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『この恋あたためますか』ではバランサーとしての手腕にも期待 2020年の中村倫也の歩みを振り返る

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リアルサウンド

 「彼の時代が来た」と言って、差し支えないだろう。2005年の俳優デビューから、15年。俳優・中村倫也は近年、ますます絶対的な存在になりつつある。映画・テレビドラマ・CM・雑誌や看板、中吊り広告など……彼の姿を見ない日は、もはやないのではないか。

 10月20日からは、ドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)が放送開始。新作映画の情報も続々と発表されている。新型コロナウイルスの影響で公開スケジュールに変動は生じたものの、2021年の視界も、非常に良好だ。

 今回は、改めて2020年の中村倫也の歩みを映画・ドラマを中心に振り返りつつ、来年の活動も紹介していきたい。

 神木隆之介、浜辺美波と共演した映画『屍人荘の殺人』が前年の12月半ばに劇場公開されたため、実質年をまたぐ形で、2020年の中村の活躍が始まった。2月には、実写『るろうに剣心』シリーズなどで知られる大友啓史監督による意欲作『影裏』が公開。芥川賞に輝く同名小説を、綾野剛と松田龍平の共演で映画化したヒューマンミステリーだ。

 本作は、会社の転勤で岩手・盛岡に移り住んだ青年(綾野剛)が、その地でかけがえのない友(松田龍平)と出会うも、彼が失踪してしまう――という物語。親友が消えた真相を探るうち、主人公は彼の意外な素顔を知っていく。文学的なにおいの漂う静謐な作品だが、中村は主人公の過去を知るキャラクターを艶やかに演じ切った。詳細はネタバレとなるため控えるが、限られた出演時間の中で、主人公の過去全部を引き受けるポジションを任せられるのは、流石といえよう。本人もTwitterで「この役は、とてもとても難しかった。繊細に演じました」と振り返っている。

 3月には、ドラマスペシャル『不協和音 炎の刑事 VS 氷の検事』(テレビ朝日系)が放送。人気俳優・田中圭と「生き別れの兄弟」を演じ、話題を集めた。タイトル通り、刑事と検事になった兄弟が、ぶつかり合いながらも難事件に向き合っていく。中村は東大卒のエリート検事をクールに演じつつ、兄の前では感情をむき出しにするという、演技の幅の広さが求められるポジションを的確にこなしている。2019年の映画『美人が婚活してみたら』では、ヒロインを悩ませるふたりの男性を演じていた両者だが、“直接対決”が叶った格好だ。ちなみに両者は先日、ゲームアプリ「ドラゴンクエストウォーク」のCM&特別WEBドラマでも再共演した。

『ドラゴンクエストウォーク』1周年記念ドラマ「life with WALK -嘘つきの兄篇-」

 4月には、主演ドラマ『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)が放送開始。『東京タラレバ娘』や『かくかくしかじか』で知られる人気漫画家・東村アキコによる同名漫画の実写化となり、美食家で御曹司の私立探偵が、食にまつわる難事件に挑んでいくミステリーだ。えんじ色のジャケットにループタイという原作を再現した衣装に身を包み、超然とした(それでいて、育ちの良い)キャラクターを好演した中村。彼の所作や、声色といった役者としてのテクニシャンな部分も堪能できる作品となった。余談だが、コロナ禍の混乱のさなか、ファンにとっては貴重な安らぎの場にもなったのではないか。

 6月には、主演映画『水曜日が消えた』が公開。こちらでは、衝撃の「1人7役」に挑戦している。1人の人間の中に「曜日ごとに異なる7つの人格」が存在する、という設定で、多彩な演じ分けを披露。主人公は各曜日の中で最もおとなしい“火曜日”。ある朝、彼が目を覚ますと、いつも通りの1週間後の火曜ではなく、翌日の水曜になっていた。“水曜日”はどこに消えてしまったのか? 彼の捜索が始まる。

 トリッキーな設定が示す通り、かなりの理解力と表現力を求められる役どころで、すべてが順撮り(台本の順番通りに撮影していくこと)でもないため、並の役者であれば混乱してしまいそうなチャレンジといえるが、中村は持ち前の演技力で見事にクリア。1日のうちに7役全部を演じ分ける離れ業もやってのけたという。

