Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を彩るオーケストラサウンドの魅力 アラン・シルヴェストリの音楽が生み出す“壮大さ”

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を彩るオーケストラサウンドの魅力 アラン・シルヴェストリの音楽が生み出す“壮大さ”

音楽

ニュース

リアルサウンド

 SF映画のクラシックとして映画史に燦然と輝く『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、宇宙船も巨大な敵も登場しない、1950年代の小さな町を舞台にした地味な物語なのに、エンターテインメント大作のような貫禄を感じさせるのは、オーケストラが奏でるゴージャスなサントラのおかげかもしれない。なかでも、メインテーマは一度聴いたら忘れられない躍動感溢れる曲だ。そんなサントラを手掛けたのは、ハリウッドを代表する映画音楽作曲家、アラン・シルヴェストリ。アランにとって『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、作曲家として世に出るきっかけとなった重要な作品だった。

(関連:『BTTF』を彩るオーケストラの魅力

 アラン・シルヴェストリはアイルランド系移民の母親とイタリア系移民の父親のもと、1950年にニューヨークに生まれた。幼い頃から音楽が大好きで、高校生の頃には独学で、ギター、ドラム、サックスなど様々な楽器を演奏することができたという。なかでもギターに惹かれたアランは、高校を卒業すると、名門バークリー音楽院に進学してギターを学んだ。60年代といえば若者文化が花開き、ロックンロールが大人気。高校時代にロックバンドに加入していたアランの夢はミュージシャンになることだった。そんなアランに思いがけない幸運が訪れる。ソウルグループ、ウェイン・コクラン&CCライダーズのラスベガス公演にギタリストとして参加しないか、と誘われたのだ。

 アランはすぐにベガスに向かい、ショービジネスの世界に足を踏み入れた。仕事は楽しかったが、バンドマンの仕事は自分に向いていないと悟ったアランは、作曲家やアレンジャーといった裏方の仕事に興味を持つ。そして、LAで仕事を探していたアランは、映画『ドーベルマン・ギャング』(1972年)のサントラをやってみないかと声をかけられた。当時、アランは楽器は弾けても、作曲については素人同然。でも、このチャンスを逃すまいと、映画音楽の作曲の仕方について書かれた本を買い、それを参考にしながらサントラを書き上げた。そして、その出来事がきっかけになってサントラの仕事が舞い込むようになる。必死の思いがアランの眠っていた才能を開花させたのだ。

 70年代、『刑事スタスキー&ハッチ』『白バイ野郎ジョン&パンチ』といった日本でも人気のテレビ番組や低予算映画のサントラを手掛けていたアランの運命を変えた作品が『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984年)だ。本作でアランは後に重要なパートナーとなるロバート・ゼメキス監督と出会う。また、本作はゼメキスの運命を変えた作品でもあった。というのも、ゼメキスはスティーヴン・スピルバーグから才能を高く評価され、スピルバーグの後押しで監督としてデビューしたもののヒット作に恵まれず、スピルバーグの『1941』(1979年)で脚本を手掛けるとこれも惨敗。その頃に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の企画を立てるが、ヒットが出せない監督の企画なんてどこの映画会社も取り合ってくれなかった。しかし、『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』がヒットしたことで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は動き出す。そこでゼメキスは『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』で意気投合したアランに声をかけた。ハリウッドで注目を集め始めた二人にとって、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は今後のキャリアを左右する勝負の一本だった。

 ジャングルを舞台にした冒険活劇『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』のメインテーマでは、ジャジーで都会的な音楽で主人公とヒロインのロマンスを際立たせたアラン。しかし、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では一転、大編成のオーケストラに取り組んだ。オーケストラにする、というのはゼメキスのアイデアだったようだ。ゼメキスはアランに「ビッグな音楽が欲しい」とリクエスト。それはこれまで低予算のサントラを作ってきたアランにとってハードルの高い要求だった。しかも、キャストの交代などトラブルが発生したためスケジュールは押していたし、アランは同時に『ファンダンゴ』(1985年)のサントラの作曲も手掛けていて、サントラの制作は時間との戦いだった。しかし、かつて本を読んで初めて映画音楽を作り上げたアランは、この難題にも果敢に挑戦した。

 アランは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を、気高い使命を持ったヒーローが、勇気を持って試練に立ち向かう壮大な物語と捉えてサントラ曲想を練ることにした。そこでアランが重視したのは、一度聴いたら印象に残る英雄的で勇ましいメロディを作ること。そして、生まれたのが有名なメインテーマだった。アランは98人編成のオーケストラ(当時、ユニバーサル・ピクチャーズが使うオーケストラとしては最大の人数だった)を指揮して録音に挑んだ。アランにとって、これだけ大規模なオーケストラを指揮するのは初めてのことだった。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のサントラを聴いて思い浮かぶのは、ジョン・ウィリアムズが手掛けた『スター・ウォーズ』(1977年)や『スーパーマン』(1978年)だ。アランが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を壮大な物語として捉えてオーケストラサウンドを考えた時、ハリウッドの映画音楽の巨匠、ウィリアムズのことが頭に浮かんだとしても不思議ではない。デロリアンに乗って過去の世界に向かうマーティンは、宇宙に飛び出していくルーク・スカイウォーカーのようなもの。どちらも、果たすべき大きな使命を抱えている。SF仕立ての学園ドラマと華麗なオーケストラサウンドがユニークなコントラストを生み出して物語に広がりを与える、というゼメキスの演出は成功。小さな町を舞台にした『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、「時空を超えたロマン」という大きな物語として観客に感動を与えた。そして本作以降、オーケストラサウンドはアランの音楽の特徴になっていく。

 『ロジャー・ラビット』(1988年)ではロンドン交響楽団を起用し、トム・スコットやハーヴィー・メイソンなど一流のジャズマンを使ってジャジーなサウンドを展開。『花嫁のパパ』(1991年)では「結婚行進曲」を織り込みながら、ストリングスが美しいメロディを奏でる。その叙情性をさらに際立たせたのが、アカデミー賞作曲賞にノミネートされた『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)だ。そうした艶やかなオーケストラ・サウンドを聴かせる一方で、『プレデター』(1987年)では管楽器を強調した重厚で緊迫感に貫かれたサウンドで聴く者を圧倒。このアクション路線はアランの得意とするところになり、『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』(2001年)、『アベンジャーズ』(2012年)など様々な大作で壮大なオーケストラサウンドを鳴り響かせた。そんななか、『アビス』(1989年)では合唱を効果的に使って神秘的なサウンドを生み出したりと、引き出しの多さもアランの魅力だ。

 アランのオーケストラサウンドの出発点となった『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。本作以降、アランはゼメキスの全作品のサントラを手掛けてきた。これまでアランは『フォレスト・ガンプ/一期一会』と『ポーラー・エクスプレス』(2004年)でアカデミー賞にノミネートされたが、どちらもゼメキスの作品だ。『マーウェン』(2018年)では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にオマージュを捧げたエピソードも出てきて、30年以上続く友情を確かめ合った二人。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の力強いメインテーマは、マーティンとドクのような最強のコンビが、世界へ飛び出していくファンファーレでもあったのだ。(村尾泰郎)