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山崎育三郎は私たちを“新しい世界”へ導く 『エール』久志役に通じる、周囲に影響を与える求心力

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 “プリンス”が“プリンス”を演じる。NHK、攻めている。

参考:朝ドラ『エール』第36話では、裕一(窪田正孝)が早稲田応援歌「紺碧の空」の作曲を依頼される

 NHK連続テレビ小説『エール』は「音楽」がテーマということもあり、劇中でミュージカル俳優たちがその存在感を示している。中でも裕一(窪田正孝)の福島時代の幼なじみで、音(二階堂ふみ)の音楽学校の先輩でもある“プリンス”こと久志役の山崎育三郎が物語に与えるインパクトは非常に大きい。

 山崎育三郎とは一体どんな俳優なのか。そしてミュージカルの世界ではどんな活躍をしているのか。過去にインタビューした印象なども含めながら、その素顔を語っていきたい。

 じつは彼、子役時代から数えると俳優歴20年以上のベテラン。が、多くの人が山崎育三郎の名を知ったのは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウス役ではないだろうか。

 ミュージカルの金字塔『レ・ミゼラブル』は、1987年の日本初演以来、多くのスターを輩出してきた。映像作品で名前が売れていなくても、海外スタッフによるシビアなオーディションを勝ち抜けば大劇場で芯に立つチャンスがある作品。2007年、山崎はこのミュージカルで幼いころから憧れ続けたマリウス役を勝ち取り、以後、さまざまな作品で主要な役を演じることになる。

 『レミゼ』マリウス役に加え、モーツァルトからアメリカ兵、暗殺者に吟遊詩人、LGBTQの青年など、大舞台で多様な役を担い、ミュージカル界の“プリンス”として認知される山崎。事務所移籍後には映像作品でもしっかり爪痕を残してきた。

 2015年には『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ系)に第1話のゲストとして登場。このドラマで『エール』裕一の父・三郎役の唐沢寿明や窪田正孝とも共演し、同年の『下町ロケット』(TBS系)では佃製作所をあとにして、人工心臓弁の研究員として働くアツい男・真野賢作役を演じている。

 と、ここまで映像ではさほど強い色のあるキャラクターを演じることがなかった山崎だが、2016年「禁断の扉」を華麗に開け放つ。

 その「禁断の扉」とは「クセが強すぎるキャラ」。遠藤憲一主演の『お義父さんと呼ばせて』(カンテレ・フジテレビ系)では、有能・イケメンでありながら、空回りが甚だしく、突然踊りだす砂清水役を演じ、吹っ切れたキャラクターが話題となる。また、WOWOW制作のミュージカルバラエティ『トライベッカ』のコントコーナーでは、角刈りのオヤジからくるくるパーマのお母さん、酔っぱらった猫などブっ飛んだキャラクターを担当し、圧倒的なコメディセンスを見せつけた。

 この“プリンス”らしからぬクセが強すぎるキャラは、初主演ドラマ『あいの結婚相談所』(テレビ朝日系)藍野真伍役や、『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)の獅子丸怜二役にも繋がっていくのだが、特筆したいのは『昭和元禄落語心中』(NHK総合)の助六役だ。

 天才でありながら、生まれや育ち、素行の問題もあって落語界の王道から弾かれ、非業の死を遂げる落語家・有楽亭助六。誰にも負けない明るさと華があるのに、どこか寂しさや哀しさを背負うこの役を演じる山崎育三郎は最高だった。舞台では見ることのなかった泥臭さが映像ではしっかり活き、美しい口跡とキレのある発語で夭折の天才落語家をしっかり魅せた。

 何度か雑誌の取材でインタビューをさせてもらったこともあるが、作品や自分が演じる役に対してとても真摯に向き合っている人だと感じる。愛車に加湿器を積んでいるのももちろん喉のケアのためだろう。取材現場で出される飲み物のカップを持つしぐさがいつも綺麗なのも印象的だ。

 じつは山崎、ミュージカル界で指折りの「行動派」でもある。彼の誘いでクラシック界や声優業からミュージカルの世界に足を踏み入れた俳優も多く、城田優、尾上松也と結成した「IMY」では、将来、世界に通用するオリジナルミュージカルを作りたいと語る。また俳優たちがリモートで歌う「【Shows at Home】民衆の歌 / Do You Hear The People Sing ? – Les Miserables -」にも、発起人の上山竜治に加え、山崎の声がけで多数のミュージカル俳優が参加している。個人的な感覚だが、他の俳優にインタビューをした際、もっとも多く名前が挙がるのが山崎育三郎で、その求心力にいつも驚かされるのだ。

 『エール』第7週では音に音楽と向き合う勇気を与え、裕一との再会も果たした“プリンス”久志。今後も彼はふたりが進む音楽の道に多大な影響を与えていくのだが、その在り方は現場で周囲を巻き込み、新しい世界へ導く山崎育三郎自身の姿と重なって見える。

 山崎は4月から5月にかけてミュージカル『エリザベート』の東京公演で、“御手洗ミュージックティーチャー”役の古川雄大とともに黄泉の帝王・トートを演じるはずだった(新型コロナウイルスの影響により上演中止)。ミュージカル界の“プリンス”としての姿を劇場で観るのは少し先になってしまったが、そのぶん『エール』での活躍を楽しみにしたい。

 最後に久志、子ども時代の名言(?)を。「僕は存在感があるのに気配を消すのが得意なんだ」。さすがプリンス、ずっとブレない。(上村由紀)