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布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

ライブで磨かれた音楽の力を世界へ 『GUITARHYTHM Ⅳ』 前編

毎週連載

第13回

全国ツアー「HOTEI Live In Japan 2019 ~GUITARHYTHM VI TOUR~」を展開中の布袋寅泰。今回のライブの基軸をなすのは最新作『GUITARHYTHM Ⅵ』だ。その世界観をより深く理解するために、この連載ではGUITARHYTHMシリーズを読み解いていく。ライブアーティストとしての成熟を糧に世界を視野にとらえた『GUITARHYTHM Ⅳ』を2回に分けて振りかえる。

── 1994年6月1日にリリースしたアルバム『GUITARHYTHM IV』は、言葉とメロディーを大切にした歌への志向にこだわった作品となりました。なぜGUITARHYTHMシリーズのコンセプトからはずれ、ノーコンセプトとも言える方向性にたどり着いたのでしょうか。

布袋 前作のコンセプトは“WILD”。レコーディングもツアーもテンション高めで文字通りワイルドな毎日を繰り返していたから、正直疲れ果ててしまったんだよ。ここらでギアを一段落としてリラックスしないと危ないぞ、と(笑)。ロンドンのノッティング・ヒルにフラットを借りて独り暮らしを始めた。まだ映画『ノッティング・ヒルの恋人たち』の公開前で、あの辺りは今ほど家賃も高くなかったんだ。フラットの持ち主が誰かは知らなかったけど、郵便物の宛名から英女優のエマ・トンプソンの家だと知った。隣には当時世界中でヒットしていたシンガーのSEALが住んでいた。彼の部屋でよくテレビゲームをして遊んだよ。コンピュータとエレクトリックギターでの作曲作業に飽きていたのと、私生活では少しメランコリックな時期だったので、部屋にはアコギ1本だけ持ち込んだ。フェンダーのワイルドウッドというアコギ。

── ロンドン、地中海、アムステルダム、カリブ海、スペインへの旅の後、孤独感やロマンティックなセンスから生み出された、現在に通じる布袋さんらしさにあふれた作品だと思います。旅から得た影響はありましたか。

布袋 そうだね、よく旅をしていたね。“孤独”と“旅”は僕の音楽の中でとても重要なエッセンス。ロンドンでは夜な夜なクラブに出かけ、汗を流して踊ったよ。ジャマイカでは満月のビーチで無数のクラゲが月光を反射して発光する幻想的な光景を見た。アムステルダムではアンダーグラウンドなアーティストと出会った。マヨルカ島では朝までレイブで騒いだ後そのまま会場で寝てしまい、ホテルまでの道を忘れて帰れなくなったこともあったよ(笑)。自由になればなるほど、心の孤独も広がる。開放感とセンチメンタリズムが同居したアルバムになったのは、当時の自分そのものの現れだと思う。どのアルバムもそうだけどね。のちにリリースした『SUPER SONIC GENERATION』(1998年)なんて、怒りだけでできてるようなアルバムだしね。

── 当時、旅をしながらよく聴いていた音楽がありましたら教えてください。

布袋 スティーナ・ノルデンスタムの『メモリー・オブ・ア・カラー』(1991年)と『コヤニスカッツィ』のサントラ(音楽はフィリップ・グラス)、ケイト・ブッシュもよく聴いてたな。。今でもブライアン・イーノやハロルド・バッドなどの環境音楽を旅ではよく聴くよ。心を広げたいから。

── 本作のレコーディングは、なじみのあるロンドンのメトロポリススタジオではなく、バース郊外にピーター・ガブリエルが設立したリアルワールドスタジオでした。なにか理由はありましたか。

