Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

伊勢正三 メロディーは海風に乗って

「神田川」以前のかぐや姫

全13回

第4回

伊勢正三 撮影:吉田圭子

「かぐや姫のメンバーとして東京に来ないか?」

当時こうせつさんは、南こうせつとかぐや姫という、いわゆる第一期かぐや姫をやっていた。その第二期のメンバーとして僕を誘ってくれたというわけだ。驚いたし、渡りに船だ、とも思った。即答はしなかったけど、その時点でもう心は決まっていた。あとは父親をどう説得するか……。

とにかく東京に出てしまえばなんとかなると思った。それで大学進学を口実に上京することにした。僕が入学したのは千葉にある大学だったのだが、大分の田舎育ちの人間からしたら──あくまでその当時の感覚ではあるが──東京も千葉も同じようなものだろう、そんな地理感覚だった。ところが、下宿のあった場所はとんでもない田舎だった。最寄駅は本八幡駅なのだが、そこから小一時間くらい延々田畑のなかを歩いてようやくたどり着くようなところだった。結局、かぐや姫の活動がすぐに始まったので、そこには3カ月ほどしかいなかったのだが。

撮影:吉田圭子

かぐや姫というグループに多くの人が抱くのは、四畳半フォークと呼ばれる音楽性からイメージされる、ちょっと湿っぽくてシリアスなものではないかと思う。それは圧倒的に「神田川」のヒットによるところが大きい。しかし、僕の入った当時のかぐや姫(1971年)は、第一期のスタイルを継承したコミックバンドだった。リヤカーを引いてちり紙交換のプロモーションを賑々しくやったり(笑)、ステージでメンバーのひとりが扇子を持って踊ったり、僕はそのなかで一番年下のいじられ役だった。

グループを新たにする際に、こうせつさんはバランスを考えたのだと思う。圧倒的に歌の上手いこうせつさんがいて、キャラの立った年上の山田パンダさんがいて、そして何が目立ってできるというわけでもない一番若いやつがいる。その最後の役割に僕はぴったりだったのだと思う。後年、こうせつさんが「どうして伊勢正三をかぐや姫に引き入れたのか?」という質問に、ギターがうまいやつが高校のときの後輩にいて、というような話をしてくれるのだが、よく考えたらリードギターもこうせつさんだったし、やっぱりグループの最良のバランスを考えたときにパッと僕が思い浮かんだ、というのが真相なのではないかと想像する。

かぐや姫

僕が入ったばかりの頃のかぐや姫はすでに人気があって忙しかった。ラジオ番組のレギュラーもすでに持っていた。僕がかぐや姫に入って経験した初めての演奏というのはテレビ番組だったと記憶している。「3時のあなた」(1961〜1981)というとても人気のあった情報番組だ。そのとき司会をしていたのが山口淑子(李香蘭)さんで、「こうせつさん、新しいメンバーはこの坊や?」って言われたのを今でも憶えている。まだ19歳になったばかりだった。

「神田川」以前のスケジュールをざっと記すと、こんな感じの毎日だった。朝から横浜でラジオのレギュラー番組の収録をやり、東京に戻ってライブハウスの昼間の部に出演、それから大学の学園祭のステージをやって、またライブハウスに戻って夜の部に出演し、深夜のラジオ番組の収録。日によっては地方に行くこともあった。ギターケースを持ったままステージに上がってその場でチューニングをして演奏を始めることもザラだった。思えば今ではなかなか考えられないようなことをやっていたものだ。とにかくオファーがあれば何でもやります、どこへでも行きますという感じだったから、スケジュールも殺人的だった(笑)。

その頃は高円寺の風呂なしトイレ共同のアパートに住んでいて、朝のラッシュ時にギターケースを抱えて満員電車に乗るわけだが、当時の満員電車は今の比ではないくらいぎゅうぎゅう詰め。駅員が入りきらない乗客の身体を押して強引に扉を閉めていた。そんな感じだから、ギターケースを持っているだけで大ひんしゅく。おまけに駅に着くたびに人の出入りがあって、気づいたらギターケースが自分の手を離れて人波の遠くの方まで行ってしまったこともあった。

でも、そうしたことがまったく苦ではなかった。むしろ楽しかった。若かったからだと思う。

かぐや姫

取材・構成:谷岡正浩

ぴあアプリ限定!

アプリで応募プレゼント

★伊勢正三サイン入り色紙を3名様にプレゼント

【応募方法】

1. 「ぴあアプリ」をダウンロードする。

こちらからもダウンロードできます

2. 「ぴあアプリ」をインストールしたら早速応募!

ライブ情報

『なごり雪』50周年スペシャル 伊勢正三&イルカ コンサート
【日程】
5月18日(土)神奈川・茅ヶ崎市民文化会館
5月26日(日)東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
6月2日(日)埼玉・サンシティ越谷市民ホール
6月7日(金)神奈川・相模女子大学グリーンホール
6月9日(日)兵庫・アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)大ホール
6月15日(土)宮城・仙台銀行ホール(イズミティ21)大ホール
6月23日(日)鹿児島・川商ホール(鹿児島市民文化ホール 第1ホール)
7月6日(土)奈良・なら100年会館
7月13日(土)佐賀・鳥栖市⺠文化会館
7月15日(月・祝)沖縄・那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
7月21日(日)愛知・Niterra日本特殊陶業市⺠会館フォレストホール
7月28日(日)山口・KDDI維新ホール
料金:9,000円

★ぴあアプリ先行
3月3日(日)23:59まで実施中
対象会場:LINE CUBE SHIBUYA、サンシティ越谷市民ホール、相模女子大学グリーンホール

プロフィール

伊勢正三(イセショウゾウ)
1951年大分県津久見市生まれ。シンガーソングライター&ギタリスト
「かぐや姫」「風」という70年代を代表する両スーパーグループで一時代を築く。
80年にはソロとして、武道館コンサート等も成功させるが、その後、表立った活動は控えるようになる。
93年本格的に再始動。かつて8枚のアルバムでチャート1位を記録したその楽曲は、様々なアーティストにカバーされ、時を経た今もなお多くの支持を受けている。
現在はソロのLIVE、他のアーティストとのコラボレーション、コンサートプロデュース等、幅広く活動している。

■公式サイト:https://www.ise-shozo.com/