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『キング・オブ・メディア』と『ウォッチメン』は裏表の存在? 識者が語り合う2020年の海外ドラマ【前編】

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リアルサウンド

 今年のエミー賞受賞作品も発表され、2020年もそろそろ総括期に突入する。新型コロナウイルスの流行により、映画やドラマの現場が多大な影響を受けているなかでも、数々の名作が生まれた年だった。そんな2020年の名作をチェックする上で欠かせないのが、Amazon Prime Videoチャンネルの‎「スターチャンネルEX -DRAMA &CLASSICS-」だ。米国HBOの作品を筆頭に、海外で熱い注目を集めている最新先鋭のドラマを日本最速で続々配信している。

 今回、2020年のうちに観るべき海外ドラマについて、映画・海外ドラマライターの今祥枝氏、海外テレビシリーズウォッチャーのキャサリン氏、映画プロデューサー・コラムニストの田近昌也氏を迎え、ライターの麦倉正樹氏の進行のもと座談会を実施。9月に発表された第72回エミー賞の結果を軸に、‎「スターチャンネルEX -DRAMA &CLASSICS-」で配信中、また「BS10 スターチャンネル」で放送予定の作品から、2020年の海外ドラマシーンの傾向について語り合ってもらった。(編集部)

コインの裏表にある『キング・オブ・メディア』と『ウォッチメン』

――今回は「2020年のうちに観るべき海外ドラマ」ということで、みなさんにいろいろと聞いていきたいのですが、まずは9月に発表された第72回エミー賞関連のものから……最も注目されるドラマ部門は、『キング・オブ・メディア』(HBO)のシーズン2が、作品賞をはじめ7部門を受賞しました。

今祥枝(以下、今):まず、今年のエミー賞全体の話からすると、昨年の『ゲーム・オブ・スローンズ』(HBO)の盛り上がりに比べると、コロナの影響で授賞式がリモートになったというのもあって、全体的にやや盛り上がりに欠けたかなという印象はありましたよね。ただ、今回作品賞にノミネートされた8作品の中では、やっぱり『キング・オブ・メディア』だったかなっていうのは、個人的にも思っていたところではありました。

キャサリン:『キング・オブ・メディア』の作品賞受賞は、私自身、シーズン1から2年越しで応援していた作品だったので非常に嬉しかったんですけど、『ゲーム・オブ・スローンズ』のあとは、HBOだったら『キング・オブ・メディア』だよねっていうのは総論としてあったような気がしていて。だから、あまりネガティブな意見は見なかったというか、ジェレミー・ストロングが主演男優賞を獲ったことも含めて、みんな「これでしょう」っていう納得の受賞だったと思います。まあ、白人の裕福な人たちの物語なので、リミテッドシリーズ(1シーズンで終わることがあらかじめ決まっているシリーズ)部門の作品賞を『ウォッチメン』(HBO)が受賞している中で、「それはどうなの?」っていう声も、ちょっとあったみたいですけど……。

――『キング・オブ・メディア』は、メディア王=ルパート・マードックをモデルとした富豪一族の物語なので、基本的には白人のドラマであるという……。

田近昌也(以下、田近):“ブラック・ライブズ・マター(BLM)”や“#MeToo”のムーブメントがあって、今これだけエスニックマイノリティとジェンダーの問題がアメリカ社会で議論の中心になっているにもかかわらず、『キング・オブ・メディア』が受賞したというのは、やはり単純に、ドラマとして評価されたということだと思うんですよね。そういう意味ではブレてないなというのは思いました。

今:ただ、『キング・オブ・メディア』のクリエイターであるアダム・マッケイと彼の制作会社ゲイリー・サンチェス・プロダクションは、その前に『バイス』という映画を手掛けていて、ディック・チェイニーとブッシュ大統領の話なので、白人の物語ではあるんですけど、「アメリカを支配している白人っていうのは、こんなにひどいんだよ」というか、今のアメリカのひどい状況を作ってきたのは誰かっていうと、こういうひどい白人たちなんだよっていう皮肉の効いた作品であるように、私は受け取って。そこがすごい面白いなと思うんです。いわゆるブラックコメディというか、白人のエスタブリッシュメントたちの笑えないコメディっていう。結局、メディアの世界もそういう人たちが牛耳っている世界であるというのは、またひとつの現実ではあるのかなと。

――なるほど。BLM的なものと、実はコインの裏表の関係にあるというか。そして、今話にも出てきた『ウォッチメン』ですが、こちらはリミテッドシリーズ部門の作品賞をはじめ、最多11部門を受賞しました。

今:『ウォッチメン』のクリエイターであるデイモン・リンデロフのことは、『LOST』(ABC)のときよりも、そのあとに作った『LEFTOVERS/残された世界』(HBO)というドラマがすごい作品で。個人的には、そこでリンデロフのすごさを思い知ったところがあったんですけど、彼がその次に『ウォッチメン』を作るっていうのは、正直意外な感じがしてました。それが吉と出るか凶と出るか、まったく読めなかったんですけど、結果的には素晴らしかったですよね。

