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布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

ハードなロックンロールにこめた90年代の ポップ感覚、『GUITARHYTHM Ⅲ』 後編

毎週連載

第12回

全国ツアー「HOTEI Live In Japan 2019 ~GUITARHYTHM VI TOUR~」を展開中の布袋寅泰。今回のライブの基軸をなすのは最新作『GUITARHYTHM Ⅵ』だ。その世界観をより深く理解するために、この連載ではGUITARHYTHMシリーズを読み解いていく。“LOOKING FOR WILD”をコンセプトに制作された『GUITARHYTHM Ⅲ』を2回に分けて振りかえる。

─── 豪華なゲストミュージシャンが華を添えています。ギタリストではクリス・スペディングが「I'M FREE」と「さよならアンディ・ウォーホル」に、ジグ・ジグ・スパトニックのニールXは「EMERGENCY」に、「ELECTRIC WARRIORS」はジーザス・ジョーンズのマイク・エドワーズとの共作、「MILK BAR A.M.3:00」ではロキシー・ミュージックのアンディ・マッケイがサックスで参加……とロックにイノベーションを起こしたプレイヤーとのコラボレーションが結実したレコーディングでのエピソードを教えてください。

布袋 1977年のブライアン・フェリーの初来日公演を新宿厚生年金会館で観たのは僕が15歳のとき。そのときのバックバンドのギタリストがクリス・スペディングでした。革の上下に黒のフライングVを低く構えて弾く姿はたまらなくカッコよかった。同級生はディープ・パープルなどの長髪のハードロックバンドに夢中な時期でしたから、僕はおませな中学生でした。そんなあこがれのギタリストに参加してもらうなんて夢のよう。ロンドンのロックスターたちの定宿だったゴア・ホテルのロビーで彼の到着を待ち、ギターを背負って現れたクリスの姿を見たときもため息が出るほどカッコよかったです。セックス・ピストルズの『勝手にしやがれ!!』というアルバムのギターはクリスが弾いている、という噂がありますが、僕はその答えを知っています(笑)。レコーディングではブースでふたり向き合い、スリリングなソロの駆け引きを楽しみました。彼はレスポールJrでしたね。ブルージーだけどキレのある、本当にすごいギターでした。ニールとは『GUITARHYTHM Ⅱ』で出会い、以降親交を深めていました。今でもよく一緒にライブを観にいったりしますよ。富士急ハイランドのライブにゲスト出演してくれたときに、布袋モデルのテレキャスターをプレゼントしたんです。ある日「俺の息子がクラブでギグやるから一緒に行かないか?」と誘われて観にいくと、なんと息子のジャックがそのギターを弾いていました。胸が熱くなりましたよ。マイクやアンディとの共演も、フレンドシップが深まり、よりお互いを理解した上での共演。マイクは今も僕のプレゼントしたシャチと呼ばれるギターをツアーでも使ってくれています。

─── ツアーを収めたライブアルバム『GUITARHYTHM WILD』(1993年)は、日本を代表するライブ作品だと思います。あらためて聴いてみてどんな思いが蘇ってきますか。

布袋 僕が10代だったころ、どのバンドも必ずライブアルバムを出していました。スタジオ録音とはまったく違う、生々しいライブアレンジを聴くのはとても楽しみだった。部屋を暗くしてレコードに針を落とした瞬間にオーディエンスの声がフェイドインして始まるステージ。映像がないぶん、感覚が研ぎ澄まされ、一音一音からミュージシャンの息遣いが伝わるんです。僕が好きなのはデヴィッド・ボウイの『ステージ』、ロキシー・ミュージックの『Viva! 』、ピーター・フランプトンの『フランプトン・カムズ・アライヴ!』もよく聴いたなぁ。ボブ・マーリーや(エリック・)クラプトン、ジェフ・ベック、(レッド・)ツェッペリン……。ライブアルバムをリリースするということは、ライブにこだわりを持ち、ライブ演奏に自信があるアーティストの証でしたからね。BOØWYの『LAST GIGS』はライブアルバムにもかかわらず100万枚を超えて、当時日本で一番売れましたからね。すごいことです。僕の作品はコンピュータと最新録音技術を駆使して音像にもこだわったものが多いけど、ライブは生のバンドとのグルーブ感を楽しんでもらえる。いまだに作品作りとライブ活動はどちらも欠かせない表現手段です。もちろん初期のライブは荒々しくて恥ずかしい部分もあるけど、やはり今とは違うエネルギーがありますね。若さゆえの思い切りのよさとかね。

─── 『GUITARHYTHM III』のLP盤とライブアルバム『GUITARHYTHM WILD』には、ボーナストラックとしてルベッツの「SUGAR BABY LOVE」が収録されています。なぜこの曲を選ぶことに?

布袋 このころ毎週NHK-FMの『ミュージックスクエア』という番組でDJをやっていたんです。毎週僕の選んだマニアックな洋楽を中心にかけていたんですけどね。『布袋寅泰のRadio Pleasure Box』(小社刊)という本も出し、オンエア曲や僕のオススメのCDなどを紹介したんですが、この本を手引きに様々な音楽へ興味を広げてくれた人も多いみたいね、友人の小渕健太郎くん(コブクロ)も、エルヴィス・コステロやロイ・ウッドなどたくさんのアルバムを追いかけてくれたと言っています。カバーは自分のバックグラウンドを伝えるセンスが問われますよね。フォー・シーズンズの「December 1963(Oh what a night)」とスティーヴ・ミラー・バンドの「Fly like an eagle」も候補に挙がっていました。意外な選曲で驚かせるの、好きなんですよ(笑)。

─── 『GUITARHYTHM III』は、ロックはもちろん、テクノ、ハウスなどジャンルとしての幅は広いけれど、ハードボイルドなアートの思想を取り入れた、ロックンロールでライブ感覚いっぱいの作品となりました。『GUITARHYTHM III』は、これまでのキャリアにおいてどんなポジションに位置づけられる作品ですか。

布袋 やはり分岐点でしょうね。このアルバムを引っさげてのジャパンツアーで素晴らしいバンド仲間と出会うことができ、次の作品は打ち込みではなく、バンドでの生レコーディングにつながりますからね。ギタリズムというコンセプトが少し窮屈になり始めていたかもしれません。しかし、このアルバムによって僕はさらにライブアーティストとして積極的にステージに向かうようになりました。オーディエンスとの熱狂的な関係がスタートしたのもこの時期ですね。今聴いてもドキドキするし、ヒリヒリする。ひょっとしたら布袋寅泰入門にはうってつけの作品かもしれないですね。

質問作成:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) 構成/編集部

当連載は毎週月曜更新。次回は8月12日アップ予定。『GUITARHYTHM Ⅳ』前編をお届けします。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。