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布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

COMPLEXの結成~解散を経てソロワーク加速 CD2枚組の問題作『GUITARHYTHM Ⅱ』 前編

毎週連載

第9回

全国ツアー「HOTEI Live In Japan 2019 ~GUITARHYTHM VI TOUR~」を展開中の布袋寅泰。今回のライブの基軸をなすのは最新作『GUITARHYTHM Ⅵ』だ。その世界観をより深く理解するために、この連載ではGUITARHYTHMシリーズを読み解いていく。質量ともに音楽シーンを圧倒した『GUITARHYTHM Ⅱ』を2回に分けて振りかえる。

─── BOØWY解散、ソロアルバム『GUITARHYTHM』リリース、COMPLEXの結成と解散を経て、1991年9月27日に発表された2枚目となるソロアルバム『GUITARHYTHM II』。布袋さんにとってライフワークであり、思い入れの深い作品だと思います。今、本作を振り返ってみて、どのような思いが沸き上がってきますか。

布袋 COMPLEXでの活動もまた刺激的なものだったからね。僕と吉川晃司という二大怪獣の個性とエネルギーのぶつかり合いだったから、短い活動期間だったけどかなり疲れたよ(笑)。COMPLEXはBOØWYとは違ってバンドというフォーマットにこだわる必要がなかったからサウンド作りは自由だったね。シンセを多用してプログレっぽいアプローチもできたし、「BE MY BABY」の大ヒットでポップな印象が世間では強いかもしれないけど、音楽の中身はかなり実験的なユニットだった。先日リマスターされたベストアルバムを聴いて「ずいぶん尖ったことをやってたな」と我ながら感心したよ。そんな経験を経て、僕の中の音楽の幅を伝えたいと思って作ったのが『GUITARHYTHM II』。

─── アルバムの設計図作り、制作のとっかかりなど、本作制作のきっかけとなったエピソードを教えてください。BOØWY時代、COMPLEX時代……との違いなど感じましたか。

布袋 あのころはシュルレアリスムにはまっていたね。サルバドール・ダリやルネ・マグリットなどのだまし絵的な、空想的超現実世界に魅せられていた。漠然と「ダリの絵画のような音」を作曲のコンセプトとして作業をスタートさせて。また「歌」に対する僕なりのこだわりが芽生えはじめた時期だね。

─── 前作『GUITARHYTHM』は全編英語詞でしたが、本作で日本語歌詞中心になったのはなぜですか。『GUITARHYTHM』との違いをどう意図しましたか。

布袋 その後の布袋ミュージックには欠かせない存在となる作詞家、森雪之丞氏との出会いが大きかったね。広尾のバーで夜な夜な、謎解きのような言葉でラリーするように描くべきテーマを探していた。そのバーには尾崎豊くんや桑田佳祐さん、高橋幸宏さんや高中正義さんなど錚々たる面子が集っていて、みんなで酒を呑みながら音楽を語り合ったものだよ。そんな環境も影響しているのかもしれないね。日本語には日本語にしかない情緒や鋭さがある。森さんと出会ったことで僕の音楽の色彩がグーンと広がった。

─── 本作は、発電所を改築したロンドンのメトロポリススタジオでレコーディングされました。スタジオとしては珍しく、バウハウスとモダンクラシックを足して割ったようなファンキーな内装、インテリアだったそうですね。スタジオでの印象や、そこでのエピソードを教えてください。機材環境などで大きな変化はありましたか。

布袋 BOØWYの後期から使っていた赤坂の小さなスタジオにプログラマーの藤井丈司さんと1ヵ月こもり、作曲、プリプロ作業をした。1日1曲作る! と意気込んで実際毎日1曲作っていったら、アルバム1枚に収まらないことに気づき、急遽2枚組に(笑)。あのころは次から次へと曲が浮かび、創作が止まらなかった。3枚組になっていた可能性もあるよ。『GUITARHYTHM』に比べるとコンピュータや周辺機器は格段に進化していたし、AKAIのサンプラーと当時リリースされたばかりのRe-Cycleというソフトウェアを駆使して、ドラムをサンプリングしたものをスライスしてつなぎ合わせる手法を「BEAT EMOTION」や「SLOW MOTION」など何曲かに取り入れたよ。ロンドンのメトロポリススタジオはまだできたばっかりで、Queenやストーンズなど名だたるアーティストから注目を浴びていた。あのころはアルバムを出せば20〜30万枚は売れる時代だったから、日本のアーティストも海外録音していたね。メトロ(ポリス)では小室哲哉氏や清志郎さんにも会ったな。2階にあるバーはアーティストたちの交流の場で、週末の夜は様々なミュージシャンが集ってはセッションしていた。僕もよく飛び入り参加して、そこでブライアン・メイやストラングラーズ、エイジアのメンバーと知り合い、彼らのレコーディングに参加したりと交友関係が広がったんだよ。

─── コンセプトは“時空を超えた魂の旅”でしたが、発想のきっかけはヨーロッパを旅したことでしょうか。どんな思いでテーマを決め、具現化していきましたか。

布袋 できあがったデモに対して森さんとディスカッションを繰り返し「この曲は幽体離脱」「この曲はエジプトのスフィンクスが歩き出す」「あり得ない比喩の羅列」「天使と悪魔の乗るメリーゴーランド」みたいな感じで、1枚の絵画を描くように、また、ときにはミュージカルのストーリーを紡ぐような感じで、狂ったようにレコーディングに没頭していました。

─── 本作から、現在も続く作詞面でのパートナー、森雪之丞さんが参加しています。キング・クリムゾンでいうメンバーであり詩人であったピート・シンフィールドのような存在のようにも思うのですが、『GUITARHYTHM II』制作時の森雪之丞さんとの印象的なエピソードを教えてください。

布袋 彼も1ヵ月間ロンドンの同じフラットに滞在し、スタジオで毎日アップデートされてゆく音をリアルタイムで感じ取りながら詩を書いてくれました。音と言葉で旅するような気持ちを重ねて描いた曲たち。曲が完成するたびに祝杯をあげていたから、飲んだシャンパンの量も半端ではありません。(笑)

─── BOØWY時代から信頼する永石勝さんがアートディレクションを担当した、全56ページのブックレットには各楽曲をイメージした圧巻のフォトグラフやイラストが掲載されていました。改めて、アートワークを振り返ってみてどう感じますか。本人たちでしか知り得ないエピソードなどあれば教えてください。

布袋 合成もなしであれだけの写真を撮ったんだからすごいよね。本当にあのころは寝る間も惜しいくらい創作欲が止まらなかったんだよな。寝ても覚めてもアイデアが浮かんでくる。病的なまでに。ブックレットは僕のそれぞれの曲に対するイメージを永石さんやカメラマンの園木和彦さんに伝え、スタジオやロケで3日間ぐらいで撮りました。「YOU」の写真は広尾のバーに僕の書斎のデスクライトを持ち込んで撮ったんだよ。とにかく今聴いても『GUITARHYTHM II』は、ロマンティックでスラップスティック、ポップで実験的な「布袋寅泰らしさ」が満載の名盤だと思います。「FLY INTO YOUR DREAM」や「YOU」「MERRY-GO-ROUND」「BEAT EMOTION」や「DEVIL’S SUGAR」などその後の僕のライブでは欠かせない曲が多く、ファンにとってもこのアルバムはとても思い入れの深い作品だと思いますよ。

当連載は毎週月曜更新。次回は7月22日アップ予定。ソロセカンドアルバム『GUITARHYTHM Ⅱ』後編をお届けします。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。


質問作成:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) 構成/編集部