布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

『GUITARHYTHM Ⅵ』の多彩な共作陣 〜MAN WITH A MISSION、松井常松 & 高橋まこと〜

毎週連載

第4回

『GUITARHYTHM Ⅵ』には前回紹介したCorneliusをはじめ、多彩なゲストが参加している。連載4回目となる今回はなかでも注目を集める、頭はオオカミ、身体は人間という究極の生命体バンドとのコラボ曲「Give It To The Universe (feat. MAN WITH A MISSION)」、元BOØWYメンバー松井常松、高橋まことが参加した「Thanks a Lot」についてのお話。布袋寅泰は自由に、新たな道を切り開いていく。

─── 5月26日に配信が開始され、音楽番組『ミュージックステーション』でも共演したロックバンド、MAN WITH A MISSIONとのコラボ曲「Give It To The Universe (feat. MAN WITH A MISSION)」は、Corneliusと作り上げた「Clone (feat. Cornelius)」における繊細なサウンドとは対照的に、ワイルドでエモーショナルな化学変化が生まれました。一方で、歌詞はSF的であり、独特の世界観ですね。

布袋 これまでいろんなコラボレーションをしてきたけど、人間以外のオオカミの顔をした究極の生命体とコラボするのは初めて(笑)。うまく双方の音楽、そして世界観を反映した曲になりました。Jean-Ken Johnny君の歌う英詞の部分は地球外生物が地球を俯瞰しながら「ナゼ人間ハ幸セナ未来ヲ創リ上ゲタノニ、ソレヲ無駄ニスルヨウナ愚カナ過チヲ繰リカエスノカ?」との疑問に対し、地球人の代表である僕が虚しい言い訳をしているという設定。そこを乗り越えて宇宙がひとつになっていけるように僕らの手で自由をつかもう!とみんなで歌えるようなポジティブな曲に仕上げようと試みました。

─── 人類ではないMAN WITH A MISSIONと、ならではの共演作品となりました。ギターソロのバトルも熱いですよね。

布袋 彼らとの出会いは、2年前に東京ドームで行なわれた「KANPAI JAPAN LIVE 2017」(2017年10月28日)。その後、僕のジャパンツアーをメンバーが観に来てくれて「いつか一緒に何かやりたいね」と話していたんです。僕は、ロンドンで2回、彼らのライブを観ました。彼らもCorneliusも、世界に向かって積極的なアプローチをして力がしっかり届いている存在。日本のみならず音楽活動を展開するという姿勢に同じ志を感じています。

─── クレジットは共作となっていますが、どんな曲作りでしたか。

布袋 僕から骨格となるビートとリフを投げて、ネットワーク上でアイデアを交わしながら、彼らのユーロツアー前にロンドンのスタジオで一緒にギターやベースを弾いてリフを決めて、メロディもその場でいくつか乗せてみました。オンラインセッションだけじゃなく、実際に音と気持ちを重ねられたので、真のコラボレーションとしての実感のある曲に仕上がった。僕にはなかなか思いつかない部分を彼らが反映してくれて。ラップ的なアプローチとか、シンガロングなみんなで歌える部分っていうのは、僕の次の世代だからやれることだと思うんだよね。広がりのある音像もしかり。サウンド的にも彼らも完全に洋楽志向だしね。彼らは僕の『GUITARHYTHM』を聴いてくれていた世代でもあって、リスペクトを感じたし。

─── ジャストな世代感ですよね。

布袋 クリエイティブな緊張感もありつつ、お互い自由に開放されたセッションでしたよ。ずいぶん、お酒も飲んだしね!(笑)

─── 様々な才能がGUITARHYTHMというコンセプトのもとに集まるという意味で、今作ではより“自由”がキーワードとして効いていますね。アルバム8曲目の「Thanks a lot」が鳴った瞬間に、BOØWY 的な8ビートが響いて驚かされました。すぐに、高橋まことさん、松井常松さんの音だとわかりました。

布袋 3人で一緒に音を出すのは、BOØWYの東京ドーム公演「LAST GIGS」(1988年4月4・5日)以来、31年ぶりですからね。

─── ギターの音に人気曲「GLORIOUS DAYS」(『GUITARHYTHM』収録)を感じて、聴いた瞬間に「うわ!」って鳥肌立ちました。布袋さんが書いた歌詞には、「さらば青春の光」や「RUSSIAN ROULETTE」、BOØWYの「DREAMIN'」のようなメッセージを感じました。

布袋 今回、いろんな思いがもちろんありましたよ。31年ぶりということはGUITARHYTHMより前に気持ちが戻るってことだし、同時に“あの日見た未来”に3人で立つということでもあるし。当時は31年後に自分がどうなっているか、世界がどうなっているかなんて想像もつかなかったけど、実際にふたりとやったことで何も変わらない自分もいれば、何もかもが変わった目の前の景色もあるし。その両方を踏まえて、新しい景色を描けた曲になったよね。

─── きっかけは?

