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布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

テクノロジー偏重、不確実性の社会において、布袋はどこへ向かおうとしてい るのか。『GUITARHYTHM Ⅵ』の制作テーマについて聞いてみた。

毎週連載

第3回

─── 最新作『GUITARHYTHM Ⅵ』の制作にあたって、テーマやキーワードなどありましたか。

布袋 今でも「ナンバーワンの映画は?」と聞かれたら名を挙げる大好きな映画『ブレードランナー』(1982年)の続編『ブレードランナー2049』(2017年)が公開されて、あらためて『ブレードランナー』を観なおしてみたんですよ。なんと鮮やかに夢と退廃的な世界観が描かれているんだろうって。あのころはまだ世紀末っていう言葉に実感が伴っていた時代。サイバーパンクという言葉もまだ耳新しく、未来に対してイマジネーションをかき立てる何かがあった。あの映画から触発された部分はとても大きいんです。

─── サイバーパンクの匂いを感じる、テクノロジーとロックンロールの融合が、GUITARHYTHMの原点ですよね。1992年にリリースした映像作品『GUITARHYTHM active tour '91-'92』にも収録されていますが、ヴァンゲリスによる印象的な劇中歌「Love Theme (From “Blade Runner”)」をカバーされていました。

布袋 そうだったね。あの切なくも狂おしい狂気の世界観にはあこがれたね。今回『GUITARHYTHM Ⅵ』の制作にあたって、まず最初に森雪之丞さんに声をかけました。彼はいち作詞家というより、GUITARHYTHMというミュージカルのキャストなんですよ。彼の言葉のひとつひとつが、GUITARHYTHMの世界観を作っていく。まずは「どんな世界観を描こうか?」から始まって、「やっぱり未来を描きたいね」「でも、未来ってなんだろう?あのころ人類が夢見た未来って、まさに今だよね?」とテーマを絞り、“未来は今” =“Future is Now”というコンセプトを基軸に、様々な情景を描こうと。

─── “GUITARHYTHMらしさとは?”という、本質の探り合いですね。

布袋 Netflixで配信されている『ブラック・ミラー』っていう短編シリーズがあって、一寸先の未来を描いたブラックユーモアにあふれたとてもおもしろい作品でハマっていて。しかしどのエピソードもすごく後味が悪いんですよ。観るたびに観なきゃよかったって思う、すごく嫌な作品で(苦笑)。テクノロジーの進化と、それによってもたらされる歪みを描いていて、ダークで風刺が効いていて、久しぶりにとても刺激を受けたんです。

─── 便利さが生み出す、管理される社会の窮屈さというか。

布袋 これだけ豊かな現実になったんだけど、AIやVR、ビッグデータ、SNSなどなど、作り上げたテクノロジーとこの先向き合っていかなければならない人間の憂鬱や閉塞感。そこへ巻き込まれていくであろう人間の暗い未来を描いた作品で、とにかくシュールでおもしろいのよ。その影響もあって、SFというファンタジ―より、リアルな現実に潜むダークな感情や情景を描きたいよね、1曲1曲が短篇集みたいな感じに仕上げよう、と森さんとのやりとりは続いて。ちょうど、前回のツアー中に中国でクローンのニュースがあってね。いよいよ来るべきときがきたか。「よし、クローンをテーマにしよう!」ってできたのが「Clone (feat. Cornelius)」。『GUITARHYTHM Ⅵ』全体の制作テーマにもつながる、最初に取り組んだ曲です。

─── 歌詞に遺伝子記号が登場して驚きました。

布袋 今、当たり前にあるものを異なる視点でみたらどうなるか。森さんにオーダーして返ってきたのが「Clone (feat. Cornelius)」の歌詞。はじめのデモ音源はもっと「MATERIALS」(『GUITARHYTHM』に収録)みたいなギターとベースのユニゾンで、インダストリアルなうねりのあるシンプルな曲でした。そこに、森さんがものすごい歌詞をあげてきて。お願いしたものの、あまりにぶっ飛んだ歌詞で「これ歌うの?」っていう感じで、ちょっと躊躇しちゃったんだよね。サビでいきなり遺伝子記号まで出てきて、内容もかなりダーク。クローンが心臓のホスト(主人)を見つけてしまうってストーリーで。

─── A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)と、配列が出てきます。

布袋 初めは戸惑ったものの、GUITARHYTHMは大胆な冒険心あってこその作品だと思ったので、「ここを直してください。ここを変えてください」と返そうとは思わなかった。他の曲の世界観とのコントラストもあるし、「森さん、このまま歌詞を寝かせてもいいですか?」と、ほどのいい返事をして(笑)。

─── しかも、Corneliusがフィーチャリング参加で、アレンジを担当しているという豪華なコラボレーションで。

布袋 初めからこの曲は小山田圭吾(Cornelius)くんにプロデュースしてもらいたいと思っていました。僕は彼の大ファンですから。しかし、送ったデモテープはみるも無残に解体された、オリジナルの音がまったく聴こえないくらいの形で小山田くんから戻ってきたんですよ。それを聴いたときに「アチャァ、まいったな……」って。強烈な歌詞とサウンドが最終的にどのような融合を果たすかまったく想像がつかなくなって、小山田くんにも「ちょっと、寝かせてもいいですか?」とお返しして他の曲に取り組み始めました。

