泉谷しげる/今日ですべてが始まるさ

俺はきっとつまんないやつで、だから音楽をやるんだよ

全10回予定

第6回

撮影:小境勝巳

「翼なき野郎ども」がフォークなのかロックなのかどっち? なんて言われちゃうとさ、どうでもいいと言えばどうでもいいんだけど、それで言わせてもらえれば、あれはパンクなんだよ、俺のなかでは。要するに、フォークを利用したパンク野郎。利用したってところがいいやね(笑)。

そうやってさ、嘘をつき続けるというか、自分をも騙してしまえるのがエンタメのいいところで、何が本当かなんていうのは誰にもわからんじゃない。コミックだよね、ある種の。アートコミックというか。どんだけ程度の高い嘘をつけるか。それがエンタメだから。だってさ、ミケランジェロのダビデ像だって、あんなに頭のでけえ人間いるか? 現実に。あれはこう、下から人が見てちょうどいいバランスになるようにああなってるんだろ? 北斎の大浪の絵にしたってさ。あんなもんそれこそコミックだよ。素晴らしすぎるって。嘘と言ってしまえば言葉は悪いかもしれないけど、嘘なんだよ、芸術ってのは。でもその嘘に人間の欲望が反映されるわけ。俺がサイバーパンクを好きなのもそのへんだよな。

ポリドールに移籍して作った3枚のアルバム、『NEWS』(1982年)、『39°8’』(1983年)、『ELEVATOR』(1984年)というのは、どうしても嘘をつきたくなったんだよ。それまではまあ、曲がりなりにもリアリティみたいなところでやってきたからさ。特に「ELEVATOR」なんて曲は完全に頭がおかしいやつの歌だわな(笑)。女を自分勝手に支配できない男の言い訳というか妄想。それをさらに幻想化させて、自分の意思とは関係ないところで世の中が動いているかのような嘘をついているっていう。

で、その後に『スカーピープル』(86年)っていうミニ・アルバムを作るんだけど、これは俺が監督と美術を手がけたSFビデオ作品『デスパウダー』のサントラとして、忌野清志郎をプロデューサーに迎えて制作したもの。完全にサイバーパンクで自分自身をパロディしたものだよね。一方ではテレビのホームドラマみたいなものに出ながら、お前は一体何がやりたいんだ!っていう話なんだろうけど、俺の表現における本質は間違いなくこっち。つまりサイバーパンクなわけ。

俺はさ、基本的に団体生活するのが難しい人間なのよ。協調性があるとかないとかいうことではなしに、単純にみんなの都合を待ってるのが苦手(笑)。だから表現においても、そんな意識が滲み出てきてしまうわけだ。もっと個人でいいんじゃない?っていう。フォークってのはさあ、表面的にはみんなで仲良く楽しく歌おうよっていうか、みんなを集結させるためのものっていう役割があって、それはそれでもちろん悪いことではないんだけど、それが行き過ぎるとさ、規則みたいなものが生まれてくるじゃん。しかもそこだけで通用する規則が。そうなると鬱陶しいやね(笑)。もう勝手にやってよ。こっちも勝手にするからさ。現地集合現地解散で(笑)。

逆にさ、個人を重んじる表現に振り切れば振り切るほど、そっちはそっちでどんどんはちゃめちゃなものにはなってくるんだけど、俺はまだしもそっちの方が落ち着くというか。じゃあなんで俺はそうなんだろうってことを考えたら、それはおそらく俺がつまんない人間だからだと思うんだよ、正直に言ってしまえばさ。そこをなんとかして突き破りたいって思ってるから、そういう表現に向かうわけだ。俺って常識的なんだぜ(笑)。

そもそも俺たちの親世代ってのは、とにかくめちゃくちゃだった。俺の親父なんて博打はやるわ女には手ェ出すわ喧嘩はするわ、挙げ句の果てに家に給料入れないっていう。お袋は苦労してたよね。そんなの見てるとさ、常識的にならざるを得ないわけ。もちろんそんな家庭ばっかじゃなかったんだろうけど、結構当たり前にどこもそんなではあったんだよ、俺のガキの頃ってのは。

しかしすごいよな。立派な親になろうなんて気がこれっぽっちもないっていうのは(笑)。むしろ清々しいぜ。だから今時の親はさ、立派な親にならなきゃっていう責任感が大きすぎるんじゃないか? いいんだよ、立派な親になんかならなくたって。子供はちゃんと見てるから。あいつら結構大人だよ?