 8月には、所属事務所「トップコート」の菅田将暉と組んで、楽曲「サンキュー神様」をリリース。ミュージックビデオには松坂桃李も出演し、きずなの強さをうかがわせた。

 9月には、新たな主演映画『人数の町』が公開。こちらもかなり凝った設定になっており、「社会からこぼれ落ちた者たちが集められた“町”」を舞台にした、シニカルなディストピアものになっている。その町に流れ着いた主人公は、「ネットに口コミを書き込む」「他人に成りすまして投票する」などのバイトと引き換えに、衣食住を保障されるのだが……。

 主人公の過去がほとんど描かれない本作で、中村は「常に状況に新鮮に“反応”し続ける」という演技を披露。当初は流されるままに過ごしていたものの、運命の出会いによって「大切な人を守りたい」という感情が芽生えていく主人公の変化を、鮮やかに演じ切った。

 ちなみに、当初5月→『水曜日が消えた』、6月→『騙し絵の牙』が公開予定、6月から7月→舞台『ケンジトシ』が上演予定(『騙し絵の牙』は、2021年公開予定に変更、『ケンジトシ』は公演延期)だったと考えると、まさに大車輪の活躍。ちなみに『騙し絵の牙』では、大手出版社の跡取り息子に扮している。

 そして、10月からは『この恋あたためますか』が放送。本作では、業界シェア最下位のコンビニチェーンを立て直そうと孤軍奮闘する新任の社長(出向する形)に扮しており、「頭が悪い」「猿真似だ」「ゴミですね」と辛らつな言葉を部下に浴びせつつ、「君が必要だ」と主人公に訴える真摯な姿勢や、「スイーツは見た目もおいしくなければならない」と情熱を燃やす仕事人間の顔も見せる。

 第1話の段階では、かなりの長ゼリフをよどみなく言い切るなど、どっしりした安定感で作品のアンカー的ポジションも担っており、バランサーとしての彼の手腕にも期待がかかる。

 以上が、現在までに公開・放送されたもののざっとした紹介だが、最後に今後の中村の出演作について紹介しよう。まずは、12月に映画『サイレント・トーキョー』が公開。こちらは、『アンフェア』の原作などで知られる秦建日子の小説を、『SP』シリーズの波多野貴文監督が映画化したサスペンス。連続爆弾テロ事件を描くストーリーとなっており、中村は容疑者役の佐藤浩市、刑事役の西島秀俊らと共演。不可解な行動をとるIT起業家に扮し、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。

 12月にはもう一本、テレビドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)の放送が控える。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの人気キャラクターによるスピンオフであり、主人公の露伴を演じるのは高橋一生。中村は、事故で記憶を失った写真家の役に挑戦。情報解禁の際には、Twitterのトレンド入りを果たすなど、耳目を集めた。今年の最後まで、中村は楽しませてくれることだろう。

 年明け早々の1月には、ナレーションを務めた映画『劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族』が公開。動物好きの中村×猫という夢の組み合わせは、ファンには堪らないのではないか。さらに、弁護士に扮した映画『ファーストラヴ』も公開予定。堤幸彦監督、北川景子、芳根京子らと共演する。原作は直木賞に輝いた島本理生によるベストセラーとなる。

 また、公式発表ではないため推測の域を出ないのだが……最後に一つ。12月公開の映画『私をくいとめて』における、主人公の脳内の相談役「A」の声が、中村ではないか?ともっぱらの噂だ。本作は、『勝手にふるえてろ』の原作者・綿矢りさと大九明子監督が再タッグを果たし、のんと林遣都が共演した話題作。大九監督と中村は『美人が婚活してみたら』でも組んでおり、さてどうなるか。発表を待とう。

 苦労の下積み期間を過ごし、大輪の花を咲かせた中村倫也。勢いに乗る彼が、今後どのような“夢”を見せてくれるのか。今年の残りから来年にかけても、目が離せない。

■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter

■放送情報
『この恋あたためますか』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:森七菜、中村倫也、仲野太賀、石橋静河、飯塚悟志(東京03)、古川琴音、佐藤貴史、長村航希、中田クルミ、佐野ひなこ、利重剛、市川実日子、山本耕史
脚本:神森万里江、青塚美穂
プロデュース:中井芳彦
演出:岡本伸吾、坪井敏雄
主題歌:SEKAI NO OWARI「silent」(ユニバーサルミュージック)
製作著作:TBS
(c)TBS