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加古隆 作曲家として、そしてピアニストとして

〜『クレー』と『ポエジー』〜

連載

第9回

 ピアノソロを少しずつ始めたのは帰国して2年後くらいからでした。それまではステージの上に必ずベーシストやドラマーなどの相棒が居たわけです。ところがソロの場合には私ひとりということから、何か新しい要素として思いついたのが絵画でした。あるコンサートに自宅から画集を持っていって、絵を観ながら即興演奏するということを試みました。その時の画家の1人がパウル・クレーだったのです。しかし、絵を見ながらの即興では、自分が絵のコメンテーターになっているように感じて、そうではない別なアプローチをしようと考えました。何をしたかといえば、自宅で絵や画集を見ながら、その印象を基に曲を作ったのです。これは即興とは全く違います。絵の印象からきっかけはもらっていますが、即興ではなく、じっくり考えることによって新たな音楽を生み出す「作曲」です。クレーの絵からはさまざまなモティーフやアイデアが浮かんできて、沢山の曲を書きました。あるものは即興のためのモティーフ、そしてあるものは、初めからすべての音を書くための題材と言った具合ですね。なかでも『いにしえの響き』という絵は、観た瞬間にぱっと曲のイメージが浮かび、ああ、これはレコードになった時には、タイトルは『いにしえの響き』にしたい!と思えたのです。私の想像の中の出来事が結果的に実現して、クレーの12枚の絵から12曲が収められたアルバム『クレー』が完成したのです。アルバムジャケットの絵はもちろん『いにしえの響き』です。