-BI』を撮ってた頃だよ。番組の収録の途中に廊下に出てきてもらって撮ったんだ。なんかやるぞって、自信にあふれている感じがあったな。その後だよ。映画で賞を獲ったんだ。(1998年、北野武監督作品『HANA-BI』が第54回ヴェネツィア国際映画賞の金獅子賞を受賞。)
「男ノ顔」が200回を超えて、それまでに撮ってきた男の顔で写真展をやったんだ。分厚い写真集も作ってね。(2015年、表参道ヒルズで「荒木経惟写真展 『男―アラーキーの裸ノ顔―』を開催。1997年から2014年までの17年間に撮影した、各界で活躍する男性200人以上のポートレートによる展覧会。KADOKAWAより同名の写真集を出版。)
その展覧会の時に、“男の顔は「たけしから武」だ”って言って、たけしさんのポートレートを撮らせてもらった。年末のさ、テレビとかで一番忙しい時に(2014年末)、2時間ぐらい時間をつくってくれたんだ。忙しいのに付き合ってくれて、嬉しかったね。今度はスタジオで撮ったんだ。バックは無地で、たけしさんとサシで撮るって。何も話さなくても、気持ちが入ったり来たりしてね。撮影は15分くらいだったね。終わった後に、雑誌の取材にも付き合ってくれてさ。これまでの「男ノ顔」の写真を見ながら、ずっと話してくれたよ。