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オダギリジョー 我が道を進みつづける

これからの日本映画界のためにできること

全12回

第11回

『ある船頭の話』メイキング (c)2019「ある船頭の話」製作委員会

インタビューを通して「映画界がすこしずつ変化している寂しさ」を、オダギリさんから感じた。これからの映画界そして若手世代へ、オダギリさんが描く希望的未来について個人的な意見をうかがった。

自分たちの存在を主張しながら、文化を育てていってほしい

『アカルイミライ』をはじめ、僕が様々な単館系の日本映画に関わることができた2000年代初頭というのは、今よりも作家性だったりアート性だったり、もっと多様性のある尖った作品が求められていた時代だったように思います。渋谷にはシネカノンやシネマライズのような素晴らしい劇場があり、そこに行けば時代を反映したかっこいい映画を見つけられる。そんな時代でした。そんな日本映画の流れを作ってくれたのは、俳優であれば永瀬(正敏)さんや浅野(忠信)さん、監督であれば岩井俊二監督などを中心に、諸先輩方がそれこそ時代を変える作品を作って来てくれたから、日本の単館系インディペンデント映画が多くの世界的な映画祭に招待され、支持を得ていたんですね。僕も、そうした環境の中で俳優として進むべき道を見つけ、自分の好みに沿った作品に多く関わることができました。ですが、段々とそういったインディーズの個性的な作品が少なくなって行き、2010年くらいからでしょうか。映画を作りたくても「お金が集まらない」、インディーズや単館系の作品は作りにくいという話を業界内で聞くようになりました。

大きな映画会社による制作費数億円の大規模な商業映画か、もしくは制作費数百万円の小規模な映画か、どちらかしか作られないような時代にいつの間にか変わってしまって、僕が好んで出演していたようなちょうど良い規模のインディーズ映画がごっそりなくなってしまったんです。ユーチューブで自作の映像を発表できるようになったり、映画自体が集客力を失ったり、色々なことが影響しているとは思いますが、才能ある監督たちの手腕を振るえる場所が少なくなったことは、日本映画界にとってもマイナスなことだと思いますし、何より今の若い世代の人たちにとって、日本映画がとても狭く、前のように多様で色んな種類の映画から良いも悪いも感じ取ることができないのは、とても残念なことのように思います。もしかしたら僕らがそう言った日本映画界の良き時代を過ごした最後の世代なのかもしれないですね。インディーズ映画が活気を失った後しか知らない若い俳優は、例えば何から刺激を受けるのでしょうか。インディーズ映画の現場の楽しさ、お金はなくてもアイデアを出し合って少しでも面白い作品にしようとしていた現場の雰囲気を知らないまま、インディーズの洗礼を受けない俳優がほとんどになることは、老婆心ながら少し可哀想だなと思います。一方で、そうした状況の中でも“歯向かう”若者が絶対出てくるはずですよね。僕もそんなタイプでした。それぞれの時代で、文化の引っ張り方があるじゃないですか。そうした若者たちが引っ張り方を見つけ出して、自分たちの存在を主張しながら、見たことのない新しい文化を育てていってほしいですね。

才能につい、拍手をしてしまう存在

同世代で映画界を一緒に生き抜いて来たと思うのは、西川(美和)監督もそうですし、冨永(昌敬)監督もそうですね。西川さんは出身が広島、冨永さんは四国の愛媛で2人とも中四国地方なので、2人は僕の中で同じ地域の同じ時期に生まれた戦友のような人たちだと思っています。冨永さんも脚本を書く力がすごく高い人。今振り返っても『パビリオン山椒魚』(2006)は面白いし、冨永さんの作家性を思う存分に感じることができます。僕は僕で、冨永さんの世界観の中で好きなことを自由にやらせてもらっていました。冨永さんの作家性を潰すことなく、何か面白いことはないかと、色んなことを試していますし、あの頃しかできないことが詰まっている映画です。あと李(相日)さんも、同じ感じですね。『スクラップヘブン』では即興的な芝居を多く取り入れてくれて、お互いに次は何が起こるんだろうというドキドキ感が現場に漂っていたように思います。同世代だと、ライバル感もあるけど、仲間意識の方が強く、良い作品にするために面白いアイデアを出し合う傾向があり、それはベテランの年上の監督とはあまり共有することが少ないポイントだったのかもしれないですね。

『ある船頭の話』(c)2019「ある船頭の話」製作委員会

逆に、若い世代のおもしろい人たちに関しては、僕が力になれることがあるならばなんでも協力したい、応援したい、という気持ちが強いです。『ある船頭の話』では川島(鈴遥)さんが最若手。オーディションで彼女の感性の豊かさを発見し、この作品の重要な役どころを演じてもらうことに決めました。彼女は若いですが、確実に俳優として必要な要素を兼ね備えていたので、僕自身とても期待していました。彼女に対しては監督としてフォローできることもあれば、俳優としてフォローできることもあったので、2つの立場から彼女の良さを引き出せたのではないかと思います。準備期間も長く取れたので、僕が学んできた「メソッド」という演技法のレッスンを受けてもらい、彼女が持っている感性や感覚を最大限、引き出すように努めてもらいました。僕が「メソッド」を学んだのは20歳辺りでしたが、若干16歳という一番多感な時期にこの方法論を学んだ川島さんは、今後もっと面白い女優になると思いますよ。これからも期待しています。

いつの頃からか、自分よりも若い監督と仕事をするようになり、やはり未来のある若い作り手には出来る限りのことをしたい気持ちになりますね。例えば石井裕也監督はこれまで『舟を編む』や『おかしの家』でご一緒して、すごく面白かったし才能がある方なので応援したくなります。出来上がった作品に限らず、普段話しをしていても、その才能につい拍手を送りたくなる時ってあるんですよね。石井監督もそういう方ですね。普通の常識の範囲に縛られてなくて良い意味で変わってるし(笑)、でもその発想がとても面白くて。そういう人だから「オリジナリティー」を発揮できるんだと思います。あと、『合葬』の小林(達夫)監督も時代劇なのに音楽の使い方が斬新で面白かったですし。最近では、片桐(健滋)監督もそうですね。オリジナルで『ルームロンダリング』という作品を書いて、映画だけではなくドラマシリーズとしても面白い作品を作っていました。片桐監督はサードかフォースでついた『血と骨』の時に出会ったのですが、崔洋一監督の元、一歩一歩地道に映画監督への道を切り開いて、オリジナルの脚本で映画を作ったなんて、素晴らしいじゃないですか。本当に成るべくして成った監督だと思います。だからこそ、自分に出来ることならなんでも協力したいし、とことんその作品のために身を削りたいと思います。自分も40代に入り、微力ながらも、若い作り手の方々の為になりたいとは思っていますね。自分が少しでも協力できることがあって、チャンスや裾野が広がるのであれば、利用できるだけ利用してもらえばいいと思っています。

『ある船頭の話』メイキング(c)2019「ある船頭の話」製作委員会

(取材・文=羽佐田瑶子/撮影=池村隆司)

作品情報

『ある船頭の話』

新宿武蔵野館ほか全国公開中
脚本・監督:オダギリ ジョー
出演:柄本明、川島鈴遥、村上虹郎/伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優/笹野高史、草笛光子/細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功
撮影監督:クリストファー・ドイル
衣装デザイン:ワダエミ
音楽:ティグラン・ハマシアン
配給:キノフィルムズ
公式サイト:http://aru-sendou.jp