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伊勢正三 メロディーは海風に乗って

理想の音楽を求めて

全13回

第2回

伊勢正三 撮影:吉田圭子

イメージとして、僕の音楽的ルーツには洋楽があると思っている人も多いかと思う。とくに風の中盤からソロに至るまでは、AORを追求したサウンドが多かったということも影響しているかもしれない。でも、僕のルーツは完全に昭和の歌謡曲。もちろん高校生のときにはビートルズも聴いてはいたけど、人並み程度でしかなかった。

それよりも、僕のアイドル的な存在は、なんと言っても小椋佳さんだった。かぐや姫に加入してからも、(南)こうせつさんや(山田)パンダさんが「ミュージックマガジン」を読みながら海外のアーティストの新譜や最新動向について話しているのを横目に、僕はひとりで小椋佳さんの音楽を聴いていた。

前回も言ったように、僕にとっての“いい曲”の絶対条件は、いいメロディにいい言葉だから、自ずとドメスティックなものにはなってくる。とりわけ小椋佳さんが素晴らしいのは、琴線に触れる普遍的なメロディはもちろん、その歌詞にある。例えば「さらば青春」には、一番に〈黒い水〉、二番には〈黒い犬〉という表現が出てくる。全体的にトーンの暗い曲ではあるのだが、その言葉があることで暗さだけではない深さを感じられるようになっている。深さというのは、言ってしまえば簡単に理解できないということだ。美しいメロディに導かれて曲の世界観はこれ以上ないほどの解像度で迫ってくる一方で、ちゃんとわからない部分があるというのは、余程卓越したソングライティングのなせる技だ。後々、この曲の〈黒い犬〉の表すものに気づくんだけど、僕の場合は実に50年かかった。

中学(美術部長)時代

小椋佳さんと並べて言及するのはいささか恐れ多いのだが、「22才の別れ」の歌詞において、自分で書いたにもかかわらず、いったいそれが何のことかいまだにわからないという一節がある。

〈私には鏡に映ったあなたの姿を見つけられずに 私の目の前にあった幸せにすがりついてしまった〉

この歌詞の意味するところが何なのか。それは今でも正解はない。自分の姿を直接見られるのは自分以外の他人で、自分で自分を見ようとしたら鏡を覗き込むしかない。けれど、そこに映っている自分が果たして他人が見ているような自分と同じ姿形をしているのだろうかっていうことは永遠にわからない。そのあたりの怖さがこの一節からは伝わってはくるはずだ。でも、本当に意味していることは作った自分でもわからない。

曲作りというのは、自然とあるものを掴むという感じで僕は捉えている。よくそれをクラウドに例えるんだけど、みんなの頭の上にフワフワ浮かんでいるクラウドのなかにはすでに“いい歌”があって、これを自分で掴めるかどうか、なのだ。うまく掴めたときに、それが例えば「なごり雪」になる。だけど、ちょっとしたことでそれは僕の手をすり抜けていき、他の人の手に渡ることになる。そうするとそれは「なごり雪」ではなく、他の名曲として世の中に放たれる。あくまでイメージではあるのだけど、いい曲ができるかどうかっていうのは、そういうことなんじゃないのかなって思うのだ。

中学運動会

こんなことを言ったら身も蓋もないけれど、曲を作ろうと思ったら30分ももらえれば1曲くらい簡単に書けてしまう。だけど、それはあくまで曲の形をしたものであって、それがいいものかどうかと言えば、本当にいいものにはならない。では、本当にいいものとは何か?  それは誰かの役に立てるものであり、人々に喜んでもらえるものなのだと思う。仕事というのはすべてそういうものだと信じている。要するに、自分で納得できないものを出すわけにはいかないし、そういうものが自分以外の誰かを幸せにできるとは思えないということだ。

これからこの連載で記していくのは、半生をたどりながら、僕がいかに自分の曲に向き合ってきたかという部分的な記録だ。昭和歌謡のメロディから出発して、ミュージシャンとしての欲に忠実に従って追求したAORを通過し、自分の理想とする音楽にどこまで近づけたか──今のところフルアルバムとしては最新作となる『Re-born』(2019年)まで、一気に駆け抜けていきたい。

中学運動会

取材・構成:谷岡正浩

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ライブ情報

『なごり雪』50周年スペシャル 伊勢正三&イルカ コンサート
【日程】
5月18日(土)神奈川・茅ヶ崎市民文化会館
5月26日(日)東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
6月2日(日)埼玉・サンシティ越谷市民ホール
6月7日(金)神奈川・相模女子大学グリーンホール
6月9日(日)兵庫・アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)大ホール
6月15日(土)宮城・仙台銀行ホール(イズミティ21)大ホール
6月23日(日)鹿児島・川商ホール(鹿児島市民文化ホール 第1ホール)
7月6日(土)奈良・なら100年会館
7月13日(土)佐賀・鳥栖市⺠文化会館
7月15日(月・祝)沖縄・那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
7月21日(日)愛知・Niterra日本特殊陶業市⺠会館フォレストホール
7月28日(日)山口・KDDI維新ホール
料金:9,000円

★ぴあアプリ先行
3月3日(日)23:59まで実施中
対象会場:LINE CUBE SHIBUYA、サンシティ越谷市民ホール、相模女子大学グリーンホール

プロフィール

伊勢正三(イセショウゾウ)
1951年大分県津久見市生まれ。シンガーソングライター&ギタリスト
「かぐや姫」「風」という70年代を代表する両スーパーグループで一時代を築く。
80年にはソロとして、武道館コンサート等も成功させるが、その後、表立った活動は控えるようになる。
93年本格的に再始動。かつて8枚のアルバムでチャート1位を記録したその楽曲は、様々なアーティストにカバーされ、時を経た今もなお多くの支持を受けている。
現在はソロのLIVE、他のアーティストとのコラボレーション、コンサートプロデュース等、幅広く活動している。

■公式サイト:https://www.ise-shozo.com/