『半沢直樹』『Another』時を経て描かれた続編が上位にランクイン 文芸書ランキング
音楽
ニュース
週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(9月8日トーハン調べ)
1位 『転生したらスライムだった件(17)』伏瀬、みっつばー(イラスト) マイクロマガジン社
2位 『半沢直樹 アルルカンと道化師』池井戸潤 講談社
3位 『少年と犬』馳星周 文藝春秋
4位 『この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版』住野よる 新潮社
5位 『あの夏が飽和する。』カンザキイオリ 河出書房新社
6位 『Another 2001』綾辻行人 KADOKAWA
7位 『気がつけば、終着駅』佐藤愛子 中央公論新社
8位 『始まりの木』夏川草介 小学館
9位 『転生したら剣でした(10)』棚架ユウ、るろお(イラスト) マイクロマガジン社
10位 『異世界ゆるり紀行 子育てしながら冒険者します(9)』水無月静琉 アルファポリス発行/星雲社発売
10月の文芸書週間ランキング、注目の新刊が目白押しである。まずは池井戸潤氏の『半沢直樹 アルルカンと道化師』。いわずとしれた、テレビドラマ『半沢直樹』の原作である。2013年に放送されたドラマは1・2作目の『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』が原案。今年放送されたシーズン2は『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』を下敷きに構成され、先日迎えた最終回では、総合視聴率44.1パーセントという脅威の数字をたたきだし、7年経っても変わらぬその人気ぶりを見せつけた。
『半沢直樹 アルルカンと道化師』も、シリーズ6年ぶりの新作ながら、堂々2位にランクイン。「ドラマの続きが知れるのでは……⁉」とファンは期待しただろうが、描かれるのは『オレたちバブル入行組』より以前の物語で、シリーズの前日譚。つまり舞台は、ふたたび東京中央銀行大阪西支店に舞い戻る。
だが、がっかりはしないでほしい。時代はさかのぼるけれど、本作はこれまでとは一味違う、新しい半沢直樹を見せてくれる作品だ。その証拠に帯にはこう書いてある――「探偵半沢、絵画の謎に挑む。」。えっ、探偵? 銀行員じゃなくて? とぎょっとした方も多いだろうが、べつに転職したわけではない。あくまでも銀行員の立場から、謎を紐解いていく。
物語は、大手IT企業・ジャッカルが老舗の美術系出版社・仙波工藝社を買収しようとするところから始まる。社長が有名なアートコレクターだとはいえ、なぜ事業と関係のない出版社を? 買収を拒否する仙波工藝社に対し、負債を抱えてまで強引に話を進めようとするジャッカルに、疑問を抱く半沢。そしてその裏には「アルルカンと道化師」という、亡き芸術家のモチーフが関わっていることに気づく……。
著者の池井戸氏は、1988年に江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。もともと推理小説が原点の作家である(ちなみに同賞は、桐野夏生氏や野沢尚氏、『ルパンの娘』のドラマ化で話題の横関大氏などを輩出している)。半沢直樹の世界を舞台に、池井戸氏の本領が発揮される銀行ミステリー。シリーズのファンならずとも読まずにはいられない。
ミステリーとホラーの卓越した融合を見せた綾辻行人氏『Another』。こちらも7年という時を経て刊行された続編『Another 2001』が6位にランクイン。第1作目は、山崎賢人・橋本愛主演での映画化をはじめさまざまにメディアミックス展開され、海外でも高評価を受けたが、本作もその勢いに負けてはいない。800ページ以上の大作ながら、発売直後から書店では売り切れ続出。10月12日には公式ツイッターで大重版が告げられた。
前作を読まずとも十二分に楽しめる仕掛けが満載の同作だが、前提を軽くおさらいをしておこう。夜見山北中学校の3年3組には、毎年、とある申し送りがされていた。始業式の日、座席がひとつ足りなければそれは〈ある年〉。死者がクラスにまぎれこみ、〈対策〉をとらなければ〈災厄〉が起こり、クラスメートとその関係者たちが次々と死を遂げていくというのだ。誰が死者かはわからない。記憶も記録も、知らず改竄され、誰も気づくことができないという不可思議な現象。そう――この〈災厄〉は呪いではなく、現象なのだ。誰かの恨みや憎しみに端を発しているわけではないから、対策をとるくらいしかできない。そして失敗すれば、死ぬ。
実に理不尽だが、ある程度決められたルールにのっとり、生徒たちは抜け穴をくぐるようにして生き延びようとする。そのひとつが、死者のかわりに、誰かひとりを〈いない者〉としてしまうこと。クラス内では徹底的に無視して、存在を消し、一人増えたという事実をなかったことにしてしまうのだ。
第1作目の『Another』で、いない者となったのは眼帯の美少女・見崎鳴だった。そして本作では、番外編にあたる『AnotherS』で鳴と出会い、ある事件に遭遇した3歳下の少年・想が主人公。鳴の助言をうけながら、2001年の3年3組に発生した〈現象〉に立ち向かう……。
叙述トリックをはじめ、本格ミステリを代表する作家としてあらゆる驚きとどんでん返しを駆使し、読者を魅了した1作目。同じ設定で、今度はいかにして読者を欺くのか? 史上最凶の災厄、という煽りコピーに期待は募るが、驚くべきことになんと、同作では物語の序盤で死者が誰かが明かされてしまう。えっ、それでどうこのあとの物語を展開させるの……? と思うかもしれないが、この年初の試みとなる、ある対策が、現象を奇妙にゆがめていく。800ページ、ノンストップで読み切ってしまうこと間違いなし。待った甲斐ありの新作に隠された真実を、ぜひ自身で確かめてみてほしい。
■立花もも
1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行い、現在「リアルサウンドブック」にて『婚活迷子、お助けします。』連載中。
あわせて読みたい
【コラム】半沢直樹とヨルシカ、それぞれの「盗作」と「模倣」
【書評】直木賞受賞作 馳星周『少年と犬』
【インタビュー】住野よる『この気持ちもいつか忘れる』
【インタビュー】綾辻行人『Another 2001』(近日公開予定)