田近:スーパーヒーローとマイノリティの問題はすごく相性がいいというか、それは映画の世界でも『ブラックパンサー』だったり『ワンダーウーマン』で証明されていることだと思うんですけど、『ウォッチメン』は、そこからさらにもう一歩踏み込んだ作品になっていて……ただ、それを全9話のリミテッドシリーズというフォーマットで作ることに、ちょっと驚いたところはありました。

キャサリン:リンデロフ自身、「まだ続くかもね」みたいなことを言ったりしているみたいなので、これで本当に終わりなのか、ちょっとわからないところはありますよね(笑)。ただ、今は『ゲーム・オブ・スローンズ』のように、8シーズンとかやるドラマって、あんまり出てこないような気がしていて。今はもう動きが速すぎて視聴者もついていけないというか、リミテッドシリーズのほうがありがたいみたいなところが、私個人としてもちょっとあったりするんですよね。だから、それこそ海外ドラマを最近観始めましたっていう人には、すごいちょうど良いドラマだったっていうのはあると思います。

“歴史改変もの”で描かれる今のアメリカ

――『ウォッチメン』に関しては、そのあと新型コロナが流行して、実際にマスク警官が現れたり、黒人に対する暴力事件が多発するなど、ちょっと予言的なところもありましたよね。

今:最初にアメリカで放送されたのは、去年の10月とかだったかな? ドラマは最初、1921年のタルサ暴動から始まるわけですけど、その時点では「この題材で人種問題をやるんだ?」って思ってしまったんですよね。『ウォッチメン』を、わざわざタルサ暴動から始める必要もないわけで。ただ、その後のアメリカの状況を見ていると、それがいかに予言的で正しかったかっていう……そこは本当にすごいなと思ったし、あとこれはリンデロフがインタビューで言っていたことなんですけど、「政治的にどちらか一方に偏った状態というのは、いいとは思わない」と。このドラマは、リベラル政権が何十年も続いたら世界はどうなるのかといった、“歴史改変もの”の面白さもあるじゃないですか。そこがすごく現代的だなと思ったんですよね。

――そう、“歴史改変もの”というのは、昨今ちょっとしたトレンドになっていますよね。

今:そうですね。今のアメリカの不安な状態を、歴史を振り返ることによってもう一度考え直そうというか。『ウォッチメン』は、そういうところにもリーチしているドラマだと思うし、そういう意味では『プロット・アゲンスト・アメリカ』(HBO)にも通じるところがあると私は思っていて。こちらも、一方が絶対的な悪で、そうでない方は善であるといった単純な図式ではないところに帰結するドラマだったので、そこは『ウォッチメン』と繋がるところがあって、非常に興味深く観ました。

――“歴史改変もの”の流行については、以前田近さんも記事を書かれていましたね(参考:ハリウッド映画やドラマで“歴史改変もの”増加の理由 3つのトピックと社会的背景から読み解く)。

田近:やはりそのあたりトピックというのは、最近結構増えていますよね。あと、そこで思ったのは……特にアメリカの場合ですけど、大統領の存在が非常に大きいんですよね。いわゆる“歴史改変もの”って、「ケネディが暗殺されなかったら?」とか「史実と違う人が大統領になっていたら?」とか、そういうものが多いと思うんですけど、ひとつの時代を象徴するものとして、やはり大統領がすごく重要であるというか、大統領が変わるだけで、どれだけ国が変わるのかっていう。それは日本にはない感覚で、面白いなと思います。

――確かに、『プロット・アゲンスト・アメリカ』も、「ルーズベルトではなく、反ユダヤ親ナチスのリンドバーグが大統領になったら?」という話で、すごく面白かったですよね。

今:そうなんですよ。ただ、『プロット・アゲンスト・アメリカ』は、今回のエミー賞では撮影賞しかノミネートされてないんですよね。そこが個人的には、今回のエミー賞の若干不満なところではありました。

キャサリン:それを言ったら、今回いちばん謎だったのは、『DEUCE/ポルノ・ストリート in NY』(HBO)ですよね。あのドラマも『プロット・アゲンスト・アメリカ』と同じプロデューサーが関わっていて……私の好みは、完全に『DEUCE』のほうなんですけど、こんなに素晴らしいドラマが、どうしてエミー賞にまったく絡んでこないんだっていう。

今:そう、デヴィッド・サイモンのプロデュース作品は、私も本当に好きで、『THE WIRE/ザ・ワイヤー』(HBO)、『ジェネレーション・キル』(HBO)、『トレメ』(HBO)……もう、本当に全部素晴らしいんですけど、一部を除いてはエミー賞にはあまり縁がない感じで。『DEUCE』のシーズン3なんて、もう最高だったじゃないですか。最終回とか号泣ですよ(笑)。賞を獲ることがすべてではないというか、そういう賞を獲らなかった傑作というのは、全然あるわけで……さっき言ったリンデロフの『LEFTOVERS/残された世界』もそうだし、挙げ出したらキリがないですよね。だからと言ってエミー賞自体を否定する気は1ミリもないんですけど、「何でノミネートもされないの?」っていうドラマは、やっぱり毎回ありますよね。

『ウエストワールド』と『TENET テネット』、ノーラン兄弟の活躍

――受賞に至らなかったということであれば、今回11部門にノミネートされながら、結局1部門も獲らなかった『ウエストワールド』のシーズン3は、いかがでしたか?

