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伊勢正三 メロディーは海風に乗って

未明の時間に何かが生まれる

全13回

第1回

伊勢正三 撮影:吉田圭子

家の真ん前が海だった。朝早く行って海面を覗いていると大きな魚がいっぱいいる。それを捕まえたいって思うんだけど、簡単にはいかない。それで、どうやったら釣れるかを子供ながら考えて、餌や釣り糸などにいろんな工夫をして、大人の釣り師に混じって負けじと釣ってた。

大分県津久見市。僕の生まれ育った故郷だ。

子供のころの遊びといえば、とにかく外に出ることだった。海へ山へ、自然のなかで過ごすのが当たり前の環境だったから。自然のサイクルのなかにちゃんと自分が入っている心地よさっていうのかな、それは大きくなっても変わらずにあって、僕のクリエイティブの源泉としてずっと大切にしている感覚だ。

津久見の景色
津久見の景色

意外と思われるかもしれないけど、ずいぶんアクティブな子供だった。よく叱られたしね。暗くなるまで野球をするのは当たり前で、大晦日から正月にかけては、除夜の鐘が鳴ったら隣町の山に何時間もかけて登って初日の出を拝んで帰るっていうこともやっていた。あと、これは後々母から聞いた話なんだけど、勉強しようぜって友達を何人か家に呼ぶのはいいんだけど、勉強もやらずにいつも最初に寝てたらしい。自分ではぜんぜん憶えてないんだけど……。

音楽との出会いで言うと、初めて自分で買ったレコードは坂本九の「上を向いて歩こう」(1961年)だった。たしか東芝の赤いシングル盤だったと思うけど。アーティスト的には荒木一郎さん。「空に星があるように」(1966年)が大好きで、あのシンガーソングライター然とした佇まいにも惹かれるところがあった。ちょうどそのころかな、中学2年生のときにウクレレを買ってもらったのは。それが手にした最初の楽器だった。

幼少期
幼少期

どうしてウクレレだったのか。たぶん流行ってたんだろうね。自分が欲しくて親に言ったのか、親が与えてくれたのか、そのあたりはわからないんだけど、近所にあった川村楽器というところで買ってもらった。すぐに物足りなくなって同じ楽器店でアコースティックギターを買ってもらうのだが。ウクレレは小さいし弦が少ないからわりと簡単に弾くことができる楽器だ。そういう意味ではすごく身近に感じた。実際にギターと比べても簡単だしね。例えばコードがCだったら、一弦の3フレット目だけを押さえればCになるから。

加山雄三さんの「お嫁においで」(1966年)をよくウクレレで伴奏しながら歌ってたな。話は飛ぶけど、つい何年か前、加山雄三さんのライブにゲストでお声がけいただけるという機会があって、本当に光栄だった。さらに去年(2023年)には、BEGINと沖縄でライブをやった時(『うたの日コンサート』)に、アンコールで彼らがいろんな曲をカバーしたんだけど、その曲目のなかに「お嫁においで」があって、自ら名乗り出てウクレレでやらせてもらった。中学生以来だったんだけど、全部指が憶えていた。自分の少年時代とこれまで僕が作ってきた音楽が時空を超えて繋がっているような、少し不思議な気分になった。

幼少期

こうやって振り返ると、いかに素晴らしいメロディに出会ってきたかというのがわかる。いいメロディだな、いい歌詞だな――そう感じられること以上に“いい曲”というものはないのではないかと思う。僕の曲作りにおいても、まずはいいメロディありき。常に曲先で、次に、そのメロディに最もはまる言葉を集めていく。そうすれば自然と曲になっている。いつもそう。

僕がプロになって初めて作った曲が「なごり雪」。そして次にできたのが「22才の別れ」。21歳のときだった。

幼少期

2曲とも出来上がったのは、暗い夜とそれが白々と明けていく未明から夜明けにかけての時間だった。その時間は僕にとっては特別だ。曲ができるのはいつも未明の時間帯。無になれる瞬間。どこか自分が入れ物になったような感覚がして、音楽と一体となる。

そうやって考えたら、子供の頃もそうだったなっていうことに思い至る。いつも日が暮れるまで外でヘトヘトになって遊んで帰って、ご飯を食べたらすぐに寝てしまう。それで暗いうちに目を覚まして、そこから宿題をやったり絵を描いたりしていた。それは僕のかけがえのないクリエイティブな時間の始まりだった。「なごり雪」も「22才の別れ」も、そこからつながっている。

幼少期
津久見の風景

取材・構成:谷岡正浩

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ライブ情報

『なごり雪』50周年スペシャル 伊勢正三&イルカ コンサート
【日程】
5月18日(土)神奈川・茅ヶ崎市民文化会館
5月26日(日)東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
6月2日(日)埼玉・サンシティ越谷市民ホール
6月7日(金)神奈川・相模女子大学グリーンホール
6月9日(日)兵庫・アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)大ホール
6月15日(土)宮城・仙台銀行ホール(イズミティ21)大ホール
6月23日(日)鹿児島・川商ホール(鹿児島市民文化ホール 第1ホール)
7月6日(土)奈良・なら100年会館
7月13日(土)佐賀・鳥栖市⺠文化会館
7月15日(月・祝)沖縄・那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
7月21日(日)愛知・Niterra日本特殊陶業市⺠会館フォレストホール
7月28日(日)山口・KDDI維新ホール
料金:9,000円

★ぴあアプリ先行
3月3日(日)23:59まで実施中
対象会場:LINE CUBE SHIBUYA、サンシティ越谷市民ホール、相模女子大学グリーンホール

プロフィール

伊勢正三(イセショウゾウ)
1951年大分県津久見市生まれ。シンガーソングライター&ギタリスト
「かぐや姫」「風」という70年代を代表する両スーパーグループで一時代を築く。
80年にはソロとして、武道館コンサート等も成功させるが、その後、表立った活動は控えるようになる。
93年本格的に再始動。かつて8枚のアルバムでチャート1位を記録したその楽曲は、様々なアーティストにカバーされ、時を経た今もなお多くの支持を受けている。
現在はソロのLIVE、他のアーティストとのコラボレーション、コンサートプロデュース等、幅広く活動している。

■公式サイト:https://www.ise-shozo.com/