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伊勢正三 メロディーは海風に乗って

80年代──エネルギーにあふれていた時代

全13回

第11回

風からソロになるまでに結構ブランクがあったという感覚だったのだが、改めて振り返ってみると実質1年くらいしか空いていない。そのあいだは旅をしたり、まあとくにこれといって何をしていたわけではなかったのだが、曲作りは自然と行っていた。

ソロになってリリースした1枚目のアルバム『北斗七星』(1980年4月)は、風の最後のアルバム『MOONY NIGHT』で自分がやりきれなかった部分を追求しようと思い、制作に取り掛かった。しかし蓋を開けてみたら、自分の描いたところへはなかなか着地できなかった。理由はいくつかあるのだが……、もっとも大きかったのはレコーディングをしたメンバーの中心になっていたのが、PARACHUTE(※林立夫、今剛など国内の一流ミュージシャンが集まったスーパーバンド)の面々だったということだ。語弊がないように言っておくと、彼らに原因があるわけではない。単純に彼らの技量に僕が追いついていなかった──それだけだ。

『北斗七星』ジャケット

それともうひとつあったのが、伊勢正三のソロ1作目への周りの期待感も含めた僕自身へのイメージだ。やっぱりかぐや姫と風のインパクトが強いというのがソロになって改めて実感することとなった。言葉は悪いかもしれないが、どこかでそういったものと妥協しなければいけないというか、他人が求めている感じのものを入れなければいけないのかなと迷うところも正直言ってあった。

『北斗七星』をリリースしたあと、武道館でライブを行うのだが、やっぱりお客さんが求めるものが最新アルバムに入っている曲よりも、かぐや姫や風の時代にヒットした曲を求めているというのは肌で感じられた。また、この武道館でのライブのときにこんなことがあった。テレビCMとのタイアップでヒット曲が生まれはじめていた時代、僕のところにもある有名企業から大きなタイアップの話が持ちかけられた。武道館のライブに企業の人たちも来てくれたわけだが、彼らが気になるのは、そこに来ているお客さんがどんな人たちなのかということであり、僕の音楽ではなかった。そのことに当時の僕は違和感を感じてしまい、結局断ってしまった。今ならそんなバカなことは絶対にしないけど(笑)。

やはり、自分のやりたいと思う音楽をとことん追求しなければいけない──そんな思いをソロになって余計に強くした。2枚目の『渚ゆく』(1981年3月)と3枚目『スモークドガラス越しの景色』(1981年9月)は、同じ年にリリースしている。『北斗七星』でやりきれなかった部分をこの2枚でやろうと思い、それが形にできた作品となった。

撮影:吉田圭子

伊豆にあるスタジオでバンドメンバーと合宿をしながら作ったので、出てくるアイデアをすぐに形にして取り込むことができたし、この時期、とにかく曲がよくできた。ある意味でクリエイティブにおけるエネルギーのピークにあったのだと思う。

4枚目の『ORANGE』(1983年5月)では、コンピューターの打ち込みでリズムを自動演奏にするというチャレンジをしている曲がある。「Orange Grove」だ。アップルの2号機(Apple Ⅱ)を使って自分でプログラムした。ファンキーな裏のリズムや転調感など、自分としては音楽的な完成度ではかなり自信のあった曲だった。とは言え関係者のあいだでも一般的にもほとんど話題になることはなかったが。しかし最近になって、スカートの澤部渡さんがご自身のラジオ番組のなかで紹介してくれて、丸々1曲かけてくれた。こうやって、40年経って後に続く世代に僕の音楽がきちんと受け渡されているというのは本当にうれしいことだ。

『Out Of Town』(1987年9月)では、ある挫折を味わうことになる。自分の音楽をさらに深めようと思い、僕はニューヨークに渡った。風のときはLAだったが、東海岸のサウンドがどうしても欲しくなったのだ。目指すのは、完璧なR&Bというよりも、ちょっとジャズの要素が入った大人っぽい音楽。そこで、ものすごい費用をかけて機材一式を日本から持ち込み、ホテルの一室に籠もって何カ月もかけて曲作りを行った。並行しながら、様々なライブハウスやホールに通って、これは!というミュージシャンを探した。

撮影:吉田圭子

しかし、打ちのめされてしまった。実際のステージに立っているミュージシャンは言うまでもなく、例えば地下鉄のホームで演奏しているトランペッターとか、ストリートで演奏しているドラマーとか、一発で敵わないと思わせられるような腕前の人たちが、そのへんにごろごろいるわけだ。もちろん、コーディネーターを頼ってミュージシャンを集めることはできるわけだが、風の後期でそういうことも経験していたし、そうではなく、自分自身の目と耳で直感的に一緒にやりたいと思う人を探したかった。ただ、あまりのレベルの高さにショックを受け、結局はニューヨークでのレコーディングは断念することになってしまった。

『Out Of Town』には、今思えば、そうした僕自身の葛藤が刻まれているが、帰国後に大御所の樋口康雄氏と当時新進気鋭の大島ミチル氏に助けられ、サウンド的に目指すところの「海辺のジャパニーズ・レストラン」などの曲を生み出すことができたのだが──そのニューヨークのホテルの部屋に缶詰状態となり、コンピューターでの曲作りに没頭していたエネルギーとデータは抱えたまま。しかし、それが次作「海がここに来るまでに」に繋がることとなる。

そして時代は、90年代へと向かうことに。

撮影:吉田圭子

取材・構成:谷岡正浩

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ライブ情報

『なごり雪』50周年スペシャル 伊勢正三&イルカ コンサート
【日程】
5月18日(土)神奈川・茅ヶ崎市民文化会館
5月26日(日)東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
6月2日(日)埼玉・サンシティ越谷市民ホール
6月7日(金)神奈川・相模女子大学グリーンホール
6月9日(日)兵庫・アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)大ホール
6月15日(土)宮城・仙台銀行ホール(イズミティ21)大ホール
6月23日(日)鹿児島・川商ホール(鹿児島市民文化ホール 第1ホール)
7月6日(土)奈良・なら100年会館
7月13日(土)佐賀・鳥栖市⺠文化会館
7月15日(月・祝)沖縄・那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
7月21日(日)愛知・Niterra日本特殊陶業市⺠会館フォレストホール
7月28日(日)山口・KDDI維新ホール
料金:9,000円

プロフィール

伊勢正三(イセショウゾウ)
1951年大分県津久見市生まれ。シンガーソングライター&ギタリスト
「かぐや姫」「風」という70年代を代表する両スーパーグループで一時代を築く。
80年にはソロとして、武道館コンサート等も成功させるが、その後、表立った活動は控えるようになる。
93年本格的に再始動。かつて8枚のアルバムでチャート1位を記録したその楽曲は、様々なアーティストにカバーされ、時を経た今もなお多くの支持を受けている。
現在はソロのLIVE、他のアーティストとのコラボレーション、コンサートプロデュース等、幅広く活動している。

■公式サイト:https://www.ise-shozo.com/