田近:『ウエストワールド』は面白いし、現代っぽいテーマなのに、他のものに押されてちょっと残念なことになっているなっていうのは、僕も思っていて。あのドラマは、歴史的背景などの予備知識なしに、いきなり入っていける大作なので、もっとたくさんの人に観てもらいたいですよね。

今:私も『ウエストワールド』は、非常に面白い作品だと思っていて、重厚感とリアリティのある映像世界の作り込みが、本当に素晴らしいドラマなんですよね。個人的にはシーズン1があまりにも完璧過ぎたというか、あの最終回を超えるシーンがあるだろうかって思うぐらい感動してしまったので、それ以降のシーズンは、ちょっと引いて観てしまっているところがあるんですけど、要は自我の探求ですよね。自分とは何かというその意識とか、どこでそれが芽生えていくのかっていう探求の過程を、ああいう形で見せてくれて、しかも、あのラストの幕切れの素晴らしさ……もう完璧なわけですよ。まあ、まだまだ続くようなので、次のシーズンが始まったら観ますし、それはそれで愉しみではあるんですけど(笑)。

――キャサリンさんは、今回のシーズンも結構推していましたよね。

キャサリン:私は結構好きでした。ただ、シーズン1、2、3で、見え方が全然違うドラマだったなっていうのは思っていて……正直、それぞれが独立した別の話のように感じているところはあるかもしれないです。で、今さんがおっしゃる通り、シーズン1はホント完璧過ぎたなって私も思うんですけど、今回のシーズン3だと、すごく現実にリンクしてきたところというか、SFが現実に寄ってきたのか、現実がSFに寄ってきたのか、わからない感じになってきたところが面白かったなって思っていて。『ウエストワールド』は、2016年に放送が始まって、そこで打ち立てた世界観を広げていっている感じだと思うんですけど、コロナのこともあって、現実のほうがあまりにも速く変化してしまったというか、彼らが当初描きたかったであろう10年後ぐらいの世界が、いきなりきてしまった感じがちょっとあるんですよね。そういう面白さが、今回のシーズンにはあったように思いました。

――『ウエストワールド』のテーマは、“決定論と自由意志”だと思いますが、それもまた昨今のトレンドのひとつというか、それこそ『ウエストワールド』のクリエイターであるジョナサン・ノーランの兄であるクリストファー・ノーランの映画『TENET テネット』などにも通じるところがありますよね。

今:そのあたりもトレンドになってますよね。アレックス・ガーランドが今年作った『Devs』(FX)というドラマも、まさに自由意志をめぐる話だったし、実際そういう研究も、現実世界で進んでいるわけじゃないですか。そのあたりのことを誰よりも速くやっているのがノーラン兄弟っていうのは、ちょっと面白い話ではありますけど。

※後編(参考:マーク・ラファロ主演作からジョーダン・ピール最新作まで! 識者が語り合う2020年の海外ドラマ【後編】)では、前編で語りきれなかった各識者たちの一押しの作品や、現在独占配信中のスターチャンネルの最新作から、来年の海外ドラマシーンへの展望についてお届けする。

■スターチャンネルEXにて配信中の作品
『ウォッチメン』
(c)2019 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

『プロット・アゲンスト・アメリカ』
(c)2020 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

『DUCE3/ポルノストリート in NY』
(c)2019 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

『ウエストワールド シーズン3』(吹替版)
(c)2020 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 『アウトサイダー』
(c)2020 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

『ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』
(c)2020 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

『WE’RE HERE ~クイーンが街にやって来る!~』
(c)2020 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. All Rights Reserved.

『ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤』
(c)2019 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

『ビカミング・ア・ゴッド』
(c)2019 Sony Pictures Television Inc. and Showtime Networks Inc. All Rights Reserved.

『ペリー・メイスン』
(c)2020 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc. All Rights Reserved.

『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』
(c)2020 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS:https://www.amazon.co.jp/channels/starch

■放送情報
『キング・オブ・メディア2』                   
STAR3 吹替版
BS10 スターチャンネルにて、11月19日(木)より毎週木曜22:00〜放送ほか
(c)2018 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

BS10 スターチャンネル:http://www.star-ch.jp