Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

伊勢正三 メロディーは海風に乗って

かぐや姫の解散、つま恋の熱狂と風

全13回

第7回

伊勢正三 撮影:吉田圭子

かぐや姫は3年で一区切り──。こうせつさんは何となくそんなことを最初から言っていたような気がする。だから実際に解散をするって決まったとき、僕個人としても驚きはさほどなかった。特に僕は一番年下の立場で、先輩ふたりについていきますっていうスタンスだったから尚更だ。

「神田川」がとんでもなくヒットして、かぐや姫のイメージがそのまま「神田川」になってしまった。そのことと解散が直結しているとまでは言わないけれど、あくまで僕の感じ方として言うならば、後に四畳半フォークと半ば揶揄を込めて言われるように、かぐや姫の持つ一部分だけが妙に膨れ上がりすぎてしまったなという気がした。前にも触れたとおり、かぐや姫は何でもありのミクスチャー、どちらかというとパンキッシュな部分がコアにあるグループという認識は今でも変わらない。

「吉田拓郎・かぐや姫 コンサート イン つま恋 1975」より

かぐや姫の解散が決まった時点で、実は僕だけその後が白紙状態だった。こうせつさんはすでにソロアルバムのレコーディングに入っていたし、パンダさんもデビューが決まっていた。

「で、正やんは何すんの?」

僕はソロとしてやっていく自信がいまいち持てなかった。バンドを組むつもりもなかった。そこで目をつけたのが大久保(一久)くんだった。彼が参加していた「猫」というグループとはよく一緒にライブをやったりしていたので、しょっちゅう楽屋で顔を合わせていた。大久保くんは僕よりも一つ年上なのだが、ミュージシャンの集まる楽屋ではお互いに若い方だったので自然と親しく話をするようになった。広い楽屋の片隅で先輩たちに遠慮しながら、こんな弦の巻き方があるよとか、ギターはやっぱりマーチンがいいねとか。とにかく話していて楽な人だった。

「吉田拓郎・かぐや姫 コンサート イン つま恋 1975」より

大久保くんとなら一緒にやれそうだな。そう思って、僕の方から彼に話を持ちかけ、風を結成した。あと、大久保くんはかなりのイケメンだったから、きっと人気が出るんじゃないかなっていう下心があったのも正直に告白しておくことにしよう(笑)。実際、そのとおりになったわけだし。

かぐや姫の解散ツアーは、かぐや姫の曲はやりつつメンバー3人それぞれのソロコーナーがあって、そこで僕は大久保くんと風として2曲くらいやらせてもらった。こうやって記せば、解散ツアーだというのに何だかずいぶんおおらかな話だ。

「吉田拓郎・かぐや姫 コンサート イン つま恋 1975」より

1975年4月に解散コンサートを実施し、その4カ月後の8月にかぐや姫はまたステージに立つことになる。それが、今や伝説的な野外コンサートとして語り継がれている「つま恋コンサート」だ。静岡県掛川市のつま恋で8月2日の夕方から3日の早朝にかけて行われた12時間のオールナイトコンサートで、発起人はもちろん吉田拓郎さん。僕たちは解散していたのだが、拓郎さんの鶴の一声でつま恋に出ることになった。

つま恋コンサートは、とにかくすごかったとしか表現できない。何がすごかったのかと言えば、オーディエンスを中心とした熱気だ。公式発表では、その日つま恋に集まったのは5万人とか6万人ということになっているが、そんなものではなかった。8万人くらいいたのではないだろうか。ステージに立って見ると、遠くの丘の方まで延々人波が続いていた。その後、何度かつま恋でコンサートをやっているものの、そこまでの光景は75年のときだけだ。オーディエンスもアーティストもスタッフも、誰もがまだ経験したことのないものに参加しよう、一目見ようという熱気が渦巻いていた。こうせつさんは自分のステージが終わった後にすべてを出し尽くして泡を拭いてそのまま倒れてしまったくらいだ。

「吉田拓郎・かぐや姫 コンサート イン つま恋 1975」より

夜明けとともにみんなで歌った拓郎さんの「人間なんて」は今でも忘れられない。あんなことはもうないだろう。同じ熱狂でも「かぐや姫Today」(78年の再結成ライブ)のときは全然違っていた。「かぐや姫Today」は横浜スタジアムでやった初のライブで5万人が集まったのだが、「つま恋コンサート」の熱狂と比べると、それはまったく異質のものだった。言葉を選ばずに言えば、僕はステージで冷めていた。冷静だった。それは風として経験した数年間が僕に与えたものの大きさを如実に示した瞬間でもあった。

撮影:吉田圭子

取材・構成:谷岡正浩

ぴあアプリ限定!

アプリで応募プレゼント

★伊勢正三サイン入り色紙を3名様にプレゼント

【応募方法】

1. 「ぴあアプリ」をダウンロードする。

こちらからもダウンロードできます

2. 「ぴあアプリ」をインストールしたら早速応募!

ライブ情報

『なごり雪』50周年スペシャル 伊勢正三&イルカ コンサート
【日程】
5月18日(土)神奈川・茅ヶ崎市民文化会館
5月26日(日)東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
6月2日(日)埼玉・サンシティ越谷市民ホール
6月7日(金)神奈川・相模女子大学グリーンホール
6月9日(日)兵庫・アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)大ホール
6月15日(土)宮城・仙台銀行ホール(イズミティ21)大ホール
6月23日(日)鹿児島・川商ホール(鹿児島市民文化ホール 第1ホール)
7月6日(土)奈良・なら100年会館
7月13日(土)佐賀・鳥栖市⺠文化会館
7月15日(月・祝)沖縄・那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
7月21日(日)愛知・Niterra日本特殊陶業市⺠会館フォレストホール
7月28日(日)山口・KDDI維新ホール
料金:9,000円

★ぴあアプリ先行
3月3日(日)23:59まで実施中
対象会場:LINE CUBE SHIBUYA、サンシティ越谷市民ホール、相模女子大学グリーンホール

プロフィール

伊勢正三(イセショウゾウ)
1951年大分県津久見市生まれ。シンガーソングライター&ギタリスト
「かぐや姫」「風」という70年代を代表する両スーパーグループで一時代を築く。
80年にはソロとして、武道館コンサート等も成功させるが、その後、表立った活動は控えるようになる。
93年本格的に再始動。かつて8枚のアルバムでチャート1位を記録したその楽曲は、様々なアーティストにカバーされ、時を経た今もなお多くの支持を受けている。
現在はソロのLIVE、他のアーティストとのコラボレーション、コンサートプロデュース等、幅広く活動している。

■公式サイト:https://www.ise-shozo.com/