布袋 日本でツアーを共にしたバンドととても息が合ってきたので、その勢いのままバンドサウンドで1枚作ってみようと。それはそれで自分にとっては実験的なものだった。リアルワールドは郊外にあるスペースシップみたいな神秘的なたたずまいのスタジオ。僕らの前にはU2がブライアン・イーノのプロデュースで作業を行っていた。ピーターの話によるとイーノは音楽的な意見はほとんど言わず、毎日スタジオ内に100本のキャンドルを灯す係に徹していたらしいよ。ピーターも面白い人で、ある日スタジオに超能力者のユリ・ゲラーが来て、リビングに僕も招かれた。ユリが「なんでも曲げることができるから部屋の中から好きなものを選んでくれ」と言うと、ピーターは「このバナナをもっと曲げてくれ」といって大笑いになったよ。近所に住んでいたストラングラーズのヒュー・コーンウェルから差し入れで自家製のサイダーが届いて。僕らは飲み口がいいから何も知らずあっという間に飲みきったら、それが日本でいうドブロクみたいに強い酒で、次の2日間ベッドから起き上がれなかったよ(笑)。

── スイスのスタジオでの「薔薇と雨」のレコーディング時、偶然、敬愛するデヴィッド・ボウイと対面した際のエピソードを教えてください。

布袋 スイスのマウンテンスタジオでミックスをしていたらスタジオの入り口のドアが静かに開き、スキーウェアを着たデヴィッド・ボウイが入ってきた。僕は飲んでたコーヒーを吹き出しそうになったよ! 前日まで同じスタジオでアルバムのレコーディングをしていて忘れ物を取りにきたらしい。「薔薇と雨」のミックスを聴いて「なかなかいいね!」とサムズアップしてくれた。記念写真を撮り、見送るとシルバーのメルセデスGワゴンを自ら運転して去っていった。僕は日本に戻って早速同じ車を買ったよ(笑)。

── レコーディングでは、どんな面でこれまでのアルバムと比べて変化がありましたか。

布袋 BOØWY時代から長年やってきたエンジニアのマイケル(・ツィマリング)と別れて、打ち込みではなくバンドサウンドでほとんど一発録り、そしてアレンジもミュージシャンとディスカッションしながら決めていった。ワンマンなアルバムではないね。そのぶん、作詞に集中できたかな。詩が内面的であるゆえ、よりパーソナルなアルバムに仕上がったと思う。

── 『GUITARHYTHM IV』のジャケットのアートワークは、デヴィッド・ボウイやロンドンを彷彿とさせる街角に、ふたりの布袋さんが立つデザインです。改めてジャケットをご覧になってどんなことを思い出しますか。

布袋 昨日の自分との決別がテーマのアートワークだ。革ジャンの僕は昨日までのワイルドな自分。SOHOの一角を借り、夜中に煙を炊いて撮影していたらポリスが走ってきたよ。もちろん許可は得ていたけどね。毎回ジャケットにはこだわっている。僕が影響を受けたロキシー・ミュージックやスパークス、デヴィッド・ボウイ……どのアーティストのアルバムも壁に飾っておきたいようなものばかりだったからね。今はCDどころかデジタルダウンロードになって、小さな四角形をどれだけハッキリ認識させるか、を考えなければならない。それは淋しいことだよ。アルバムはリスナーにとっての宝物であってほしい。

── サイモン・ヘイルによるオーケストレーションのオープニング曲以外、全曲の作詞作曲をみずから手がけましたが、作詞もすべてご自身というのは後にも先にも初の試みですね。

布袋 この時期はメンタル的に落ち込んでいたんだよ。架空の物語を歌う気持ちになれなかった。みずから言葉を吐き出すことは血を流すような痛みも感じたけど、それを避けては前に進めないと思った。アーティストの人としての変化を共に楽しむのもリスナーとしての醍醐味だと思う。リスナーもまた、痛みを背負って生きているわけだから。ポジティブだけの音楽なんて信じられないよ。

質問作成:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) 構成/編集部

当連載は毎週月曜更新。次回は8月19日アップ予定。『GUITARHYTHM Ⅳ』後編をお届けします。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。