布袋 もともと、まこっちゃん(高橋まこと)も松ちゃん(松井常松)も、それぞれ僕のライブに参加してくれていたから交流が途絶えていたわけではないけど。昨年のツアーで、まこっちゃんが東京公演、松ちゃんが群馬公演に来てくれてね。楽屋での再会で交わす言葉は少なかったけど、握手からすごく伝わるものがあった。ツアーではBOØWYのナンバーも何曲かプレイして、それを聴いた彼らから「俺たちがやりたかったことを布袋君がしっかり今に伝えていてくれていて感動したし、うれしかった。ありがとう!」って同じように言われたんだよね。僕も思いが伝わってうれしかった。以前から「ロンドンにいつか遊びにおいでよ」とは言っていたんだけど、この久しぶりの再会でふと「俺たちもそろそろ自由になっていいんじゃないかな?」って思ったんだ。僕らにとってもBOØWYという存在は絶対的だし、どこかアンタッチャブルな意識もある。でも、それぞれが、それぞれの時間や自分の歴史を経た今、「BOØWYのメンバーであったがゆえにセッションやれないっていうのものもおかしな話じゃない? それって、自分たちにとっていいことなのかな」って。

─── 今回の3人のセッションも、BOØWYの再現というわけではないですし。

布袋 僕もカバーしているhide君の「ROCKET DIVE」で、“何年待ってみても何も降って来やしないんだろう?”ってフレーズを歌いながら、「待ってるだけじゃ何も始まらない」って思ったことがあって。こうやって歳を重ねてるといつ誰が突然いなくなるかもわからないしね。でも、今回やってみて(一番年長の)まこっちゃんが一番長生きしそうだなって思ったね(笑)。

─── ずっとあのままの感じがしますね(笑)。ほめ言葉ですけどね。

布袋 そんな素直な思いもありつつ、今回は力まず軽やかに一緒にやってみようよとふたりに声をかけました。「GUITARHYTHMのレコーディングに参加してくれない?」とのメールに、まこっちゃんは「ぜひ!喜んで」。松ちゃんは長い間ベースから離れているという不安もあり「僕がちゃんとお役に立てる楽曲であったら。まずはデモテープを聴かせてください」との返事でした。3人が一緒に気持ちよく演奏を楽しめるサウンドスタイルを想定しながら作った曲なんです。そこから「Thanks a lot」というタイトルに落ち着きました。まだまだ答えはないけど、意味深い“Thanks”になったと思いますね。

─── レコーディングは3人がロンドンで集まって?

布袋 そう、思い出のロンドンに3人集まって、まこっちゃんのカウントから始まった。グッとくるというよりは何故かニヤけちゃうんだよね(笑)。楽しいという言葉だけであらわせない。やっぱりうれしかったんだろうね。まっちゃんを見ると、いつもの寡黙な表情でありながら、どこか微笑んでいるというか。まこっちゃんも楽しそうだしさ。昔の仲間と久しぶりにツーリングに出るとか釣りにいくとか、テニスでラリーを交わすとか。なんて言うんだろうね。言葉ではない、音のラリーというか。一音一音にそれぞれのいろんな思いが詰まっている。とても感動的で、すがすがしい瞬間だった。本当にやってよかったと思います。

─── 時間軸を超えていく“自由”を感じた曲でした。

布袋 今はもうBOØWYを知らない世代もたくさんいるでしょう。「昔はよかった」という懐古的な気持ちやBOØWYを再現しようと作った曲ではないからね。この3人で今、どんな音が出せるかという思いで作った「懐かしいけど新しい」最新のロックンロールなんです。この曲は。

当連載は毎週月曜更新。次回は6月17日アップ予定。ロンドンで生活しているからこそ自然とコミュニケーションが成り立つヨーロッパのスタッフ、ゲストの話をお届けします。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。



取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)