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伊勢正三 メロディーは海風に乗って

風はやまない

全13回

第10回

アルバム『海風』では、初めてのLAレコーディングを敢行した。現地のミュージシャンやエンジニアから曲が絶賛され、最高の雰囲気で最高の音を録音することができた。

レコーディングで使用したのは「インディゴ・ランチ・スタジオ」というマリブの丘の上にあるスタジオだった。その昔、ネイティブ・アメリカンが狼煙を上げていた聖地の丘にあって、有名なロックミュージシャンが自分たちのレコーディングのために作ったスタジオだった。

『海風』をレコーディングしていた77年から79年くらいにきちんとした機材のある環境で録られた作品が、どの時代よりももっとも音が良いものだと思う。つまり、アナログの最後の時代ということだ。だから『海風』は音に関して言うならば当時の最高をマークしている。どれだけシンプルなサウンドだったとしても、音が良ければすんなり入り込める。僕の音楽的な基礎にはそこの部分が欠かせない。だからいい機材があったらすぐに手に入れたくなってしまうんだけど……。

風 LAレコーディングオフショット

『WINDLESS BLUE』『海風』の2作品を通じて、自分のやりたい音楽を形にすることはできたというやりがいと自信があった。しかしそのことがかえって、僕と大久保くんとの距離が離れてしまう原因となった。はっきり言ってしまえば、僕がどんどん勝手に好きな方向に進んで行ってしまったからなのではあるが。

『海風』で取り入れた和のスピリットという部分をもっと追求する形でやりたいと思ったのが、風の最後のオリジナル・アルバムとなった5th『MOONY NIGHT』(1978年10月)だ。この作品もLAレコーディングだったのだが、僕にとっては前作と違い過酷な現場となってしまった。ミュージシャンはピークの演奏をしてくれるのだが、僕はどうしてもそれに納得がいかなかった。何かが違うと感じていた。言葉にすると平易になってしまうが、「もっとオリジナリティが欲しい」ということを必死に訴えた。要するに、和のテイストを入れてくれということだ。けれどじゃあ、「具体的にはどうすればいいんだ?」と聞かれれば、うまく指示することができない。それで「勝手にしろ」という気まずい雰囲気になることもあった。

『海風』ジャケット

片や大久保くんはというと、ミュージシャンたちの個々の解釈による演奏のまますんなりとレコーディングが終わっていく。ただ僕は、そうした様子を見て、やはり納得することはできなかった。自らのオリジナリティではなく、ミュージシャンのオリジナリティのなかで曲が出来上がっていくということに対しての抵抗感がどうしても拭えなかったのだ。

それでも大久保くんは僕に寄り添おうとしてくれた。けれど、僕はもうこの時点ですでに風の本質を見失っていた。

風の最初の頃、ツアーはふたりのアコギと大久保くんのハーモニカだけだった。ところが後期になると、フルバンドにブラスセクションやコーラスが付いて、おまけに会場はアリーナで、僕はほとんどエレキしか弾かないし、何もかもが変貌を遂げていた。そうやってデュオがデュオとして成長し、大きくなっていくぶんにはもちろん構わない。けれど僕たちは、気づけばユニットみたいな感じになっていて、それぞれがそれぞれのやりたい方向を向いてなんとかくっついているような状態だった。特に僕の意識としては、『海風』の頃くらいからは明確にソロ志向になっていたのだと思う。

撮影:吉田圭子

ファンの間でも『海風』を出した頃、「正やんは変わってしまった」といった反応があったのは事実だ。私たちが求めているのはそういうものじゃないのだと。けれど一方で、『海風』から好きになったという人もいる。正解はない。

そもそも風は、僕と大久保くんが、せっかく新しいことを始めるのだから、どうせだったらかっこいいことをやろうよと言って、ほとんどそれくらいのことで出発したのだ。だから『海風』だって『MOONY NIGHT』だってもちろん風だし、活動しないことも風のあり方だと言えるのだ。風に、いつ結成、いつ解散という区切りはない。解散はしていないし、活動休止とも言っていない。

風 ライブ写真

取材・構成:谷岡正浩 撮影:吉田圭子

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ライブ情報

『なごり雪』50周年スペシャル 伊勢正三&イルカ コンサート
【日程】
5月18日(土)神奈川・茅ヶ崎市民文化会館
5月26日(日)東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
6月2日(日)埼玉・サンシティ越谷市民ホール
6月7日(金)神奈川・相模女子大学グリーンホール
6月9日(日)兵庫・アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)大ホール
6月15日(土)宮城・仙台銀行ホール(イズミティ21)大ホール
6月23日(日)鹿児島・川商ホール(鹿児島市民文化ホール 第1ホール)
7月6日(土)奈良・なら100年会館
7月13日(土)佐賀・鳥栖市⺠文化会館
7月15日(月・祝)沖縄・那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
7月21日(日)愛知・Niterra日本特殊陶業市⺠会館フォレストホール
7月28日(日)山口・KDDI維新ホール
料金:9,000円

プロフィール

伊勢正三(イセショウゾウ)
1951年大分県津久見市生まれ。シンガーソングライター&ギタリスト
「かぐや姫」「風」という70年代を代表する両スーパーグループで一時代を築く。
80年にはソロとして、武道館コンサート等も成功させるが、その後、表立った活動は控えるようになる。
93年本格的に再始動。かつて8枚のアルバムでチャート1位を記録したその楽曲は、様々なアーティストにカバーされ、時を経た今もなお多くの支持を受けている。
現在はソロのLIVE、他のアーティストとのコラボレーション、コンサートプロデュース等、幅広く活動している。

■公式サイト:https://www.ise-shozo.com/