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高校野球強豪校の“リアル”を描く『バトルスタディーズ』 根底に流れるアツい野球愛

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リアルサウンド

 高校野球漫画『バトルスタディーズ』が今、話題だ。『MAJOR』、『タッチ』、『Mr.FULLSWING』など、名作と呼ばれる野球漫画は少なくない。そんな中で本作品がひときわ異色な存在感を放つのは、実在の学校をモデルとして超リアルな野球生活が描かれているからだ。

 本作品の舞台はDL学園という名前の大阪の強豪校。そう聞いて高校野球好きはピンと来るだろう。そう、DL学園のモデルはPL学園だ。PL学園は全国優勝7回、100人に近い人数のプロ野球選手を輩出した、言わずとしたれた名門である。

 実際に、PL学園出身のプロ野球選手として名前があがるのは清原和博、桑田真澄、立浪和義、宮本慎也、松井稼頭央、福留孝介……と超大物ばかり。甲子園での熱い戦いぶりは有名で、例えば1998年、松坂大輔がエースの横浜高校との延長17回に及ぶ死闘は野球ファンならずとも聞いたことがあるのではないか。

 PL学園は厳しすぎる上下関係があることでも有名だ。数年に一度は上級生や監督による暴力事件が表沙汰となっていた。そうした出来事が続き、ついには2017年に日本高校野球連盟に脱退届を提出し、名門野球部は廃部となった。そんなPL学園の“リアル”を描いたのが本作『バトルスタディーズ』だ。

 主人公である狩野笑太郎ら1年生は、入学早々厳しすぎる上下関係や体罰にさらされる。そんな彼らの生活のなかで生々しく描かれている独特の規則は、本書の序盤の見所の1つだ。例えば、下級生が上級生の身の回りの世話をする「付き人制度」や、女性を見てはいけない、笑顔禁止、上級生への返事は”はい”か”いいえ”。これらの「鉄の掟」=規則はこれまで一般には知られなかった。

 作中で描かれるこれらの理不尽は決して読者をネガティブな気持ちにすることはなく、あくまでエンタメとして描かれているという点は人気の理由の1つだろう。主人公達の「なんでやねん」と読者の「なんでやねん」という気持ちはシンクロする。

 また、本作品のユニークなポイントの1つは、それらの作中の出来事が”ほぼ”事実に基づいていることだ。それもそのはず、作者であるなきぼくろ氏はPL学園の出身で、2003年の第85回全国高等学校野球選手権大会に出場した記録もある。

 現楽天イーグルスコーチの今江敏晃氏はなきぼくろ氏のPL入学時に3年生で4番を打っていた。単行本には収録された今江氏との対談が収録されているが、その中でなきぼくろ氏はしばらくは一切喋らず、”はい”しか言わない。もちろんこれはあくまでギャグではあるが、このような点にも作中の鉄の掟が現実にあったことを感じさせる。

 今江氏との対談の中で、なきぼくろ氏が語る印象的な一説がある。それは『僕はPLがホント大好きなんですよ。なんとかもう1回復活してもらいたいんです。「PLの野球ってカッコイイ」って思ってもらいたいんです!』という点。本作品の一番の魅力は、このような作者の野球愛、PL愛なのだ。この大きな愛はセリフの1つ1つに、躍動する選手達の一挙手一投足に現れている。

 作中のDL学園には不祥事を原因とした甲子園出場辞退および活動停止などの試練が訪れる。また、圧倒的な存在感のライバルによって行く手が阻まれる。そのような場面に出会うたびに、我々読者はDL学園を熱い心で応援してしまう。DL学園の内部事情は題材の1つではあるが、実のところはシンプルでアツい野球マンガなのだ。だからこそ、幅広い層の読者が本作品を愛している。

 本作品はPL学園の厳しすぎる内部事情や不祥事を核として描かれているが、決して暴露本的なものではい。理不尽な規則に「なんでやねん」とツッコミ(批評し)、笑えるエンタメ作品に仕上げられている。作者にとってこの描き方は、PL学園野球部の復活を願うものなのだろう。

 コロナ禍で高校野球の話題が上がらない今だからこそ、PL野球部をモデルとして熱い野球愛が描かれる名作を手にとってみてはいかがだろうか。

■嵯峨駿介
23歳でBass Shop Geek IN Boxを立ち上げ。楽器関連の他にグルメ、家電など幅広い分野でライターとして活躍中。Twitter:@SAxGA

■書籍情報
『バトルスタディーズ』(モーニング KC)
著者:なきぼくろ
出版社:講談社
出版社サイト