『JOKE』はコロナ禍と向き合った新しいドラマに? 宮藤官九郎×生田斗真×水田伸生への期待
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8月10日22時からNHKにて放送される『JOKE~2022パニック配信!』(以下、『JOKE』)は、脚本を宮藤官九郎が手掛け、生田斗真が主演を務める単発ドラマだ。
物語の舞台はポストコロナの近未来。漫才コンビ「俺んち」のボケ担当・沢井竜一(生田斗真)は不祥事を起こしてテレビのレギュラー番組をすべて降板。相方とも絶縁し、自宅に引きこもっていた。起死回生のために沢井はAIロボットを相方にネット配信で大喜利番組「俺んちチャンネル」をスタートするが、生配信中にかかってきた電話で状況が一変し、劇場型犯罪に巻き込まれてしまう。というのが、現時点でわかっているあらすじ。
ドラマは、芸人が配信するネット番組でのやりとりが45分間ノンストップで配信され、影像のほとんどは、生田の一人芝居になるという。柄本時生や松本まりかといった他のキャストも発表されているのだが、どのような形で登場するのかも注目である。
宮藤官九郎は、自身がパーソナリティを務めるTBSラジオ『ACTION』の中で、この企画は元々、去年の秋頃に考えたものだったが、実際に次々と芸人が不祥事を起こし、あまりにもタイムリーだったため、ちょっと置いておこうと、保留になっていたアイデアだったと語っている。不祥事は別にしても、確かに去年は、お笑い芸人やタレントが、YouTubeで自分の番組を立ち上げることが急増した年だった。ドラマの中にYouTuberが登場する作品も急増し、番組配信が一気に市民権を得た時期で、確かに企画としては一度、時代に追い抜かれてしまったものに感じる。
そんな経緯もあって企画を練り直して「いずれ映画にしよう」と宮藤は考えていたという。しかし、違う映画の台本を書いていた時に、現代を舞台にした作品で「三密」を意識すると書くことが難しいシーンが多く「やりづらいな」と思っていた時、この『JOKE』のことを思い出し「今ならできる」と思い6月後半に企画を改めて提案。そして、許可を待つ間に脚本を仕上げてしまったという。
本作の製作統括は訓覇圭。宮藤とは、連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)と大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(同、以下『いだてん』)を共に手掛けており、最近は坂元裕二脚本の、『リモートドラマ Living』を製作している。前述のラジオで宮藤は、今回の『JOKE』は、コロナ禍にNHKが作ってきたリモートドラマのノウハウが生かされているのではないかと語っている。
その意味で、物語もさることながら、一人の登場人物がずっと画面に登場して喋るという舞台テイストの映像にも注目で、リモートドラマとは違った形で、コロナ禍と向き合った新しいドラマになるのではないかと思われる。
面白いのは宮藤、訓覇と共に、チーフ演出としてNHKの朝ドラ『あまちゃん』、『いだてん』を手掛けた井上剛も先日、又吉直樹の脚本で『不要不急の銀河』(NHK総合)というコロナ禍を描いたドラマを手掛けたことだろう。
本作はスナック「銀河」を営む夫婦とその家族の物語なのだが、面白いのはドラマと共に制作過程をドキュメンタリーとして放送していたこと。そこでは番組スタッフが新しい撮影ガイドラインに沿った上で、いかに創意工夫をしているかが、克明に記録されており、ノウハウを残すという意味においても貴重なものとなっている。
『あまちゃん』『いだてん』を筆頭に、井上の演出した作品は、ドキュメンタリー性とファンタジー性を兼ね備えた虚実が融合したものが多く、綿密に取材を重ねてリアリティを追求すればするほど、幻想的な影像に仕上がっていた。
思えば訓覇が先日手掛けた『Living』も、物語自体は近未来を舞台にしたファンタジーテイストの作品でありながら、広瀬アリス&広瀬すずといった、実際の姉妹、兄弟、夫婦が出演しており、ファンタジーでありながらドキュメンタリー的な作品だった。
『JOKE』は生配信を題材にしたAIロボットの登場する近未来の話だが、本作もまた、虚実の入り混じったドラマとなるのだろう。そして作中には、宮藤自身がコロナウイルスに感染し、入院した時の経験や心情が反映されるのではないかと思われる。
最後に注目なのが、演出を担当するのが日本テレビ所属の水田伸生だということ。水田は坂元裕二脚本の『anone』(日本テレビ系)や、野木亜紀子脚本の『獣になれない私たち』(日本テレビ系)といった話題作を手掛けており、宮藤とはドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)などを手掛けている。水田が坂元裕二の脚本を演出した『モザイクジャパン』(WOWOW)など、日本テレビの制作会社アックスオンとNHKが共同製作をおこなう事例は近年増えているが、他局のクリエイターが組んだ作品としても貴重である。
『いだてん』チームが『不要不急の銀河』『JOKE』を作るという流れ、コロナ禍に対する作り手のアプローチは、リモートドラマを急ごしらえで作るという段階から、次のステージに入ったと感じる。作品内容はもちろんのこと、その製作手法もまた、要注目である。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
『JOKE〜2022パニック配信!』
NHK総合にて、8月10日(月)22:00〜22:45放送
作:宮藤官九郎
出演:生田斗真、柄本時生、松本まりか、岡部たかし、田村健太郎、一色洋平(声の出演)、佐々木史帆(声の出演)
制作統括:訓覇圭(NHK)、仲野尚之(アックスオン)、後藤高久(NHKエンタープライズ)
演出:水田伸生(アックスオン)
写真提供=NHK