─── お〜、森さんに続いてヘビーですね。

布袋 のちに森さんに何ヵ所か部分的に直してもらって、小山田くんにも「ここはこうしてほしい」とオーダーを出した。それが反映された部分もあるけど、最終的には、最初のままの歌詞やサウンドのほうがパワーがあったんです。ちょっと寝かせたおかげで、オリジナルの狂気のまま形にできたかな。今回のレコーディングは1曲1曲のストーリーが色濃く、約1年という時間がかかってるんだけど、のんびり悠長に制作していたから遅くなったわけではなく、ディテールにこだわり、何度も同じフレーズを違う音のギターで録り直したり、歌詞を変えて歌い直したり、サウンドコラージュやアレンジなど手間暇かけたぶん、重厚で飽きのこないサウンドに仕上がったと思います。

─── いろんなテイクがありそうですね。

布袋 今はオーディオエディットの時代だから、デジタルレコーディングは細部のこだわりが重要ですね。昔のように“録ってミックスしておしまい”じゃなくて、録った素材をどんな形にして、どう編集するかっていう、むしろ音をデザインすると言ったほうが近いかな。以前はそういった作業はプログラマーやエンジニアにゆだねていたけど、ロンドンでは自分でもやるようになりました。こう見えて機械に強いほうじゃないので、いろいろ苦労は絶えないんだけど、今思えば自らそういったエディット作業をしたことで、僕の美意識が行き届いた作品になったかな。今回は、“Recorded by Tomoyasu Hotei”というクレジットも入ってるんです。レコーディング、ミックスエンジニアとして最後まで関わった初めての作品です。だから、でき上がったときはほんとに疲れたよ!(笑)

─── なるほど。その作業をしていると、けっこう“沼”にハマっちゃうんじゃないですか。

布袋 いいときもあれば、なかなか区切りがつかないところはあるよね。後ろで誰かが「いいじゃないですか!」って言ってくれれば、そこでOKなんだけど、その声がないと自分を追いこんじゃうよね。気づけばノンストップで6時間ギターソロ弾き続けてたり。

─── 表現者・布袋さんと、制作におけるプロデューサー・布袋さんは違ったりするんですか。

布袋 使い分けられるほど器用じゃないですね。人のことをやるときは客観的かつ明確にズバッと言えるんだけど、自分のことに関しては気が小さいっていうか。これでいいのかな、どうなのかなって迷っちゃうタイプ……。最後までね。

─── 布袋さんとCorneliusとのコラボレーションは音楽ファン的にもおもしろい試みだと思います。以前、Corneliusはリミックスで布袋作品に参加していましたね。

布袋 2011年に出した『ALL TIME SUPER GUEST』に収録した「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY (CORNELIUS Remix)」のときね。あのときは、ふっと投げてリミックスで返したもらったって感じだったけど。僕にとってCorneliusはあこがれに近いというか。一番意識するギタリストでありサウンドメーカーなんですよ。食事したり、音楽談義を交わしたりというほどの仲ではないんですけど。昨年彼らが参加したロンドンでのフェスも観にいきましたし、作品は常にチェックしてます。彼のあの研ぎ澄まされた絶対的な音像感覚っていうのは僕にはなく、今回ぜひご一緒してGUITARHYTHMをよりアバンギャルドに彩ってほしかったんです。

─── そこで、シリーズ初作の『GUITARHYTHM』からの系譜を感じる「MATERIALS」の最新アップデートが生み出されたというのは感慨深いですね。

布袋 他の曲をお願いしていたらまた全然違う世界を描いてくれたと思います。彼が受け入れてくれさえすれば、今後もコラボレーションをしたい。彼の世界での評価はものすごく高いですよ。嫉妬しちゃうくらい。イギリス、ドイツ、そしてイタリア、どこに行っても「今回のアルバムには、Corneliusが参加してくれてるんだ」って言うと、クリエイティブな人たちは皆興奮するものね。大胆かつ繊細なサウンドの構築作業を後ろからじーっと眺めていたいくらい(笑)。今回も、ビートやサウンドがまるで螺旋のように左右だけではなく上下左右に縦横無尽に飛び跳ねる音像には驚きました。

─── 『GUITARHYTHM Ⅵ』には、Corneliusや森雪之丞さんをはじめ、様々な才能が作品に集結したことで、枠組みを超えた“自由”へと結びついたのですね。キーワードとして大きいですね。“自由”。

布袋 クリエイティブな緊張感もありつつ、参加してくれたすべてのアーティスト、クリエイターが“自由”に開放された制作でしたね。

当連載は毎週月曜更新。次回は6月10日アップ予定。『GUITARHYTHM Ⅵ』で実現した盟友との、そしてあの究極の生命体との共演の話をたっぷりとお届けします。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。



取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)