Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

『ぴあ』という秘密の窓から覗き込んで、自分自身を探していた。本編に入る前に『ぴあ』への思いを少しだけ。

毎週連載

第1回

僕がギターと出会った70年代後半から、BOØWYでデビューして解散する80年代というのは、自分でアンテナを張って行動して探さなければ情報自体が手に入らない時代でしたからね。待っていても何も見つからない。だから、『ぴあ』は自分自身を探す場所と言ってもいい存在でした。

たとえば僕にとって『ブレードランナー』(1982年)がそうだったように、ひとつの映画を観れば人生が変わることもありますからね。ひとつの映画、ひとつの演劇、ひとつの音楽……エンタテインメントやアートに触れることで、まったく新しい自分が生まれるような感覚。それこそがエンタテンメントやアートの持つ力だし。僕は『ぴあ』という秘密の窓から覗き込んで、自分自身が探していた、そこでしか知りえない情報を手に入れて、自分の足を使って現場に行って体験を重ねていました。不便だったけれども、すごくいい時代だったなと思います。

評論家といった人たちの意見が前面に出るのではなく、どんなアンダーグラウンドなものもどんなビッグイベントも、おなじ“情報”としてそこに存在しているというのもすばらしいと感じていました。チョイスする“自由”がそこにはあった。僕がアーティストとして、ある意味、ポピュラリティをしっかり意識しながら、一方でアンダーグランドの精神を忘れることなくここまでこられたのは、『ぴあ』という無限の情報源があったおかげだと思います。

そこで、何を選ぶのかという力を僕は磨いてきたんですよね。これがおもしろそうだ! あれはどうだろう? 時間にもカラダにも限りがあるから全部を体験することはできないけれど、じゃあ、どれにしよう、って。単館上映でやっていた映画『フリークス』とか、観なきゃよかった(笑)と思わないでもないアングラの作品と出会ったときも、みんなが観ていないものを見つけた喜びとなんとも言えないうしろめたさの入り混じった気持ちだったなあ……。あれは先行上映だったのかな、鈴木清順監督の『陽炎座』(1981年)をドーム型の特設テント小屋で観たこととか……いろんな時代のいろんなもののおもしろさを知っっていったわけです。

時代変わって、今や、探さなくても情報がある。むしろ、要らない情報まで、切っても切っても追いかけてくる、情報が怖くなってくるような時代ですよね。そういうなかでの閉塞感もあるだろうし、若い世代が直面している、何も動きたくない、このままでいいじゃない、そんなに押し付けないでよ、って言いたくなる情報量の圧は想像を超える。でも、そんな状況でも無限の情報量のなかをサーフして自分自身だけの情報を見つけてほしい。インターネットの時代に、『ぴあ』という価値観がどういうふうに読者に響いていくのか。興味がありますね。

僕は発信する側であるけれども同時に読者として、懐かしいだけの『ぴあ』ではない、「あのころはよかったよな」と言うための『ぴあ』じゃない、ああ、またこういう『ぴあ』の視点でどういうものを発信していくんだろうという興味があるし、期待もしています。

生きているその瞬間は意識していないけれど、いろんなことを振り返ってみると、いろんな時代とともに生きてきたんだなあって改めて思いますよね。そんななかで一瞬でも時代をクリエイトしたと思える瞬間があるとすればクリエイター冥利に尽きますね。昭和の時代はBOØWY、平成はソロワークとCOMPLEX、まもなく令和の時代のツアーがはじまる。この40年にもなろうというキャリアを経て、今なお作品もパフォーマンスも更新しつづけていくのってなかなか大変なことだと思いますね。これができているうちは“布袋イズム”が伝わっていくんだろうなあと思います。いまだギラギラして「ロックンロール!」って叫んで、そこに熱狂するオーディエンスがいるうちは。

当連載は毎週月曜更新。次回は5月27日アップ予定。いよいよ『GUITARHYTHM Ⅵ』の核心に迫ります。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。



取材・文:編集部