泉谷しげる/今日ですべてが始まるさ
黄金郷は二度と戻らず、そして春夏秋冬は巡る
全10回予定
第3回

撮影:小境勝巳
俺はべつにさあ、有名になりたいとか、ましてスターになりたいなんて思いはこれっぽっちも持っちゃいないのさ。それはもう最初っから。だーからさ、エレックから『泉谷しげる登場』(1971年)なんつってデビューさせられた時には、大丈夫かな? なんて思ったもんだよね。もう弱っちゃったな……、みたいな。

だってほら、俺はイベンターになりたかったんだから(笑)。それが青い森でRCや古井戸に出会って、彼らとなんとか話をしたいがためにステージに上がってはちゃめちゃやってたらいつの間にか『泉谷しげる登場』だったから。
例えば、歌い方が独特だとか、曲が一風変わってるだとか、周りはいろいろな言い方で評価はしてくれたけど、こっちとしてはさ、みんなの前に出て行ってわーわーやってたら目の前でみんなが面白がってくれたってだけであってね。そんな、歌い方がどうとか曲がどうとか、わかんないのよ。自覚ゼロ。
なーのに、エレックはさ、とにかく曲を作れ、レコードを出せ、そんでもって地方を駆けずり回って来いと言うわけだ。参っちゃうよね、全く。わけわかんないままやってるからさ、そっか、曲作んなきゃいけないんだって思うじゃん、まだ若造なんだし。もう熱にうなされたみたいな感じだったよね、ずーっと。だってさ、1年にアルバムを2枚作れって言うんだから。そこに地方でのコンサートもびっしり組まれて、そりゃあ恐ろしいスケジュールなわけで。いったいこれ、いつ終わるんだろうな……って思いながらやってたよね。
そのへんの感覚が入っているんだよ、「春夏秋冬」という曲にはさ。もういい加減辞めさせてくれねえかな、終わりはいつ来るのかなっていうね。「春夏秋冬」をレコーディングしたときは冬でさ、風邪ひいてたんだ。だから鼻声で歌ってんの(笑)。電話がかかってきてさ、レコーディングにかかる費用ってのは高いんだから、わかってるな? 明日までに曲作って来いよって。こっちもレコーディングなんてしたことないからさ。1stアルバムの『泉谷しげる登場』はライブ盤だったから。曲もできてねえわ、どうやって録音するかもしらねえわ、そんでも、大丈夫ですって言うしかないじゃない。確か、「春夏秋冬」の1番だけはできてたのかな? そんな状態で2ndアルバム『春夏秋冬』(1972年)のレコーディングが始まったんだけど。あれはプロデューサーの加藤和彦さんがいたおかげでできたようなもんだね。

大体さ、フォークに連中はレコーディングなんて知らないんだよ。バーンと歌ってればいいじゃねーかってところがあって。音を重ねていくっていう感覚もよくわからなかったしね。だから当時、加藤さんほどそのへんのことがわかっていて、さらにこっち側のことも理解してくれてるっていう人は他にいなかったんじゃないかな。
おかげでというかなんというか、『春夏秋冬』というアルバムは、意外に都会的なものができちゃったなっていう印象だった。俺はどっちかって言うと野生的にやったつもりだったんだけどさ。出来上がったものは、あれ? おしゃれ? みたいなさ。今聴くとさすがによく出来てるなって思うけど、当時はもっと野生的で荒々しい感じを欲してたから、実は物足りなさがあった。

「春夏秋冬」は一番よく知られている歌だけどさ、べつに大してヒットしたとか、そんなことではないんだよ。けど仮に売れてたとしてもさ、それで悦に入ってたってしょうがねえじゃん。スターになりたいわけじゃないんだから。
その当時は2日に1回はどこかの場所で歌ってた。地方のレコード店とかラジオ局とか、もちろんホールでもね。古井戸と一緒にいることが一番多かったかな。もうずっと一緒。1カ月も家に帰れないなんてザラで、そうすっとさすがにカミさんが怒ってたけど(笑)。まあ、そんなこんなも含めてさ、エレック時代は青春だったのかな。いろんなアーティストも観れたしね。とにかくみんな個性的だったから。似たようなやつはひとりとしていなかった。はっきりとこいつだってわかる素晴らしさがあったんで、飽きなかった。自分がそんなやつらのファンでいられたっていうのが何より大きかった。当時イベントなんかでさ、出順をよくジャンケンで決めてたんだけど、俺はそこに参加させてもらえずに、いつも最後の出番だったんだよ。なんでだよって言ったら、お前は暴れてめちゃくちゃやるからダメだって(笑)。大体ひとり30分くらいの出番で、終わったら宴会やって馬鹿騒ぎ、そんでまた次の街へ向かうっていうその繰り返し。

エレックの最後に出したアルバムが『黄金狂時代』(1974年)っていうんだけど、そこには複雑な思いみたいなものが反映されている。皮肉も含めてさ。くだらない理由でエレックが潰れる潰れないでゴタゴタして、人を散々働かせるだけ働かせて印税もろくに払ってないとかさ。マイナーで反権力だったはずのやつらがちょっと成功して金を持ったらこんなことにしかならないのかよってバカらしくなってな。下手に有名になんてなるもんじゃねーなー。エレックで必死こいて歌ってたあの時間は黄金郷で、だからもうこれで終わりでいいや――本当に、最後のアルバムのつもりだった。まあ楽しかったぜって感じでな。
さあ、次は何をおっ始めようか。そんな時にまさかフォーライフの誘いだろ。あれ? ちょっと面白そう、なんて(笑)。

取材・構成:谷岡正浩 撮影:小境勝巳
リリース情報
ニュー・アルバム
『シン・セルフカヴァーズ 怪物』
2月12日(水)発売
3,300円(税込)

【収録曲】
1.怪物
2.世代
3.Y染色体のうた
4.つなひき
5.春のからっ風
6.イメージの詩
7,国旗はためく下に
8.翼なき野郎ども
9.たった一人の熱き想い
「怪物」MV
公演情報
『泉谷しげる全力ライブ 3時間スペシャル!』
3月22日(土) 京都・磔磔
開場16:00/開演17:00
出演:泉谷しげる、藤沼伸一、板谷達也
料金:前売8,000円/当日8,500円
※入場時ドリンク代が必要
『泉谷しげる全力ライブ90分!広島』
3月28日(金) 広島・SECOND CRUTCH
開場18:30/開演19:00
出演:泉谷しげる、板谷達也(ds)
料金:前売6,500円/当日7,000円
※入場時ドリンク代が必要
『泉谷しげる全力ライブ90分!松山』
3月29日(土) 愛媛・松山KITTYHALL
開場17:00/開演18:00
出演:泉谷しげる、板谷達也(ds)
料金:前売6,500円/当日7,000円
※入場時ドリンク代が必要
『泉谷しげる全力ソロライブ90分!秩父』
4月5日(土) 埼玉・秩父 ホンキートンク
開場17:30/開演18:00
料金:前売6,000円
※入場時ドリンク代が必要
『泉谷しげる全力ライブ90分!宇都宮』
4月13日(日)栃木・宇都宮 HEAVEN'S ROCK UTSUNOMIYA
開場17:15/開演18:00
出演:泉谷しげる、板谷達也(ds)
料金:前売6,500円/当日7,000円
※入場時ドリンク代が必要
■公式サイト:https://studio-izu.com/
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【応募締め切り】
2025年3月12日(水) 23:59まで
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