荒木経惟 写真に生きる 写真人生の出会い
俺が世界で一番好きな写真家 ロバート・フランクとの出会い
全11回
第10回

嬉しかった、フランクからの
「アラキ、ナンバーワン」
ロバート・フランク【註1】は、俺が世界で一番好きな写真家なんだよ。最初に会ったのは、30年ぐらい前の夏だったね(1989年8月)。ロバート・フランクが東京に来ていて、荒木に会いたいと言ってると連絡をもらったんだ。会った時に、「アラキ、ナンバーワン」と言って握手してくれてね。嬉しかったね〜。新宿ですき焼き食べて、「DUG」(ジャズ喫茶)に行って、ゴールデン街に行ったんだ。その後、六本木にも行ってカラオケやって、大騒ぎしたんだよね。
それから何度も会ってる。「ARAKI NUMBER ONE」って書いてある写真をフランクからもらったんだ。嬉しくてね。それをTシャツにして着てたね。
その次にフランクに会ったのは、「写真新世紀」の審査員として来日した時だね(1994年)。俺は最初からずっと審査員やっててね。フランクはゲスト審査員として招かれたんだ。(「写真新世紀」は1991年にスター トしたキヤノン主催の新人写真家の発掘・育成・支援を目的とした公募コンテスト。若手写真家の登竜門で、多くの写真家を輩出している。荒木は1992年の第1回から2010年の第33回まで審査員を務めた。)
「写真新世紀」は公開審査っていうのがあるんだけど、フランクは「まずシャッターを切る時に目を閉じろ」って言ったんだ。まず目を閉じて、自分の心の声を聴いて、自分の直感と欲望で写真を撮るんだと。もがきながら、撮って撮って、撮り続けろってね。そうすると見えてくる。自分の進むべき道とか、どんな作品を作ればいいかっていうのがね。その時のフランクの言葉は忘れられないね。
フランクは、前に住んでた「ウィンザースラム豪徳寺」【註2】に遊びに来てくれたんだ。なぜかメジャーをね、お土産に持ってきてくれた。その時、バルコニーで撮った写真があるよ。じゃあ、ロバート・フランクの距離で撮ろうって、ふざけて距離を測って撮ったりしてね。それと、猫だか犬だかわからないんだけど、フランク作のオブジェも持ってきてくれたね。俺は下駄をプレゼントしたんだ。その下駄を履いたフランクを撮ってる。足元にコップが転がってるだろ。俺が彼の足元に、わざとビールをこぼしたんだ。画面がおもしろくなるだろ。
フランクがさ、おもしろい写真を送ってきてくれたこともあるね。テレビ画面に写っている荒木大輔(野球選手、当時ヤクルトスワローズ)の後ろ姿の写真でね。ユニフォームの名前が「ARAKI」だろ。背番号が「11」でさ、「ナンバーワン」ってね。あっ、アラキだって思ってくれたんだね。いつも「ナンバーワン」って言ってくれてさ、嬉しいよ。
「魂だけが写っているみたい」
フランクのポートレート
ロバート・フランクのポートレートも撮ったんだよね。男前な映画監督ジム・ジャームッシュのポートレートも撮ったんだけど、このフランクの写真を見てね、「魂だけが写っているみたいだ」って言ってくれたんだ。