俺の場合はさ、そんなふうに自分の親父を見て、早く自分で稼げるようにならなきゃって思ったし、一方で、そんな常識的な自分の殻を突き破りたいっていう衝動が大きくなっていったんだよな。不良に憧れるやつっていうか。その殻を破ってくれるのが音楽だった。だって当時はエレキギター持ってりゃ不良って言われたんだからさ。実際の生活で無茶苦茶やる度胸はないんだけど、音楽でならできる――そんなふうな“個人の狂い方”を俺は音楽で模索していた。だから社会的なことを扱ったとしても、あくまで個人のものとして取り上げるっていうのが、言ってしまえば俺の流儀ってことになるのかな。

取材・構成:谷岡正浩 撮影:小境勝巳

リリース情報

ニュー・アルバム
『シン・セルフカヴァーズ 怪物』

発売中
3,300円(税込)

『シン・セルフカヴァーズ 怪物』

【収録曲】
1.怪物
2.世代
3.Y染色体のうた
4.つなひき
5.春のからっ風
6.イメージの詩
7,国旗はためく下に
8.翼なき野郎ども
9.たった一人の熱き想い

「怪物」MV

公演情報

『泉谷しげる全力ライブ 3時間スペシャル!』
3月22日(土) 京都・磔磔
開場16:00/開演17:00
出演:泉谷しげる(vo/g)、藤沼伸一(g)、板谷達也(ds)
料金:前売8,000円/当日8,500円
※入場時ドリンク代が必要

『泉谷しげる全力ライブ90分!広島』
3月28日(金) 広島・SECOND CRUTCH
開場18:30/開演19:00
出演:泉谷しげる(vo/g)、板谷達也(ds)
料金:前売6,500円/当日7,000円
※入場時ドリンク代が必要

『泉谷しげる全力ライブ90分!松山』
3月29日(土) 愛媛・松山KITTYHALL
開場17:00/開演18:00
出演:泉谷しげる(vo/g)、板谷達也(ds)
料金:前売6,500円/当日7,000円
※入場時ドリンク代が必要

『泉谷しげる全力ソロライブ90分!秩父』
4月5日(土) 埼玉・秩父 ホンキートンク
開場17:30/開演18:00
料金:前売6,000円
※入場時ドリンク代が必要

シン・セルフカヴァーズ 怪物 発売記念 泉谷しげる with BAND『祝、ついに喜寿・77歳。それがどーしたああLIVE!』
4月9日(水) ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場16:00/開演17:00
2ndステージ 開場19:00/開演20:00
出演:泉谷しげる(vo/g)、藤沼伸一(g)、渡邊裕美(b)、板谷達也(ds)、小林香織(sax)
料金:BOXシート25,300円(ペア販売)/S指定席12,100円/R指定席11,000円/カジュアル10,500円(1ドリンク付)

『泉谷しげる全力ライブ90分!宇都宮』
4月13日(日) 栃木・宇都宮 HEAVEN'S ROCK UTSUNOMIYA
開場17:15/開演18:00
出演:泉谷しげる、板谷達也(ds)
料金:前売6,500円(vo/g)/当日7,000円
※入場時ドリンク代が必要

『泉谷しげる全力ライブ90分!小田原』
5月4日(日) 神奈川・ODAWARA Quest
開場17:00/開演18:00
出演:泉谷しげる(vo/g)、板谷達也(ds)
料金:前売6,500円(vo/g)/当日7,000円
※入場時ドリンク代が必要

『泉谷しげる全力ライブ90分!喜多方』
5月10日(日) 福島・喜多方プラザ文化センター小ホール
開場17:15/開演18:00
出演:泉谷しげる(vo/g)、板谷達也(ds)
料金:前売6,500円(vo/g)/当日7,000円
※入場時ドリンク代が必要

シン・セルフカヴァーズ 怪物 発売記念 泉谷しげる with BAND『祝、ついに喜寿・77歳。それがどーしたああLIVE!』
6月21日(土) ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場15:00/開演16:00
2ndステージ 開場18:00/開演19:00
出演:泉谷しげる(vo/g)、藤沼伸一(g)、渡邊裕美(b)、板谷達也(ds)、小林香織(sax)
料金:DXシートカウンター12,100円/S指定席12,100円/R指定席11,000円/カジュアルセンターシート11,600円(1ドリンク付)

■公式サイト:https://studio-izu.com/

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【応募方法】
①ぴあ音楽編集部のInstagram(music__pia)フォロワー限定。
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【応募締め切り】
2025年3月12日(水) 23:59まで

【注意事項】
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