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布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

ハードなロックンロールにこめた90年代の ポップ感覚、『GUITARHYTHM Ⅲ』 前編

毎週連載

第11回

全国ツアー「HOTEI Live In Japan 2019 ~GUITARHYTHM VI TOUR~」を展開中の布袋寅泰。今回のライブの基軸をなすのは最新作『GUITARHYTHM Ⅵ』だ。その世界観をより深く理解するために、この連載ではGUITARHYTHMシリーズを読み解いていく。“LOOKING FOR WILD”をコンセプトに制作された『GUITARHYTHM Ⅲ』を2回に分けて振りかえる。

─── 1992年9月23日にリリースしたアルバム『GUITARHYTHM III』が、一層ロックンロール色が強い作品となった経緯を教えてください。

布袋 『GUITARHYTHM Ⅱ』のリリース後に行った、ソロとなって初めての全国ツアー「GUITARHYTHM ACTIVEツアー」で得た経験が自信となった部分は大きいですね。“ボーカリスト布袋”と“ギタリスト布袋”のバランスが取れるようになってきた。ずっとボーカリストを引き立てる役目も担ってきたので、どうしても“ボーカリスト布袋”に遠慮しちゃうんですよね。シンガーとしてもまだまだ未熟だったし。しかし、ライブで多くのオーディエンスと向き合うことで、もっともっと生々しい想いを伝えたい欲求が高まってきた。

─── そういった想いが “LOOKING FOR WILD (野性を探して)” というコンセプトにつながっていったのですか。制作のきっかけとなったエピソード、前作までとの違いを教えてください。

布袋 ツアーによって僕の音楽に筋肉がついたのでしょうね(笑)。ついた筋肉は使いたくなる。頭でっかちにならず、肉体と魂を解放し、より生々しい自分をさらけ出したくなった。またサウンド的にも「スピード」「スリル」「ワイルド」という3つのテーマをもとに、より強靭なビートを追求した。BOØWY時代からのエンジニア、マイケル・ツィマリングとの息もぴったり合っていたし、怖いものなしでしたね(笑)。

─── 作詞で参加した森永博志さん(布袋寅泰CDブック『よい夢を、おやすみ。』等の編集者)との出会いが本作へ与えた影響はありましたか。

布袋 森永さんには彼のエディトリカルな視点から、ロックとアートの結びつきなど多くを学ばせてもらいました。アンディ・ウォーホル、アルチュール・ランボーなど、話は尽きませんでしたね。タイトルを鋲打ちした革ジャンのアルバム・ジャケットはケネス・アンガー(実験的な作風で知られる映像作家)の『スコピオ・ライジング』からの引用です(参照:http://www.fifth-blog.com/12316-12316.html)。ジャン・コクトーの「存在することの危うさに最後まで賭けるのだ」という言葉は、アルバム全体の歌詞のコンセプトにもなっています。今でも大好きな言葉です。

─── 本作から、イギリス製ハンドメイドギターであるゼマティスのPEARL FRONT CUSTOM DELUXE WILDが使用されています。ゼマティスにまつわるエピソードを教えてください。

布袋 ゼマティスは現在のように量産されていなくて、トニー・ゼマティスとダニー・オブライエンというふたりの職人により70年代を中心にオーダーメイド専門で製作されていました。ギターショップに並ぶこともなく、もちろんネットなどない時代だったし、買いたくても買えないいわば幻のギターです。ある日、BOØWYのベルリン録音のころから付き合いのあるロンドン在住ベーシストのクマ原田さんから、センシブル・ミュージックという楽器レンタルやスタジオ経営をしているジェフ・アレンを紹介してもらい、彼の家を訪ねたとき初めて本物のゼマティスを見ました。今まで見たどのギターより美しく、僕は文字通り恋に落ちました。しかし彼にとってもそれは宝物。時間がかかりましたが、「布袋の手に渡ることでゼマティスの音色を多くの日本人に届けられるなら」と譲ってもらいました。トニー・ゼマティス本人にも紹介してもらいました。余談ですが、数年後僕のゼマティスのコピーモデルが日本で発売され、トニーの耳に「布袋がコピーモデルを作って売っている」とのデマが届き、トニーが大変悲しんでいると聞いて胸が張り裂けそうでした。会って誤解は解けましたが本当に悔しかった。2002年に彼が亡くなったときは本当にショックでした。

─── オープニングを飾る「MILK BAR P.M.11:00」は、即興のジャムセッションで作られたそうですね? ヒントとなったイメージはありましたか。

布袋 デヴィッド・リンチの映画『ブルーベルヴェット』。いまだにインストを作るときは「リンチ的」か「タランティーノ的」かを意識します。

─── 今もライブで人気の高い「UPSIDE-DOWN」や「DIRTY STAR」が、完成されたときの手応えはいかがでしたか。また「PRECIOUS DEAL」のギターは自身のプレイをあえてサンプリングして制作したと伺いました。どういう意図、狙いがありましたか。

布袋 熱狂する観客の姿が浮かんだね。これはライブがすごいことになるぞ! と。このアルバムはドラムはほとんど打ち込みで、その上に生のスネアやタムを足して独特の疾走感を作ることに成功しました。そのころはミニストリーやKMFDMなどのインダストリアルメタルの音作りに傾倒していたこともあり、よりヘビーなギターサウンドを追求した。僕のアイコンでもある布袋モデル(のギター)はほとんど使用しなかったと思うよ。

─── 布袋ファンのアンセムとなった5thシングルの「LONELY★WILD」。“俺たちのテーマソング”として位置づけられたきっかけ、ファンの反応への思いなどについて教えてください。

布袋 私生活でも独りになることが多くなり、「孤独」という言葉がリアルな時期でした。アルバム全体に流れるヒリヒリとした感覚は、そんな心情も反映されていると思う。毎日革ジャンを着てスタジオに通い、黙々とビートとギターに向き合う。「きっといつの日か自分を超えられると 涙が出るほど痛いパンク聴くたびに信じられる」という歌詞は、今歌ってもリアルです。自分が自分を超える日が必ずくる。そう信じて生きてゆくことへの決意。僕とファンの間でお互いが支え合うことのできる大切な約束なんです。

質問作成:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) 構成/編集部

当連載は毎週月曜更新。次回は8月5日アップ予定。『GUITARHYTHM Ⅲ』後編をお届けします。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。